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姫巫女の結界  作者: 西山 ゆま
3/6

決意

 陛下に良く似た容姿を持つ、文武両道で秀麗な王太子。母が王妃ということもあって、四人兄弟姉妹の中で一番身分の高い王子。


 私は底辺ですけどね! 城勤めの侍女や侍従にすら劣ります……別棟以外は。


 今年成人である15歳を迎え、幼さの中に大人びた印象がある。少年から青年へ成長し始めた王太子の言葉に耳を疑った。

 成人したての王族が指揮官となり、長年衝突の絶えない国と戦を起こすことは少なからずあります。が、廃れつつある初陣式。しかも敵国でもなく、どこの国とも同盟を結んでいない中立国である小国を欲しがる理由が分かりません。

 

 他の兄姉の考えが分かるほど、交流を深めていませんので。深める理由がありません。

 自分のスタンスが少し嫌になる。何も興味を示さない己の性格の所為で、知り得る時季を逃してしまった。

 基本、住まいである別棟から一歩も外に出たがらない引き籠りなので。出かけるとしたら王宮の書庫にある持ち出し厳禁の本を読みに行くことぐらい――まさか…ね。

 そこまで考え、引っ掛かりを覚える。

 王城の中核部にある巨大な図書室にある持ち出し禁止の本には少数だが、物語が含まれている。私はその物語が大好きで、空で文章が言えるほど読みこんでるほど。その本の題材が―――


「ヴァーベナはルフレが好きなのだろう?」

(やっぱり…)


 神秘的な国と精霊の住まう神樹が揃えば妄想は膨らむ。

 そこに姫と騎士が追加されれば更に妄想は膨らみ、己の中に成長しきった妄想を外に出すため紙に書き写す。

 それが一冊の本となり、夢見がちな少女はこぞって騎士と姫の恋愛が描かれた本を集め、読む。

 

 私もその夢見がちな少女の一人。


 別棟にはルフレ国をイメージさせる小説が何冊もあり、それを読み続けた結果、ルフレに歴史に興味を持ち王宮図書室でこっそりと調べるほど熱中してしまった。


(ジューク以外知られていないと思っていましたのに)


 どこに行くにも必ず数歩背後を歩くジュークは、私の行先などお見通し。入口付近で待たせているとはいえ、持ち出し禁止書は図書室でも一番厳重な場所に保管され、閲覧する場所も決められている。ルフレの歴史を調べていても、護衛のジュークには気付かれていないと最近まで思っていました。

 ジュークの性格を侮っていた証拠です。

 

 少し…いえ。若干…否。結構付きまとい行為が多々見受けられるジュークが、私のすることを見逃すはずもなく。司書を誑かし(本人は「お願いしたら快く引き受けて下さいました」と述べていましたが、信じてません)私の行動を逐一報告させていたのです! 何を読んでいたのか。その本の感想は? 棚の上の本を取りたいが身長が足りず、しばらく見上げていた等々!

 本人の口から聞かされたとき、ゾッとしました! 眉目秀麗、将来有望株の護衛騎士の考えていることが理解できず、距離を取りたくなったほどです。


(心の距離は取れますが、物理的距離感は一層近くなりました…)


 ジュークでさえ私が密かに調べていることを知ったのです、身分が陛下の次に高い王太子が知っていてもおかしくはありません。

 ですが、先ほどの言葉ではルフレ国を攻め入る理由がまったく見当もつかない。

 私がルフレの歴史に興味があるから? 私がルフレ国を好きだから陛下にお願いして戦の準備をしたと思っても仕方がありません。

 なので―――


「私がルフレ国に興味があるからといって、ルフレに戦を仕掛ける理由がありません! 陛下も陛下です。王太子の我儘を聞き入れるとは、それでも大国の国王ですか!」


 場が騒然とする。その反応は正しい。

 王の娘とはいえ、国政に関われば王女も一臣下。私はノワール国一番の権力者に対して、暴言に近い発言を繰り返し行っているのです。本来なら陛下直属の近衛に取り押さえられてもおかしくない状況なのに、そうならないのは玉座に座る陛下が手で制しているから。


 臨戦態勢でこちらを見つめる近衛たちに対し、背に私を庇うジュークは平気で睥睨している。

 少し、空気読みましょうね? と思ってしまっても仕方がありません! ジュークの優先順位がおかしいことなど、分かりきったことです! でも、時と場合がありますよね?! それを無視するのもジュークなのです!!


「お止めなさい」

「………御意」


 その間はなんですか?! 注意されたことが不満なんですか?! 訊ねてみたいですが、想像通りの答えが返ってきた場合、返答に困ります! 部屋に戻ってから訊ねましょう。


 どこを睨み付けていたのかを想像したくありませんが、私を背に庇うジュークを下がらせ再度陛下と王太子の前に立つ。

 両壁に並ぶ貴族たちの視線を無視し、スカートで隠れている震える両足に力をこめた。


 恐怖からくる震えではない。これは完全に怒りからくる震えだと自分に言い聞かせ、口を開く。


「私のためと仰るなら……ルフレ国に戦を仕掛けるのをお止め下さい」


 自意識過剰と思われてもいい。何を勘違いしているんだと哂われてもいい。

 私はどんなことをしてでも戦を回避したい。平和を愛し、自然を愛し、妖精と精霊と仲睦まじく共存する国を守りたい!

 背筋をピンと張り、光の加減で黒にも見える珍しい虹彩の紫の目に力をこめる。


「ルフレ国など欲しくありません」


 ルフレを物扱いしないで!!

 言葉と瞳に乗せた強い思い。それをどうか受け取ってほしいと願いながら――…



 だけど…思い通りにならないのが世の説と申します。

 はっきり申しますと国の頂点に立つ者と王太子には私の気持ちなど微塵も感じられなかったようで、


「結界が消滅次第、ルフレに攻め入る」

「はっ!」


 ………何も聞かなかったことにされました。

 鼻で哂われた方が良いと思ったのは初めてですよ! ちょっ! 貴族の方々も目を逸らさないで下さい!! 生温かい眼差しも止めて下さい! 気丈に振舞ってみても、惨めなんですからぁ…


 ざわつきと共にあった視線がすべて外され、広大な広間でポツンと一人ぼっちを味わう。

 住処である別棟以外では常に一人ぼっち(背後に佇む長身美形護衛騎士は含まない)なので気にもしませんが、やはり耐えられない空気と申しますか……以外と生温かい眼差しの方がキツイと初めて知りました。


 報告も終わり軍議会議に移るので関係者以外は解散。という宰相の声で意識を浮上させる。

 軍事関係者ではない私は広間を出なければならない。陛下から借り受けているジュークは分からないが(常に背後に張り付く騎士ではありますが、軍内部では相当上位の位置にいるようです。侍女が教えてくださいました)私は確実に追い出される。


 案の定と申しますか、何故貴方が? と申したらよいのか…嬉々として手を差し伸べてくるのはエスコート役と思ってもよろしいのでしょうか? 王太子殿下。

 背後に立つ騎士からの威圧感が半端ないので止めてほしいです。というより確実にジュークと睨み合っていませんか? ルフレ侵攻の最高責任者は王太子殿下ではないのでは?

 と思っていても声には出さない。私の知らないところ(頭上)で牽制し合っている殿方に、声をかけるのも馬鹿馬鹿しい。


 本当、何もかも馬鹿馬鹿しい………


 静かに二人の傍から離れる。気配を立つのは昔から得意で、騎士の中でも精鋭で上位騎士であるジュークでさえ意識を少しでも逸らせば見失うほど。常に近すぎる位置にいるのは私を見失わないためだと本人から聞かされている。


 そのあとに『それでも離れるようであれば紐で繋ぎます』と……大国の王女に対して扱う行為でもなければ、面と向かって宣言する台詞でもない! 宣言されたあとに「却下」の二文字が言えなかったのは、ジュークの目が本気でした…頷くこともしませんでしたけどね!!


 そんな脅しをかけられていながら、私は陛下から借り受けた騎士の傍から離れる。

 上座に座る陛下は二人のやり取りを面白そうに眺めているので、私の行動には誰一人気付いていない。王太子以外の異母兄姉でさえ、私が席から離れるのを気付かない。


(それでいいのです)


 私の姿は誰の目にも入らない。入れてはいけない人間。

 目立たず、いつかはノワール国のために他国へ嫁がされるのだと思っていたが、今、漸く本来の目的が達成できる。

 床に伏した母との最期の約束。形見のロザリオと共に預けられた本来の御役目。


『小さな貴女に託すには重たい()()だけど…貴女は私の誇りよ。    』


 7年前に亡くなった母との思い出。誰も知らない二人だけの約束。

 服の下に隠していたペンダントをそっと引き抜く。小さな手には納まりきらないが、大人の女性の手のひらなら充分なサイズのソレを服の中から出し――純金のチェーンを引き千切って外す。

 カシャンと床にチェーンが落ちた小さな音に不毛な睨み合いを続けていた二人の視線が私に向く。

 二人の視線がこちらへ向いたということは、上座の陛下の視線もこちらに向くということで……二度目の視線集中を受けてしまった。


(気にしませんけどね)


 人々の視線が私から逸らされている間に、充分な距離は取れた。

 ジュークと王太子、窓辺の貴族たちの前に等間隔で並び立つ陛下直属の近衛騎士。並びに武に秀でた貴族たちからも充分な距離は取れた。


 私が今、立っている場所は広間の中央。頭上を見上げれば美しい大樹の回りに天使が舞うステンドグラスの真下に佇んでいる。太陽が王城の真上に来ているのか、ステンドグラスから優しい陽光が差していた。

 色彩豊かな暖かな陽光は私を守るように降り注ぐ。

 その暖かさに母の温もりを思い出し、自然と笑みが浮かぶ。


 恐怖などない。

 この世に生れ落ちて10年しか経っていないが、後悔もない。あ、少し後悔していることならありますね。()と沢山話が出来ればよかった。

 母とどうやって恋に落ち、私が生まれたときの気持ちなどを訊いてみたかった。


 手の中のロザリオの中心を飾る宝石に唇を寄せる。それが“封印を解く鍵”。心の中で世話になった人たちに礼の言葉を何度も告げ、ロザリオを目前に掲げた。

 色彩豊かなロザリオが光を反射しキラキラと輝いていたのは数秒。徐々に輝きが強くなり、目を背けなければ防げないほどの発光を見せたときには真白に輝いている。

 周囲が目を背けても私はロザリオを見つめ続ける。

 真白の光は持ち主に害を及ぼすものではなく、私の眼には真白の光も柔らかな色彩としか映っていない。

 

 王太子は己の近衛に囲まれ、ジュークは腕で目を庇いながらも私から視線を外さない。さすがは護衛騎士。陛下から直接指名され、私付きにされただけはあります。


 変な所を感心していれば真白の輝きが徐々に治まり、光が落ち着いた頃にはロザリオが一振りの小刀に代わっていた。

 柄は精密な細工が施された金。鍔に当たる個所にはバラの形に加工されたルビー。刀身には緑の蔦模様が浮き出ており薄らと真白く発光している。


 魔法剣。


 聖剣とも呼ばれる小刀を私が握っていることに最初に気付いたのは、強烈な光の中でも一切視線を逸らさなかったジューク。


「ヴァーベナ様!」


 咎める声。なのに――…


「何故そのような顔をしているのですか?」


 柳眉を寄せ、眦を下げた表情はまるで悲しみを耐えているかのよう。

 ジュークは陛下から直接指名された護衛騎士。庶子の母を持つ私との関わりなど、ない。なんの後ろ盾もない私の傍にいても徳など、ない。


 と言っても相手は変わり者。『貴女の後見人になりたいのです』と切実に訴えられたときは、耳を疑いました。ジュークの頭も疑いましたよ? 王宮で働く騎士です。ジュークの身分は伯爵。爵位を持つ騎士が、地位の低い王女に対して述べる言葉ではありません!

 私の後見人になったからといって、国からの恩恵など微々たるモノ。何も持たない王女に取り入っても仕方がない。なので、全力で聞かなかったことにしました。


 隙あらば訴えかけてきますが………


 表面ではうんざりしていましたが、ジュークと過ごした日々は中々楽しいものばかり。侍女より口煩いときは本当にうんざりしましたが、それでも私の傍で微笑む彼を見るたびに私の気分も高揚したものです。

 本人には告げません。付け上がるだけです。

 時には母のように叱り、時には父のように包容力を見せ、私を大切に守ってくれる騎士。

 社交界で囁かれる“氷の貴公子”とはどなたのことを言うのですか? まったく表情が変わらず、内心も読ませない“怜悧な騎士様”とはどなたをさすのでしょうね? 奥方を無視し、王女の後を付け回す騎士……否定出来ません。奥方を大切にし、早く世継ぎを!


 スカートの裾を軽く摘み、淑女の礼を取る。

 片手は聖剣を持っているので、簡略化したもの。今から行う行為は私にとってはとても神聖なものであっても、ノワール国にとっては忌々しいものでしかない。

 私の礼に騒然としていた場が静まり返る。緊迫した気配のみ残し、静かになった広間にクスリと笑いが漏れ出た。


(暇を持て余す貴族の方々は、どんなことにも興味を示しますね)


 怪訝そうな王と王太子、困惑している第二王子と第一王女。そして青褪めていく護衛騎士。

 ジュークのみ訳知り顔と申せばよいのでしょうか? どんなこともお見通し。私の行動など簡単に先読みされてしまう。止められる前に早めなけれ―――


「止めさない!! フィーア!」

「………え?」


 お母様しか知らない私の真名。

 その名を何故ジュークが? と疑問に思う必要はありませんね。真名を知る方がもう一人います。お母様と、


「報告します! ルフレ国を守る結界の消滅まで、もうまもなく!」

「戦闘準備」


 駆けこんで来た兵士の言葉に、玉座に腰かけていた陛下の瞳は爛々と輝き、王太子は即座に自分の配下へ命令を下す。

 慌ただしい空気の中で冷静なのは私とジューク。

 剣を握りしめた姫がいるのに、準備で忙しいからといって放置って……それでよいのですか? 王専属近衛騎士様方。

 まぁ、先ほどまでは警戒心バリバリでこちらを睥睨されてらしたから、意識が別のものに少しの間逸れても仕方がありませんか。


 その方が行動に移しやすい。


 すべての視線が外れた。と思っていたら、案の定ジュークだけは視線を逸らさない。私の方へ近付きたいのか一歩足を踏み出そうとする度に、慌ただしく動き回る兵士に邪魔されて前へ進めない。そのことで若干苛立ちを見せてはいるが、冷静な部分は残っているようで少しずつこちらへ歩みを進めている。

 

 なんという執念!


 牛のようにゆっくりとした動きながら確実にこちらへ近付いてくるのは、さすがです。美形を形容し難いほど崩し、向かってくるのは止めてほしいですが…


(それだけ必死なんだと伝わってきますね)


 喧騒の中で唯一人私を見てくれるジュークに満面の笑みを向けた。

 彼の目が見開かられる。それもそのはず。私が心からの笑みを向けるのは珍しいこと。別棟で働いている方々にさえ、あまり見せない。微笑むことはあっても年相応の満面笑顔などあり得ない。

 だからジュークの心中が手に取るように伝わる。死んだような魚の目で、いつも私の傍近くにいるのだから。いつも冷静で何事にも動じない彼らしくない行動に、笑みが誘われる。光のない瞳に唯一輝きが戻るのは―――


「私が関わったときですね」

「フィーア!!」


 音が消える。


リアルが少しバタついているので、落ち着き次第アップします。

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