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姫巫女の結界  作者: 西山 ゆま
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美貌の精霊王

後何話と記載するよりも後少しで終わります。

と記載した方が確実ですね。

 風の勢いが落ち着き目を庇っていた腕を外せば、先ほどまでいた豪華絢爛悪趣味な広間ではなく、自然豊かな森の中に立っていた。

 ぐるりと見回しても緑、緑、緑。とても目に優しい景色。

 一歩足を踏み出せば、足下の草がクシャッと小さな音を立てて潰れる。本物なんだと実感し、踏み潰してしまった小さな命にあわあわしていれば、背後でクスリと笑い声。顔を真赤に染め振り返れる。

 首が痛くなっても見えないほどの巨木が一本。葉は青々としており、樹の幹は大人数人が手を繋いでも足りないほど太い。


 そして――巨木の周辺に舞う、色鮮やかな妖精たちの姿を見つけ、ここがどこなのか瞬時に理解してしまった。


 10歳児でも前世から引き受けてきた記憶があるからこそ、簡単に何でも受け入れてしまう。少し寂しい。

 妖精の舞に夢中になって眺めていれば再度渋い美声が私の名を呼ぶ。ちらりと声のした方へ視線を向け――唖然とした。


 サラサラロングの金髪。瞳は深い森を思わせる緑かと思えば、新緑の若葉のような翡翠色。彫りの深い、バランスよく配置された顔のパーツ。額にかかる細い金鎖のサークレットの中央部の涙型の見慣れた赤い石。真白な服かとじっくり眺めていれば、金銀の刺繍糸で細かく幾何学模様が描かれた足元まで覆う一枚布の服に身を包む美人(ここ重要です! 美形や美丈夫ではなく美人です!)が佇んでいた。


 声のトーンからもう少しお年をめされた方だと想像したため、なんだか詐欺にあった気分になるのは何故だろう? この気持ちを誰にぶつければスッキリする? 目の前の人物? それしか解決方法はない!


≪物騒なことを考え、実行に移そうとするのは止めよ。4番目(フィーア)

「………………はい」


 美人顔に不似合いの渋い声に若干(ではありませんね)衝撃を受けたが、すぐに気を取り直す。気持ちが落ち着けば周囲を把握する冷静さも戻ってくる。


(ここはノワール国でも、ルフレ国でもありませんね)


 広間から別の場所へ移動しているということは、私の身体(いのち)は完全にルフレ国を守る結界となったのでしょう。失敗しなくてよかった。ほっ。

 それでも不安は過る。正面に立つ人物に声をかけた。


「精霊王――」

≪結界は張れておる。よく頑張った≫

「ありがとうございます!」


 嬉しさのあまりペコリと頭を下げる。俯き表情が見えないことをいいことに――沈む。

 今頃、光の瞬きのように消えた私にお父様は恥も外聞も捨て、泣き続けているのかと思うと胸が痛む。

 想像ではなく断言出来るのは、父とは悟られずに騎士として傍にいながら――分かりやすい態度を取られていたため。

 初めの頃は度の越えた過保護だと思っていたが、時間が経つ度に私の思い違いだとまざまざと感じた。護衛騎士は(あるじ)主義者が多いと聞く。王宮の守護を任務とする騎士だとしても、それは変わらないと思っていた。

 王宮守護が任務なら守るべき者は城の主だと――…


 どうやら違うようでしたけどね! 守るべきは陛下ではなく、城だということを!! しかもお父様――ジュークのみ気に入った王族が見つかれば、主替えが許されているとか普通ありえません! なんですか、その我儘。はぁ…


 そして知った。お父様は私を主と認め、生涯傍で守り続けようと決意していたことを。

 父と名乗ることが許されていないのなら、せめて第二王女が亡くなるまで仕えさせてほしい。と陛下の御前で突然嘆願したとき、頭がおかしいんじゃないかと本気で心配してしまった。


 私が死ぬまで傍にいたい? 降嫁した場合、嫁ぎ先にまで付いてくるということかっ!? というよりノワール国の一伯爵として、次世代を残すべく妻を娶るのは先では? 婚約者はいるようですが、その方と結婚する気ないですよね?! だったら早く別れて女性を解放して下さい!! 婚期を過ぎた女性の嫁ぎ先など限られたものになってくるんですから!


 会ったことがない継母(予定)を本気で心配する。

 とても穏やかで、そしてお父様を心からお慕いしている女性のようで、離縁予定はないと護衛騎士に任命されてすぐに教えられた不必要な情報…何故、伯爵家の内情を私に語ったのか、未だに疑問に思っていますけどね!


『彼女とは利害が一致したから婚約したまでです。だから気に病まないで下さい』


 私が何に対して気に病むのか、納得のいく説明を求めます!!


 昔を思い出し考え込んでいれば、強い視線に気付き顔を上げる。

 精霊王が微笑みながら私を見つめており、どう反応すればいいのか本気で狼狽えてしまった。


4番目(フィーア)は父親がとても大切なのだな≫

(あ…心、読まれてました…)


 精霊王の一言に私の眼は瞬時に輝きを失う。簡単にいえば、死んだ魚のような目で精霊王を無表情で見つめた。

 瞬きもせず、貌と声が合っていない詐欺精霊王(声詐欺師と呼ぼうか)をじっと見据え続ける。何も考えずにじっくり観察するように、じいぃと…


≪そのような目で見るでない≫


 私の視線にあたふたする精霊王。美人の慌てる姿を見られるとは、ごちそうさまです。


「心を勝手に読む方が悪いんです」

≪悪かった。悪かったから、そのような目で私を見るでない!≫


 憂い顔で何度も謝罪する精霊王の姿に、気分が少しスッキリする。

 ふわりふわりと私の周囲を飛び交う妖精たちは、私たちのやりとりにクスクスと楽しそうに笑っていた。精霊王の慌てる姿なんて、早々お目にかかれませんものね。

 髪を引っ張ったり、肩に乗ったりと自由奔放に動き回る妖精たちの姿に和む。抱きつくように頬にくっ付く緑と青の妖精の頭を撫でていれば、コホンとワザとらしい咳払いがひとつ。

 視線を妖精から外し、咳払いが聞こえた方向へ。

 柳眉を寄せた精霊王が頬を薄らと朱に染め腰に手を当て仁王立ち。


 翡翠の瞳を細めこちらを睥睨する精霊王の姿に圧倒――されることはない。


 薄らと染まった頬が精霊王の内弁を雄弁に物語っていて、楽しいことが大好きな妖精たちは精霊王の姿にクスクスと可愛らしい笑い声を上げていた。

 かくゆう私もそんな彼の姿を堪能し、口元が自然と綻んでしまう。


(注目させるために咳払いとは…精霊王にも可愛らしい一面があるようですね)


 私の心の声を読んだのか、秀麗な貌がムッとした表情に変わる。先ほどのように心を読まれたことへの怒りは湧かない。意外な一面が見れたことで少し寛容になっていた。

 妖精たちと笑い合う私の姿に呆れ、最後は諦めの表情で光景を見つめる精霊王。と思っていたのだが――…


≪我を憎く思わぬのか?≫

「は、え?」


 突飛もない質問に、間抜けな返事を返してしまう。うぅ~、恥ずかしい。

 恥ずかしくて悶える私を無視し、精霊王は再度口を開く。


≪恨んでおらぬのか?≫


 言い方変えても意味は一緒なような…

 悶えるのを止め、真直ぐ精霊王を見つめる。今、私の紫の瞳には秀麗な容姿が映りこんでいるだろう。マジマジと瞳を覗きこむ妖精たちの興味津々の表情から読み取りました。


 憎く思う? 恨んでいる?

 精霊王の質問をじっくり考えた。質問の意図はきちんと把握している。それに同じ魂が何代も神子を務めているのだ、私の答えは決まっていた。

 ()のではない、()()()の気持ちは初めから決まっている。

 

 だけど、そのことを素直に告げるつもりはありません!


 ニッコリと、年相応の満面笑顔を精霊王に向け、目をパチパチさせる|(人みたいな反応をしますね)彼に一言。


「その質問は初代様(ヌル)に対して失礼ではありません?」

≪!!≫


 翡翠の目をこれでもか! と見開き、次いで分かりやすく肩を落とす精霊王。ペタンと垂れた犬耳と尻尾が見えるのは幻覚でしょうか? 幻覚ですね! 間違いありません!!


(声は美丈夫、貌は美人、行動は犬っぽいって……どんな破壊力ですか!!)


 精霊王が分からない……

 自然界の偉大なる王だというのに、私の目前にいる方を“偉大なる王(精霊王)”だと認めたくないと思ってしまうのは何故?

 しょんぼり落ち込む精霊王を放置し、暫し思案する。

 見た目は10歳の幼子でも、精神年齢は軽く3桁を超えている。結界神子の魂と()()()()()()()()()を受け継いでいるため、豊富な知識を保有している。

 私も歴代神子(王族も含まれる)の記憶を引き継いでいるのだ。習わなくとも大国の王太子以上の帝王学は身についている。ノワールの王太子に負けないほど!


 ……言い直します、覚えようとしなくとも訊かれれば即答出来るくらい記憶しています。

 ボロを出したことはありません! 誰も訊ねてきませんので。別棟に住む(まつりごと)から遠ざけられた末姫に、王宮で働く文官の方々は見向きもしませんからねぇ。

 何かを探るような眼差しを宰相から向けられてましたが――概ね平和です! 王太子から嫌がらせと言う名の昔の検案事項の書類を渡され、あまつさえ


『すべての書類に目を通し、5日以内に今現在も案件として扱われている書類を見つけ、お前なりの提案を簡潔にまとめろ』


 の命令にヒクッと頬を引き攣らせたのは記憶に新しい。

 最初は何バカなこと言っているのですか?! と放置していれば、次の日に「まだ出来ていないのか」と鼻で哂われてからは、即行で書類作成。王太子付きの侍従に手渡しましたけどね! 解せぬのは私の提案した解決方法が最良として会議で通ってしまったことでしょう。

 当時8歳の私。幼女の考えた提案に賛成するな―――!! と別棟屋上から叫びましたよ! 死んだ魚の目の護衛騎士を背後に連れて…


 大国の王並に知識を保有していたのも災いしていた。

 鼻で哂われたことに怒りを覚えたからといって真面目に解答した私も悪いのですけど! 腹が立ってしかたがなかったので、我を忘れて……と当時は相当落ち込んだものです。なんであのとき、負けず嫌いを発揮してしまったのか…


4番目(フィーア)?≫


 当時のことを思い出し、再び落ち込む私の耳に通りの良い低音の声が届く。

 ちらりと顔だけを声の方へ向け美しすぎる精霊王に一言。


「………詐欺」


 夢を返せ! と何度でも叫びたい。

 女性的ではないものの美人の精霊王に似合わない低音ボイス。物語に出てくる精霊王の容姿そのままなのに、声だけが期待を裏切っている。

 夢見ていた乙女にとって、これほど残酷な出逢いもないな。と失礼極まりないことを、秀麗な貌をじっくり眺めて考えていた。心を読まれようが知ったことではない!


 私のぶしつけな眼差しの意味を読み取った(読んだ)精霊王は再度コホンと咳払い。注意を逸らせる。人間臭い精霊だなぁ。

 来い来いと手招きする精霊王に従う。やはり人間臭い(以下略)

 トコトコと美人の許に歩み寄り、長身の精霊王を見上げても首が痛くならない位置で立ち止まれば、目前の人(?)が一歩前に出て、ポスンと私の頭に手を乗せた。優しい手つきで頭を撫でられる。

 一瞬何をされているのか理解出来なかったが、漸く理解したとたん顔に熱が集中するのがはっきりと分かる。

 精霊王に頭を撫でられて照れてしまった!

 上目遣いで見やれば、優しい眼差しが私を見つめていて…さらに熱が高まる。


(綺麗すぎます!!)


 お母様には及びませんが。


 頭を撫でる手は指が細くて長く、私の頭を片手で覆えるほど大きい。神秘的な美人でもやはり殿方なのだと実感してしまう。

 声は完全に殿方だけれど。


 何度も撫でられ擽ったいと軽く身じろいだときだった。


4番目(フィーア)の望みはなんだ≫

「はい?」


 突然の質問に顔を上げる。秀麗な貌がじっと私を見つめていて、翡翠の瞳は何故か悲しみをおびていた。


(そうか。もうすぐ自我が消えるのか)


 精霊王の憂い顔に、私は納得する。


女性もうらやむ最上の美しい貌を持ちながら、声は腰に響く重低音。

声のみ聴けば渋いおじ様を浮かべてしまう精霊王。

怒りを覚えるほどのギャップだと思って下さい(笑)

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