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不可思議新聞  作者: 秋実
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第1章ー②:水野幹

パンフレットの地図によれば、本部は車で2時間ぐらいの人里離れた丘の上にあるとの事だった。

駐車場に車を止め、降りてみると目の前の丘の上には大きな塔がそびえ立っており、

「この水野幹は昔、廃園となった観光地を再利用しているらしい。あの塔の横に見えるのが本部だそうだ、行くぞ、少年」

明智さんはそう言うと舗装された坂道を上って行った。

「あっ、待って下さいよ~明智さん~」

ボクも急いで後を追いかけた。

途中、出会った信者たちはボク達に出会うたびに挨拶をしてくれた。

「ここだ」

本部前へと到着すると、入口で信者に指示をしていたスーツ姿の男性がこちらに気が付き、近づいて来た。

「おや、あなた方は?」

「取材約束をしている、新聞社の明智だ」

「そうでしたか、私、ここの管理責任者兼教祖様の秘書をしております-青木と申します。で、その子は」

「ああ、私の助手だ。気にするな」

「そうですか、確認いたしますので、少しお待ちくださいね」

男は持っていたタブレットで操作した。

「ああ、確かに御約束しておりましたね。不可思議新聞さんですね。教祖瀬戸内様の力は本物です。ぜひとも、すばらしい記事をお願いしますね」

「本物かペテンかはこちらで判断する。私たちは只、真実を求め、書き伝えるだけだ」

「・・・そうですか。そしたら是非とも私たちの教団の素晴らしさを体験して下さいませ」

「そのつもりだ、宜しく頼む、青木さん」

「では、こちらへどうぞ」

青木さんは建物内へと入って行った

「行くぞ、少年」

「あっ、はい」

建物内を進む間、青木さんが教団について説明してくれた。

「我が教団は、教祖瀬戸内様を筆頭に悩みを抱えた人々を救う活動を行っております」

「信者たちが運んでいるのは?」

「それは、我が教団の源-輪廻水です。瀬戸内様の神通力を込めた媒介を湧水と合わせ三日三晩漬ける事で完成いたします。そして、輪廻水を飲み続ける事でその人の罪は洗い流されます。さぁ、到着いたしました」

通された部屋は薄暗く、多くの信者が座って水を懸命に飲んでいた

「これは?」

「教祖瀬戸内様にお会いする為の前段階です。こちらの水を一息で飲み干して下さい」

青木さんはそう言うと500mlのペットボトルをボク達に手渡した。

「では、飲み終えたらここでお待ち下さい」

そう言うとどこかへと行ってしまった

「どうします、明智さん」

ボクが明智さんの方を向くと、彼女は蹲って何かをしていた

「あ、明智さん、何をしているんですか」

明智さんは水をスポイトで吸い取ると何かの機械の上に数滴落とした。

「pH6.6か・・・ほぼ中性。少年」

「はい、なんですか」

「どうやらこの液体は、pH6.6でほぼ中性、常温で無色透明・・・つまり水かもしれないしそれ以外かもしれない、取り敢えず人気のない所で捨てておいてくれ」

「はぁ~、わかりました」

ボクは言われた通り、人気のない所で窓から水を流し捨てた。

明智さんの元に戻る途中、一人で腰かけ、溜息をついている爪を齧る青年が眼に入った。

青年はボクに気づくと齧るのを止めた

「あっ・・・こんにちは・・・」

「どうも・・・君は?」

「僕は村上直人・・・」

「どうして、こんな人気のない所に?」

「それは・・・、いえ、すみません。失礼します」

村上と名乗ったその青年は、そのまま、どこかへと急いで行ってしまった

(「なんだったんだろう・・・」)

腑に落ちなかったが取り敢えずボクは明智さんの元へと戻った。

「お待たせしました、明智さん」

「すまんな、少年」

「いえ、それよりもいいかげんボクの名前を・・・」

「皆さんお待たせいたしました。教祖―瀬戸内乃海様が皆さまにお会いいたします。私について来て下さいませ」

青木さんが皆を案内した。

そして、とある部屋へと案内された。

お香りが焚かれた温かい部屋に入ると一人の老婆が前の方に座っていた。

「・・・皆さん、恐れずにお座りなさい。さぁ、どうぞ・・・」

ボク達は後ろの席に座った

「それでは、皆さま、ご自身のお悩みを目の前の紙に書いて封筒に入れて下さい。それを、瀬戸内様が心を読んで罪を洗い流してくれます」

ボク達は青木さんに言われた通りに取り敢えず筆を持って書いた。

「明智さん・・・」

「ん?どうした少年」

「わざわざ心が読めるのにどうして、書くんでしょうか?」

「もしかしたら、ここに秘密があるのかもな。それよりも少年、書き終えたのか」

「はい」

「ほぉ~、達筆だな」

「習字をやっていたもので、字には自信があるんですよね」

ボクは自慢げに言った

「それでは、書き終えた方は集めますので、提出して頂きます」

そしてボクらは封筒を渡した。

「それでは、教祖瀬戸内様、お願いいたします」

「・・・」

瀬戸内さんは一枚封筒を手に取るとゆっくりと表面をなぞった。そしてしばらくすると静かに言った。

「中村・・・静江さん・・・」

「は、はい」

長袖に手袋を付け、帽子をかぶった細身の女性が返事をした

「あなたは、今・・・病気に苦しめられていますね」

「はい・・・分かるんですか」

「ええ、貴方の書いた文字に秘められた心の軌跡から恨みが感じられます」

「恨み・・・まさか・・・」

「お心当たりが御有りですね、お姑さんをイジメましたね」

「い、いやぁ~!!」

中村さんは悲鳴を上げた

「流しましょう、貴方の罪を・・・全ては水へと帰るのです」

そして瀬戸内さんは封筒を開き、中身を確かめると次の一枚を取り出し同じ様に名前を読んで書いた中身を当てていった。

そして、とうとうボクと明智さんだけが残った。

「これは、これは・・・明智円さん」

「はい」

「私の能力をペテンかどうか暴き、真実を探求する」

明智さんの内容に周りにいた人達が一斉に明智さんを見た。

「ああ、そうだ」

「出来るといいですね・・・」

「私は数多くの真実を見つけてきた。安心しろ」

「・・・。では、最後は、そこの貴方ですね」

瀬戸内さんはそう言うとボクの方を見た

「これは、とても達筆な文字ですね・・・。そうですか、あなたは自分の背の低さと異性にモテないに悩んでいるんですね」

(「うっ・・・当ってる・・・」)

ボクの身長は成年男性にしては165cmと同世代と比べ小さい。

明智さんは呆れた顔をしながらボクの方を見ていた

「大丈夫ですよ、小さくても貴方の魅力があれば、運命の人は現れますよ」

今度は周りの信者たちが笑いをかみ殺し、肩を震わせていた。

ボクは少し恥ずかしくなった。

瀬戸内さんはボクの封筒を置くと両手の母指を小指を合わせ‘’蓮‘’の形を作ると口元に掲げ、静かに言った。

「今日の皆さんの罪は流されました、これからも罪を流して行きましょう。いつか水に戻るその日まで」

瀬戸内さんはそう言うと青木さんが言った

「皆さん、瀬戸内様と同じ様に蓮の手を作って、ご一緒に復唱下さい。‘’水から水へ、自ら水へ‘’と」

「それでは皆様行きますよ・・・」

「「「水から水へ、自ら水へ」」」

そして、瀬戸内さんへの謁見は終了し、ボク達は最初に案内された部屋に戻った。

「凄いですね・・・瀬戸内さんの能力」

「少年・・・本当にそう思うか?」

「えっ、明智さんは違うと思うんですか」

「ああ、あれはトリック、ペテンの一種だ」

「ペテンの一種ってどういう事ですか?」

「まず、最初の中村静江さんの悩みを当てたのは、単純な推理だろう。彼女はあの温かい室内で帽子、手袋、長袖を付けていた。だから何かの病気ではないのかと考えた。・・・コールドリーディングと呼ばれる手段だ」

「でも、それ以外の人達は?一体どうやって」

「ほら、中村静江さんの悩みを当てた後、教祖は封筒の中身を見ただろ、あれはおそらく、中村さんのではなくて、次の人の悩みが書かれている封筒だったんだろう。」

「そんな・・・」

「何人かいる内の一人だけ推理出来れば、後は全員の悩みを芋づる式で言い当てられる-ワンアヘッドシステムと呼ばれるものだ・・・だが、確証は無い」

「確証?」

「記事にするには確実の証拠が必要だ」

「そう言えば、明智さん」

「どうした、少年」

「ちょっと気になる事が・・・」

「‘’気になる事‘’?」

「実はあの部屋で、瀬戸内さんの傍からお香とは別に、爽やかというかなんかそんな匂いがしたんです」

「‘’爽やかな臭い‘’?なんだ、それは?」

「ん~・・・」

「全く、君は・・・おっ、あれは」

明智さんが見つめる方法には先程の信者が何かを運んでいた。

「あれは・・・さっきの封筒だな」

明智さんはニヤリと笑みを浮かべ言った

「行くぞ、少年」

「えっ」

明智さんは廊下の角に隠れ、信者が出てくるのを確認すると扉の部屋へ入ろうとドアノブに手を掛けたが扉には鍵が掛っていた。

「鍵が掛っているのか・・・よし」

明智さんは鞄からピンを取り出すとピッキングをし始めた

「あ、明智さん!?」

「よし、開いたぞ、少年。行くぞ」

ボク達は部屋へと入ると明智さんは周りと探し始め、お盆に乗っている白い封筒を見つけた

「これだな、さっきの封筒は・・・」

明智さんは一枚手に取ると中身を取り出し、封筒を調べた

「・・・特に変わった所は無しか・・・だが、少し封筒にシワがあるな・・・なぜだ・・・」

明智さんが考えている間、ボクは邪魔にならない様に後ろに下がると肘が棚の中にあった瓶に当り倒してしまった。

なんとなく瓶を手に取り、蓋を開けると先程嗅いだ香りがしてきた。

「明智さん、この瓶・・・」

「瓶がどうした?」

「さっき臭ってきたの、この液体ですよ。この中身の・・・これは、アルコールですね」

「・・・」

「でも、どうしてこんな所にアルコールが」

「・・・分かったぞ、少年」

「えっ・・・」

「瀬戸内は封筒を撫でて読む動作をしていただろ、だが、違った。アルコールを封筒に撫でつけていたんだ。見てみろ」

明智さんはアルコールを指に着け、封筒を撫でた。すると、封筒の中身が透けて字が読めた。

「凄い、字が読めます」

「アルコールは気発性が高い、時間がたてばアルコールが乾いて再び白い封筒へと戻る。だが、一度濡らした事で少し封筒にシワが入ったということだ」

「じゃ、瀬戸内さんの能力は」

「間違いなく、心を読むと言う能力はペテンだろうな」

「そんなぁ~・・・」

「気を落とすな少年、そんなものだ。この世に科学で説明できない事は無いと言うのが私の信条だ」

「えっ?」

「‘’えっ‘’ってなんだ、何を驚く」

「いえ、てっきり明智さんは不可思議新聞に関わっているので信じているのかと思ってましたが・・・」

「いや、私は、超能力なんか信じてないぞ。それよりも写真も取ったしそろそろ行くぞ」

ボク達は一通り元に戻して部屋から出た。


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