第八話 街に向かって
食事を終えた[銀の矢]は街に戻る準備を始めた。
といっても、食事に使った食器類を片付け、焚き火を消して、ドラゴニックウルフの素材が入った袋をアイテムポーチに入れるだけである。
時間がかかったのは食器類を洗うことだけで、それ以外はすぐに終わったが。
その間にサクラはアイテムボックスに入っていた服に着替えることにし、[銀の矢]の面々から見えない木の裏に回った。
着物は森の中を歩くには不向きなこともあるが、大事な着物を汚したくない気持ちもあった。
だが、アイテムボックスの中にはろくな服がなかった。
もともとゲームで手に入れた物で譲渡不可なユニーク防具を服にしようというのだから仕方がないが、きぐるみとか水着とか、運営のお遊び品しかなかった。
いくら性能が良くてもゴメンである。
これが、一番マシじゃな。
サクラが選んだのはハロウィンイベントで手に入れた魔女衣装であった。
黒のローブに黒のマント、黒のブーツに黒のとんがり帽子と黒尽くめである。
パンプキンのアクセサリーもあったが、邪魔なので付けないことにした。
ついでじゃ、装備も整えるかの
装備出来そうな(ビジュアル的に)物は、[精霊の指輪]と[神竜石の首飾り]しかなかった。
どちらもゲームではストーリー用のイベント装備であるので、サクラとしては無いよりマシ程度である。
武器も同じでハリセンとかピコピコハンマーとか、変なのしかなかったが、こちらは武器迷彩アイテムがあったので、一番性能が良かった[神杖ケリュケイオン]に樫の杖の迷彩をつけた。
その装備は図らずも邪神討伐の時と同じものになってしまった。
当時は最強クラスの装備ではあったが、アップデートが重ねられるにより良い装備が現れお蔵入りしたのである。
着物と白の旅装束をアイテムボックスにしまい着替えを終えたサクラは[銀の矢]の所に戻ると、彼らはサクラの変わり様に驚いた。
「サクラちゃん、どこにそんな服・・・・・・そっか、アイテムボックスの魔道具ね。サクラちゃんほどの実力者なら持っててもおかしくないか」
「しかし、その格好は・・・・・・」
「拙かったかのう?」
「いけないわけではありませんが」
「まあまあ、そういうのに憧れる年頃なのよ」
何だかわからないが、これ以外は本当にろくなのがないので着替えるわけにもいかない。
致命的にダメではないようだし、この服装で行くことにした。
「うっし、それじゃ出発だ。森を出るまでは休憩なしで行くぞ」
「では、隊列は先頭からレギン、僕、サクラさん、テディナ、殿をガントルにします。サクラさん、あなたの腕前はかなり高いものだと知ってはいますが、私達との連携は出来ません。ですから、戦闘には積極的に参加せず、魔法を打つときも必ず僕に合図をください」
「うむ、同士討ちは避けるべきじゃ」
アルバの提案はもっともである。
だが、実際はアルバの考えているよりもっと深刻でサクラのレベルでは同士討ちは即、死であった。
サクラは魔法を使うときは十分注意することにした。
それからしばらく、森を進んでいった。
レギンが時折、方位磁針のような物を見て方角を確かめる以外は立ち止まらず、魔物との戦闘もなかった。
[銀の矢]は警戒しながら進んでいたが、サクラはピクニック気分であった。
やはりここがゲームの世界で魔物が出ると知ってはいても、これまでの感覚で行動してしまう一例となった。
そんな様子に[銀の矢]は子供らしさと強者の余裕を見たのだが、誤解であった。
二時間ほど歩いたころだろうか、木々が途切れがちになり、それからすぐに黒の森を抜けることが出来た。
ここから街までは三時間くらいらしい。
一同は小休止を入れた後、出発し、太陽が中天に来る頃には街、城砦都市フィリアルドが見えてきた。
「おお、これはまた、実物を見ると圧巻じゃのう」
ゲームでもフィリアルドは存在した。
あの時、画面越しに見た街も十分に綺麗で年甲斐もなく心躍らせたものだが、実物には遠く及ばない。
丘の上に作られた街を三重に囲うよう城壁は高く厚く、一定間隔で設けられた監視塔が設けられており、兵士が詰めているのが見えた。
その城壁の上には巨大なバリスタがいくつも並べられていて、そのいくつかは上空を向いていた。
おそらく、空を飛ぶ魔物への対処なのだろう。
そんな城壁に囲われた街の中心にそびえる領主の城は堅牢重厚を目指して作られ、美しさが無いかわり圧倒的な安心感がある。
「それにゲームより大きくなっておる」
「げーむ? サクラちゃんは前に来たことがあるの?」
「あ、いや、その・・・・・」
いかん、うっかり口を滑らせてしまったわい。
城に感動してたのがいけなかったのう。
さて、どうやって誤魔化したものか。
「げ、ゲームという冒険者が書いた書物があっての、そこに書いてあった話では城壁は二つじゃったんじゃ」
「ああ、そういうこと。それ、かなり古い書物じゃない?」
「う、む、そうじゃな。三百五十年くらい前の物だったか」
「ふるっ!? ってか大戦争時代の本!? むちゃくちゃ貴重品じゃない」
「そ、そうか」
「そうか、じゃないわよ! その顔はわかってないわね。いい、そもそも・・・・・・」
当初、サクラはアルバたちに助けを要請したが、「テディナの悪い癖ですね、すみませんが付き合ってください」「ははは、こうなったら長えぞ」「・・・・・・諦めろ」と、あっさり見捨てられた。
テディナはフィリアルドに到着するまでの間、大戦争時代の本の貴重さをサクラに語った。
それはもう、目をきらきらと輝かせて。
て、テディナは歴女じゃったのか・・・・・・。