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〜大公爵令嬢唯一の敵は天使の微笑み ショートスピンオフ〜エレノワール for ママン

ショートスピンオフを単独小説として掲載継続しています。

エクスグレイトペリー王国において大きな歴史となる華燭の典から11年。


 王国を実質的に統一したハイリーフォレスダント大公爵家の令嬢エレノアが、王太子に嫁ぎ、もともとハイリーフォレスダントの祖先の臣下であった王家との間にお世継ぎを生み、本当の意味での王と呼ぶべき王子が誕生してから8年。


 件の王子である僕は悩みを抱えていた。


 お母様に言うべきか。言わざるべきか。




 お母様つまりは王太子妃といえば、絵画やレコードジャケットのモデルとしてその美しさで国民のみではなく、他国の人々まで魅了し、その後自信をイメージモデルとしたブランドを世界に展開。この国の経済を実質的に牽引してきたスーパーレディーだ。


 お母様が推進するブランドは当初エレノワールという生活潤い雑貨やお菓子のブランド。その派生として、悲しいことや辛い時に気持ちに寄り添うエレノワール for ティアーズ。


 そして、僕が生まれて立ち上げた世の中のお母さまのためのブランド。エレノワール for ママン。このブランドでは、お腹が膨らんでいる時にも素敵に着られるドレスや赤ちゃんの用品を展開しているのだけれど。


 このブランドの一番の人気商品は意外なものだ。


 それは小さな薄い本の様なもので、赤ちゃんが生まれた日の気持ちを書き綴る思い出ブックと言われているものだ。


 この思い出ブックの人気の訳は、その宝石を讃えたような印刷技術を駆使した優美な外観や、書き心地の良い上質な紙以上に、その中身だ。


 はじめのページには、赤ちゃんの肖像、市井の人々は似顔絵というらしいが……。それを、書く欄があってその後には生まれた大きさなど、でそれに続くのがメッセージ欄だ。


「お父さまから、生まれたばかりの我が子へ。」

「お母さまから、生まれたばかりの我が子へ。」


 そこに書かれるのはきっと、明るい未来を綴った期待の気持ち。

 子どもが大きくなる時もなんども読み返すに違いない。


 でも、このブック人気の秘密はそこではない。


 最後の1ページ。


「お父さまとなった貴方から、お母さまとなった貴女へ。」


 お父さまが、我が子を生んでくれた奥さまに感謝の気持ちを現すページだ。


 王家では、王太子の王太子妃好きは相当なもので、僕が生まれた時も、僕の顏を見る時間より、お母さまを讃える時間の方が何倍も長かったと言われている。そして、お父さまがお母さまを讃える気持ちを綴った日誌は、エクスグレイトペリーの歴史書の一つとして広く世界に広まった。


 それに感動した貴族や、市民がその歴史書のように、結婚してしまうと、中々伝えることができなくなる自分の妻への気持ちを綴ることができるようにした思い出ブックが流行り出した。


 と、いうより世の中の妻たちが、流行りを創り出したようだ。


 魔法の言葉を子どもを産む前に旦那さまに伝えて。


「み、ん、な、貰ってるらしいわよ。」


 この魔法の言葉。

 妻は将来、何度も我が子からおねだりの度に言われることになるのだけれど……。



 なにはともあれ、このブック。美麗なだけに、妻への思いを綴る時に、2割・3割美化されて記されることも多く、政略結婚だった結婚に本当の愛をもたらしたり、妻は子供の面倒を見ながらも夫を見るのを忘れなくなったりと、離縁率を下げる効果をもたらしているらしい。



 さて、話は変わるが、最近エレノワール for ママンに新たなコンセプトが打ち出されたようだ。


 それは。


『節約』


 かつての大公爵令嬢、いまや経済大国エクスグレイトペリー王太子妃がコンセプト。国を挙げてのブランド商品であるエレノワールシリーズの打ち出すテーマが節約って。と、思うが、王室にも色々な人が働きに来ている。特に王侯貴族の子育てをするナニーとは王太子妃のお母さまでも色々世間話もするらしいので、きっとそんなところの誰かが、母となったからには節約をとでも言ったのだろうか。


 産着から子ども服に至るまで、上質な絹製品以外を身につけたことがなく、遊ぶおもちゃは全て一流職人さんの手による一点もの、そんな僕だって帝王学で、市井の人々の暮らしを学んでいるから節約という言葉は知っている。


 そして、それは王太子妃エレノアにもっとも似合わない言葉だってことも。


 だってお父さまもお母さまも領地ピクニックで高台の湖に行った時に僕に話をしてくれていた。


「この湖から流れ出る川をみて。この高いところにある湖は王家、そしてその川の流れつく先、広い河口が

 王国の民よ。そしてこの水がお金ね。湖から流れた水は、大きな流れとなって河口を潤し、潤沢に水を讃えた河口から自然と水蒸気が上がって雨に変わり、また湖に恵みの水をもたらす。その流れを途絶えさせると、河口が干上がり、干ばつへと向かってしまうの。だからお金は流通させなければならない。民を潤して豊かにし、無理をせずともこっこに還元してもらえる。そんなみんなが幸せな世の中を作ることが大切なのよ。」


 その考えと節約って対極にあるのでは?

 僕はそう思っていた。


 そして、お母さまが節約のためとして開発した商品を見て思い悩んでいる。


『リバーシブルウェア』


 それが、今回創り出したものらしい。


 普通、洋服の内側は裏、それを表にしては着ることが出来ない。でも、裏の部分も表地のような生地にして、縫い目は生地と生地の間に隠し、裏表どちらも使えるようにすれば。


 1枚で2回楽しめる洋服となる。


 それは、分かる。


 そして、経済大国の王太子妃である母は、公場では同じドレスで2度装うことは許されず、いつも新しいものを身につけなければならないけれども、このリバーシブルコンセプトをオーバースカートの装飾布や、襟袖の装飾に活かせば、元となるドレスは同じものを2度着ることが出来るというのも納得出来る。


 しかし、話は戻って、僕の悩みはここからだ。


 お母さまに言うべきか。


「リバーシブルのその装飾。片面の赤く艶放つ生地には、一面にダイヤモンドを縫い付けて描いた花柄。

 もう一面の白い布地にはルビーを縫い付けて描いたリボン柄。恐らく元のドレスの数百倍の価値ある宝石を使ってリバーシブルを実現しても……。それを見た一般の貴族の方々や、市民階級の人の心に『節約』という言葉を連想させることは難しいのではないですか。」


 と。


 お母さまは、スーパーレディーだが。僕が言うのもおかしいが、お嬢様育ちが過ぎて世間大きくズレてしまっていて、問題に気づかないのであろうか。



 それであれば、僕がお母さまを世間の批難から守ってあげなければ。


 意を決して僕は、リバーシブルで先日と雰囲気を大きく変えて装ったお母さまに、その服でリバーシブルを示し、エレノワールforママンのコンセプトを世間に訴求するのはやめた方がいいのではないかと打診してみた。


 僕のような子どもが、世界のスーパーレディーにアドバイスすることは、親子であっても許されないのではないかと思いつつも。




 案の定、お母さまは僕に反論の言葉を投げる。


「あら、このリバーシブルドレス、とっても節約になるのに。」


 いや、だからそこについているダイヤとルビーの代金を考えればそんな節約なんて意味ない……。


 と、続けようとした僕の瞳をじっと見つめてお母さまは、こう言った。


「リバーシブルの装飾を使えば元のドレスは1着でいいの。そうなると、とっても『節約』になるのよ、仮縫や出来上がり時の試着も要らなくなるから『時間』がね。貴賎を問わず、ママンに必要なのは時間の節約ね。だってお母さま、貴方に会える時間が1秒でも長く欲しいもの。」


  時間の節約! 思いもよらない発想だった。そして、それは僕のため。


  僕は嬉しさのあまりお母さまに抱きついてしまった。もう8歳だというのに。未来の国王としては少々恥ずかしい行為だが、お母さまが大好きな気持ちを止められなくなったのだ。


 お母さまは、やっぱり尊敬すべきスーパーレディーだった。そして、そのスーパーレディーに世界一愛されている僕はなんて幸せものなのだろう。





 そんな幸せに浸っている僕にお母さまは続けてこう言った。


「貴方に会う時間を作るために、節約すべきでない時間なんて、クラレンス王太子殿下と会う時間だけだわ。」


 その日から。


 完璧な王太子と完璧な妃の間に生まれた完璧な王子と言われている僕に『唯一の敵』が出来てしまった。


 いくつになっても天使の微笑みでお母さまを魅了するわが父、クラレンス王太子というライバルが。








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