第二話 仲間との別れ
サクラがログインしました
[お、マスター、四日ぶり。珍しいね、こんなに空けるの]
[マスター、こんにちは]
[サクラさん、こんこん]
[こんちゃ]
[( ̄Д ̄)ノ]
ログインしたとたん、クランチャットでいくつもの挨拶が飛んできた。
[事情があってな、ログイン出来んかった。すまんのう]
[いいって、いいって、みんなリアルがあるんだから]
[そうそう、リアルとゲームはバランスが大事]
[あなたが言うことですか、この廃人w]
[あれ? 藪蛇だったw]
[( ゜∀゜)o彡゜廃人!廃人!]
[君がアウトしたの見たことない]
いつも通り、騒がしくなって、ログが埋まっていく。そんな光景をいつまでも見ていたいが、如何せん今のサクラには時間がない。
[あー、楽しい会話に水を差すようで悪いのじゃが、緊急集会を開きたいのでクランルームに集合してもらえんか]
[緊急集会! 議題は?]
[今日の晩御飯について]
[そんなわけないでしょ]
[お好み焼きに一票]
[猫飯]
[〆(._.)メモメモ]
会話が横道にそれながらも、十分後にはクランルームにメンバーが集まった。中堅のクランで全メンバーは五十人を超えているが、今ログインしているのは八人、集まったのは先程からチャットしている五人だった。流石に平日の昼間だと人がいない。
それでも、クランの主力メンバーがほとんど出席していることから、何とかなるだろうとサクラは考えた。
[さて、悪いのう、急に呼び出して]
[キニシナーイ、キニシナーイ]
[どうせ、暇してたし]
[マスターのためなら例え火の中水の中]
[草の中森の中土の中雲の中あの子のスカ(ry]
[マッハで駆けつけます]
[三└(┐卍^o^)卍ドゥルルル]
[で、で、今回の議題は?]
[次のイベント攻略のこと?]
[前情報じゃ、かなり鬼畜難易度らしいで]
[実はのう、ワシはこのゲームを引退しないといけないのじゃ。今日の議題は引き継ぎ関係じゃな]
[ははは、ナイスジョークです]
[マスター、冗談キツイです]
[まったまた]
[出荷、出荷ですな]
[(゜д゜)]
案の定、真面目に取り合わなかった。
それもそうだろう、サクラも言われる側だったら真面目に取らない。
[冗談だったらよかったのじゃが、残念ながら真面目な話じゃ]
[・・・・・・マジ?]
[なん・・・だと!]
[はあああああああああぁぁぁぁ!!]
[嘘だろ。今からでいいから嘘だと言ってくれ!!]
[Σ(゜д゜lll)]
[理由を、理由を言ってくれ]
[そうだよ。引退しないといけないってことは、引退したいからじゃなくて何か理由があるはずだ]
[マスター!]
[言っても良いが、だいぶ重い話になるぞい]
[聞いても良いなら聞きたい]
[俺らの力を合わせればなんとかなるかもしんないし]
[( ゜ー゜)( 。_。)]
[戦隊モノの最終回みたいにね]
[冗談挟むな]
[空気読めよ]
[(・A・)イクナイ!!]
顔も見たことない者がここまで言ってくれることに、サクラは確かな絆を感じて嬉しくなる。今からでも冗談だと誤魔化して、静かに引退しようかという考えがちらりと浮かんだ。だが、それよりも、お別れをしっかりしたい気持ちが話の続きを促す。
[・・・・・・リアルでの寿命じゃ]
[パソコンの?]
[それなら俺が新しいPC送るよ]
[いや、プレイヤーであるワシの肉体の寿命じゃ。末期ガンでのぅ、余命は一月もないそうじゃ]
[・・・・・・]
[(゜ロ゜)]
[まあ、しょうがあるまい。八十をとうに超えておるんじゃ。天命じゃよ]
[そんな・・・]
[ほんとう、なのか?]
[もうどうしようもないの?]
[というか、そんな歳だったのか! 年上だとは思っていたが・・・・・]
[(´;ω;`)]
[じゃからの、今日は皆にお別れと、このクランの引継ぎに来たんじゃ]
それから、始まった引継ぎは、あっさりと終わった。何しろ反対意見が全く出ないから、サクラの思い通りに進むのだ。サクラは残っていたクレジットをクランのために消費し、所持していたアイテムは全てメンバーに譲り渡した。
残ったのは渡せなかったお金の端数と、イベントで手に入れた譲渡不可のユニークアイテムのみとなった。
[これでよし。もう、このゲームにも思い残しはない]
[マスター、あなたにはお世話になりました]
[うん、サクラさんがいなければこのクランはここまで来れませんでした]
[初心者の私をクランに迎え、育ててくれた御恩は決して忘れません]
[ありがとうございました]
[(TдT) アリガトウ]
[いや、礼を言うのはこちらの方じゃ。皆、ワシについてきてくれてありがとう。ワシは年のせいで素早く指を動かせんから、どうしても長い溜めからの強い一撃を出す戦法しか取れなくてのう。皆のフォローのお陰でこれまでやってこれたんじゃ。]
[おかげで付いたあだ名が「一撃必殺」]
[「主砲」ってのもあったな]
[テーレッテー]
[( ̄ー ̄)]
[でも、やっぱり、あれだな]
[[[[[灰燼の魔女]]]]]
[ふむ、そんなのもあったのう]
それから、クランでの思い出話となった。
サクラはこのゲームはβテストから参加していたため、そこそこ有名なプレイヤーだった。
また、仕方なかったとはいえ一撃の威力を追求したプレイ方法はDPS(時間あたりのダメージ数)こそあまり高くなかったものの、その一撃は他のプレイヤーの追従を許さなかった。
サクラの魔法が発動した跡はぺんぺん草の一本も残さないことから付いたあだ名が「灰燼の魔女」である。
領土戦では何度も戦況を引っくり返した。
そんな逸話、武勇伝なんかを皆で話していると、すぐに時間が経ってしまう。
[時間じゃな。皆の者、達者でな。先にあちらの世界へ旅立ち、皆のことを待っておるからな。なるべくゆっくり来るのじゃぞ。]
[・・・・・・]
[さようなら、マスター]
[良い旅路を]
[゜(゜´Д`゜)゜]
[サクラさん・・・・]
[では、な]
そう、皆に手を振り、ログアウトしようとしたとき、新クランマスターがサクラを呼び止めた。
[マスター!]
[ん、どうした?]
[マスターの入院している病院を教えて下さい]
[・・・・・・知ってどうするつもりじゃ]
[オフ会を開催します!]