その4
Yさんの証言。
あ、おはよー。どうしたん?なんか変なテンションじゃん。
え?どういうこと?絵文が行方不明って……
友達んちに行くって言ってから連絡が無い……それで?朝になっても帰って来なくて、気になって親が知り合いに聞きまくっていると……
いや、それただの家出でしょ?あんただってよくやってるし。あはは、だよね。あんたと絵文は違うわ。あの子真面目の塊みたいだもん。
ごめん、ちゃんと応えるよー。うちは絵文とは帰り道で別れてっきりだわ。昨日はLIMEとかもしてないし。てか、一番仲いいあんたが知らないってどーゆうことなのよ?
あ、堀香。おはよー。ねぇ、今恣意子から聞いたんだけどさ……
Hさんの証言。
絵文とは昨日LIMEしたよ。宿題何か聞こうと思って。でもね、話してたらー、急に返事来なくなっちゃって。これはもしや未読スルーってやつ?とか思ってたわけだけどー。そのうち返ってくるとか思ってたんだけどー。ほら見てよ、今も既読ついてないでしょ。
なんかあったんだって、きっと!
え、時間?ああ、えっとね……6時34分だね。最後に来たのは。
ところでさ、しーちゃんは何も知らないの?何、その複雑な顔は?
てゆーか制服キレイすぎじゃない?それじゃピカピカの1年生だよ。でもその割に顔は疲れて見えるし。昨日はちゃんと寝たんですかぁ?なんか怪しいなぁ……
えいっ。スマホぼっしゅー。確認させてもらおう……あれ?
履歴が無くなってる。LIMEも電話もインターネットも。
ちっ……。面白くないなぁ。
ま、いーや。それより宿題やった?見してよー。なんだ、しーちゃんもやってないの。同じだねー。
Aくんの証言。
笛吹さん?や、知らねーな。つかお前の方が知ってるんじゃねーの?
Bくんの証言。
笛吹さんか。えーっと、昨日どっかで見た気がする。どこだっけな……
Dさんの証言。
恣意子さんこそ……知らないの?
Eくんの証言。
笛吹は見てないけど、お前は見たぞ。暗くてよく分かんなかったけどどっかに歩いて行くのを見た。
Gさんの証言。
見てないかもしれないし、もしかしたら見たかもしれない。運命の巡り合わせというものはそもそも…………
Iさんの証言。
私、何も何も見てないですからね。ごめんなさい。ごめんなさい。
Jくんの証言。
笛吹?夕方に歩いてたの見たぞ。どこ向かってたのかまではちょっと……
Kくんの証言。
絵文か。いや、見てないけど?
どうかしたの?
Lさんの証言。
え、絵文ん?見てないな……。それよりさ、すごいんだよ。私ね何とね……あ、別にいいとかひどいー
……………………………………………
Zくんの証言。
いや、知らねーけど。つかお前今朝どうした?何で裏通りから出てきたんだよ。あそこ治安悪いって散々言われてるのに。もしかして、あれか?あ、いや冗談だってば。悪かったよ。
というわけで、聞き込み終了だ。それで分かったことがある。
絵文は夕方、およそ7時頃にどこかに出掛けていったこと。方向としては学校とは逆らしいこと。それから……
あれ?何故か頭痛がしてきた。頭の中の空白の部分が痛みを告げる。忘れていた欠落が存在を主張するかのように。ああ、辛い。もう今日は家に帰ろう。
いつもと変わらず長くしんどい坂を上る。私はこの時間が一番きらいだ。音楽を聴いていても全然気は紛れないし。
突然、バイブ音がする。スマホを取り出してみるとそれはBくんからのLIMEだ。内容は、
「思い出したよ。笛吹さんをどこで見たのか。○○で見たんだ」
そうして示された場所は、私の家の近くだった。
再びバイブが振動してメッセージが届く。今度はIさん。
「あの……昨日笛吹さんと何か話してたじゃないですか。もし喧嘩してたなら謝った方がいいですよ
。あの差し出がましくてごめんなさい」
は、なにこれ?私が絵文と会っていた?
三度バイブが振動。今度は電話だった。発信者はお母さん。
「――――――――――――」
え?今すぐ帰ってこいって?どういうこと?ちょっと待ってよ。
慌てて坂を駆け上がる。すると、赤い光が点滅しているのを見つける。信じ難いがそれはパトカーの光で、私の家の近くで光っているのだった。
頭痛が激しさを増してくる。頭が内と外から締め付けてくるようで眼球がその勢いで押し出されそうなほどだ。熱い。痛い。苦しい。
立っていられなくなって思わず壁に手をつく。そこには何か貼り紙でも貼ってあったらしく四隅の紙だけが儚げに残っていた。
少しでも頭の熱を下げようとネックレスを頭にあてる。金属の冷たさが少しだけ私を冷静にしてくれる。わずかに残った理性がそれを目視する。
その瞬間、シナプスが弾ける。
思考回路が正常に戻っていく感覚がした。足りない部分はあるけれど、それでも今の私には充分だった。
…………行かなきゃ。
私は坂を駆け下りていく。