第三話 老婆の死
その日、一人の老婆が家族に囲まれる中、この世から旅立った。
享年八十八歳。
その人生は平坦なものではなかったが、自他共に、幸せと言うに申し分のないものであった。
事実、安らかに眠る老婆の口元は、穏やかな笑みを浮かべていた。
そんな老婆の告別式は親族と縁の深い者達だけで慎ましく行われる予定であったが、ここで、珍事が起こった。
告別式に突如、家族すら一度も顔を合わせたことのない人が、数十人現れたのだ。
やってきた者達の多くは若者であったが、中には小学生や老婆と変わらないほどの老人もおり、その統一性のなさに親族は首をひねった。
結局、人数の多さから代表者三名のみが火葬まで見送ることになった。
この珍事を当初の参列者達は、老婆の人徳によるものと好意的にとらえたが、割りを食ったのは
ご焼香の時間が大幅に増えてお経を一人で長々と唱えなければいけなかった和尚と、大量のお香典のためにお香典返しが足りなくなり四方を駆けまわる羽目になった葬儀屋の従業員であった。
そうして、いよいよ老婆が荼毘に付される際に棺に入れられたものは、生前好んできていた着物と、お気に入りの木櫛、先に旅立った旦那にもらった簪、三途の川渡し賃の六文銭に、一枚の写真だった。
これで、やっとファンタジーの世界に行ける。
よく頑張った、私。正直、投げ出す気がしてた。
次の話は掲載まで、時間かかると思います。