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姫巫女の結界  作者: 西山 ゆま
4/6

これが私の生まれた理由

前話より大分時間が空きました。

あと1~2話で完結予定。

*自傷行為あり。苦手な方は避けて下さい。

 私とジュークの周囲の音が一瞬で消えたように感じる。慌ただしく動く人々の中で、私たちの時だけが止まったように動かない。動けない。

 驚きはありません。薄々気付いていたの。私に向ける視線の中に、時折慈愛に満ちたモノが含まれているのを。その意味も――…


「ジューク…否、お父様。今からお見せするものが、私がこの世に生を受けた意味です」

「止めなさい!! フィーア!」


 二度目の絶叫。

 ジューク――お父様の悲痛な叫びは、軍備に忙しい者たちの動きを止めさせるほどのものだった。

 陛下の視線が、王太子の驚きが、王子王女の悲痛な悲鳴が広間に響く。

 王太子が自分の近衛へと何事かを命令していた。それを私は他人事のように見つめる。迫り来る近衛兵。その中に陛下直属の者たちまでも含まれていることには正直驚いた。

 止めなさい! と止めるお父様とは別の声には一切反応を示さない。


 私の決意はそれだけ固いのです。


 この世に生を受けたときから私の運命は決まっていた。物心付く前から決まっていたものを、決めていたことを今さら変えるほど優柔不断ではない。

 

 姫としての矜持もあるのでしょう。大国の姫らしく育てられた覚えはありませんが。


 迫り来る近衛兵の手をひらりひらりと、舞うかのように避ける。ときには足止めの如く相手を蹴り倒し。俊敏に、そして華麗に戦力を確実に削いでいく。10歳の姫だと侮っているだけに、打ちのめすたび王直属の騎士が膝を付き悔しそうに呻き声を上げる姿に――身悶えてしまった。隠しましたけどね!

 武を嗜まない姫らしくない動きに周囲は固唾を呑んでいた。


 生まれ持っての才能。

 母しか知らない私の才能。

 ()()としての才能。


 ステップを踏みながら近衛兵から距離を取り、手に持つ聖剣を首元へ近付け、迷うことなく――一閃する。


 首をかき切る行為は王族・貴族の女性の自害方法。心臓まで貫く力を持っていないので服毒か、小刀で首を切るのが一般的。ほとんどが服毒ですけどね。痛いのは誰だって嫌だもん。

 自害とはいえ、相当な勇気がなければ己の首を切る行為は行えませんから。それに人前での自害行為は別の意味も含まれる。


“命を持って拒否する”


 拒絶の意味が含まれている行動は、貴族の女性が嫌いな男性のもとへ嫁ぐのを拒むときによく用いられるものだ。

 目の前で自害しようとする女性がいれば、誰だって止めるでしょ? それが自分の家族なら尚のこと。意思表示を明確にさせる行いと言えばいいのでしょう。

 私のようになんの躊躇もなく首を切る方は極少数なのです。


「フィーア!!」

「ヴァーベナ!!」


 お父様と王太子の叫びが重なる。

 お父様が悲痛な表情をされるのは理解できます。が、何故王太子まで同じような表情なのか? 邪魔者でしかない異母妹がいなくなるというのに、悲しみとも憤慨ともとれる複雑な表情を浮かべているのは、何故なのでしょう?

 ああ、思考がまとまらなくなってきた。

 かき切った首筋から流れ落ちるのは赤い血液ではなく、光の粒子。体内の血液が粒子となり、外に流れ落ちる前に光を纏い空中へ霧散する。その霧散した粒子はどこへ行くか? それは―――…


「緊急報告申し上げます!」

「許可する」

「はっ! ルフレ国の結界が再構築されるのを確認! 諜報員からの報告によれば、消滅と同時に新たな結界が張られた。とのこと!」


 今度の結界はルフレ国民であっても、少しでも悪意ある者を完全排除する結界。何人たりとも()()()を侵略させない!


 それが結界を構築する者の願い。

 己の命と引き換えに結界術を構築した初代が設定した魔法。

 初代の魂を受け継ぐ者だけに与えられた、特権。


 ゆっくりと後方を振り返る。とてもとても悲しい気配が背後からするから。


「……泣かないで」


 瞬きもせず、声を殺して泣くお父様の姿が痛ましい。伸ばせば届く距離で娘が自害とも取れる行動を起こせば、心優しいお父様が涙することは必然。


 でもね。私は―――


「ノワール国からお父様を自由にしてあげたいと、ずっと思っていたのです」

「…フィーア…」


 私の本当の父はノワール国王が選んだ王宮騎士。

 近衛騎士ではなく、王宮を守護する騎士。伯爵位を持ちながら王族の騎士にはならず護衛の任に就いたのは他でもない、娘である私の成長を少しでも長く、自分の目で確かめていたいから。

 宮殿内の巡回中に別棟に住む姫を目にすることは少なく、でも不可能ではない。少ない機会に少しでも長く娘の成長を自分の目で感じたいとの思いから、嫌悪する国から離れることなく居続けている。


 ノワール大国一の剣の使い手を逃さないため、愛する女性と娘を人質にされた悲劇の騎士。

 女性は国王の側妃として。娘は国王の姫として公にされた絶望の騎士。


 視界の中に緑溢れる森林に囲まれた小国の姿が映る。

 大樹の近くには白とも水色とも見てとれる小さなお城。ノワール大国の領主の城くらいしかないルフレ王城も、精霊の加護を受けて防御力は高い。城下町も同じように加護を受けている。そう簡単に進軍を許さないよう、道は迷路のように入り組んだ造り。

 そこから数キロ離れて小国を包囲しているのはノワールの軍服を着た兵士。先兵隊がルフレのすぐ傍まで迫っていた。結界が消失したと同時に国へ攻め入るため、数日前から待機していたのだろう。

 兵士の中に魔術師も含まれている。結界を“視る”ことが出来るのはルフレ王家直系者か絶大な魔力を持つ魔術師ぐらい。


 私は次期結界巫女として“視る”能力を生まれ持っている。

 巫女の能力のひとつとも言えますが。結界を“視る”能力があるからこそ、新たな結界を張る際に新たな付加能力を加えることが可能なのです。

 私が付随させる力は“排除”。ルフレ国に仇名す存在はすべて排除する。たとえ国民であろうとも、敵国と通じる者は完全に遮断し、国内状況を一切外には漏らさない絶対防御の結界。

 

 命ひとつで守れるなら、幸せです。だから―――…


「お父様はお母様がルフレ国の王女だと知っていたから結婚なさったのですか?」

「違うっ!!」


 私の質問に力強い返答が返された。

 涙目で美丈夫が台無しですよ。“氷結の騎士様”の名が泣きますよ。社交界で人気の貴公子が、涙目とは……最後に良いモノが見れました。


「泣かないでお父様。フィーアは死ぬ訳ではありません」

「死ぬと一緒です!」


 巫女でない方たちからすれば同じなのでしょう。でも巫女として生まれた者にとっては違うのです。


「今度生まれるときは男の方になりたい。誰にも守られることなく、自分自身で守れる力を持った者に」

「今から力をつければいい! フィーアならそれだけの能力は持っている!」

「確かに王太子以上の膂力と能力は持っています。ですが、女というだけで剣を持つことは許されない」


 ちらりと王太子を見れば――顔色が優れないのはどうしてでしょうか? 邪魔者が居なくなるというのに目を見開いて、顔色を失くして。切羽詰まったと表現できる形相です。

 何時も余裕な王太子にはあるまじき表情に、私は驚愕し、笑いがこみ上げる。人間、驚愕し過ぎると笑いがくるのですね。


「なんですか? そのお顔」

「なっ!?」


 あら! 無自覚。

 王太子の意外な一面で気分が高揚した私は大胆な行動を取っていく。普段は大人しい第二王女らしからぬ活発な少女へと変わっていく。

 これが本来の私。王宮という名の鳥かごで飼われなければ、本当の両親の庇護下で活発な年相応な少女へ成長していただろう。


 結界巫女である宿命を背負って……それでも楽しい毎日を、愛される毎日を過ごしていたのでしょう。


 伏せていたお父様の瞳から、ポロリと一粒の涙が零れ落ちた。零れ落ちた雫は筋となし、次々と涙の川を流す。

 静かで、そして悲愴に泣くお父様の姿を見ていたくなくて、私は消えゆく体で抱きついた。護衛騎士として傍でいて下さったときでさえ甘えたことはない。ジュークが私の父であると理解していることを、王族――陛下と王太子――に知られないようにするため一定の距離を保っていたのだ。


 お父様が護衛騎士に選ばれたときの私の気持ちは分からないでしょう。

 どんなに嬉しく、そして苦痛だったか…お母様と同じように親しくなりすぎて引き離されるのではないかと悩みました。お母様がルフレ国の王族だと薄々勘付いていた陛下は、生まれたばかりの私とお母様を引き離しましたが――お母様は強いお方です。

 ご自身の力を使い毎日私の許へ通って下さいました。短い時間であっても毎日……病気を患い立てなくなるその日まで。


 お母様の死に目に会えなかったのが一番辛い思い出……


 跪き、声を殺して泣き続けるお父様の頭を抱き締める。父の温もりを直に感じたのはこのときが初めてだと気付き、少し笑ってしまった。

 私は死ににゆくのではないと説明しても、結界巫女の宿命を背負わない方々には理解出来ないでしょう。ルフレを守る結界として残りの生涯を過ごすのだと説明しても、納得して下さらないでしょう。


「お元気で」

「フィーアァァァ!!」


 出来るだけ優しい言葉で別れの挨拶を述べれば、お父様の腕が背中に回り、私を抱き締める。抱き締めるというより抱き潰すと言い直します。痛いです! お父様。背骨がギシギシ悲鳴を上げてます!! ご自身がどれほど鍛えているのか思い出して下さい!

 本気で『抱き潰されるのではっ?!』と意識が朦朧としたとき、薄れゆく視界の中で第二王子と第一王女が駆け寄り、私を抱き締める。何事?! と驚愕のあまり意識が復活すれば、二人が泣いていることに気付いた。でも――…


 気付いたときには聴覚は失われていました。


 口の動きで何事かを叫び、そして謝罪しているのだと気付く。

 だから私は笑った。王宮では見せたことのない、母とこっそり眺めていた父にしか見せたことのない本来の私の笑みを二人に向ける。


 知っていましたよ。お二方が王太子の命令で私に近付けないことを。

 廊下ですれ違うたびに悪態を吐いていながら、私が離れたとたん罪悪感で手を固く握っていらっしゃることを。

 後悔でいつも私を盗み見ていることを。

 私は知っています。

 本当はとても優しい、私の血の繋がらない兄姉なんだということを。

 異母兄を敬愛しているからこそ王太子の無茶な要求も受け入れ、拒むことができず悩んでいらっしゃったことも。


 遠くからなら様子を観察してもいい。お茶に誘うのも構わない。ただし顔を合わせた場合必ず蔑むこと。

 とでも命令されたのでしょう。でもね、王太子殿下。

 人の気配や微細な変化を見抜く能力が高い者にとって、王子王女の気配や複雑な心境など簡単に読み解けるのですよ? それを分かっていても、私はお二方とは接触しませんでしたが。仲良くしたら今度は違う無茶な要求をお二方に申し付けていたでしょう? 逆らえないのを承知で。だからです。


 王太子と似通った容姿でも性格が真逆の第二王子。吊り上った目元で冷たい印象を持たれるも、凛とした姿勢と態度を崩さない第一王女。

 優しい同母兄姉。

 お茶会に何度も誘って下さったとき、本当は参加したかった。お異母姉様のお友達はとても私に親切で、侍女を使ってこっそりと別棟まで焼き菓子を届けて下さったのです。


“貴女好みの茶葉と焼き菓子を届けさせます。いつか参加して下さいね。”


 添えてある手紙を読む度、温かい気持ちになれた。久しぶりにお会いしてもいつも柳眉を寄せ、すれ違う瞬間に嫌味を言われますが、本心でないのは明確。文字に込められた想いを理解しているからこそ、私はお二方を苦手な“フリ”をし続けた。

 お父様が「手引きいたします」と声をかけて下さっても、首を縦に振ったことはありません。

 私の行動ひとつでどれほどの方々に迷惑をかけるのか、想像出来ます。


 陛下と似た思考を持つ王太子。だから私は貴方が嫌い。


 聴覚を失い残念な思いになっていましたが、何事かを叫ぶ王太子の声が聞こえないのは歓迎です。口の動きで何を言っているのか読み解けてしまうので、出来る限り王太子から目を逸らす。

 私が最後に見つめるのは――…


「今まで有難うございます。お父様、お異母兄様、お異母姉様」


 運命の日が来るまで呼ぶ予定の無かった言葉。

 初めてお異母兄様、お異母姉と呼ばれたお二方は私との距離を一気に詰め寄り、抱き締めてくる。跪いたままだったお父様も私を自分の方へ引き寄せる。

 胸に感じるお父様の体温。体を覆う異母兄姉の体温。私の気分は最高潮で、ゆっくりと瞳を閉じた。

 脳裏に浮かぶ緑の景色。

 その景色ななんなのか。それがどういった意味を示しているのか。説明されずとも分かる。

 薄い膜だったルフレ国土を覆う結界が徐々に強度を取り戻すにつれ、私の体から漏れ出る光が増えていく。漏れた光は風精霊の力によってルフレ国に届けられ、結界に吸収される。


 私の命が国土を覆う強靭な結界となる。


 ごめんなさい、と心の中で何度も謝罪する。

 ありがとう、と心の中で何度もお礼の言葉を述べる。

 さようなら、と別れの挨拶を声にした。


 しがみつく3人から距離を取り、両手を広げる。その頃には私の全身は光に包まれ指先から輪郭を崩していた。


ヴァーベナの生まれた理由はルフレ国の結界です。結界の役目を持つ者は不老長寿で残りの寿命をルフレを守る結界としてまっとうします。

前任者の寿命が尽きかけたため、新たな結界としてヴァーベナが自らの命を捧げます。

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