Prologue:日が沈む
日が沈む
われらのともしびよ
遠く空と海の境に沈んでいく夕日を眺めながら、浜辺を歩く男が一人。
ひそやかな月夜に わたしは置きざり
左手の瓶の底にわずかに残った酒を飲み干し、節を付けて歌いはじめる。
あのひとにまた会えたなら
ああ 彼女は僕のともしび
それは僕だけのともしび
男はそれから何時間も歩いた。夕日のやさしい橙はいつしか灰色にのみ込まれ、波の音も聞こえなくなった。
あたりはしんとしていてとても暗かった。どうやらここは森の中らしい。道は舗装され、わきの花壇もきれいに整えてある。どうしようもないところに迷ってしまった、と思っていたが、人が住んでいる気配を感じて男は安堵した。
男はひとり、石畳にぼうっと立ち尽くしていた。だがしばらくしてなにかが男の鼻のおくを刺激したのだ。“なにか”は喉のほうへ流れ込み、腹のあたりをくすぐる。
すううう......
男は深く息を吸い、まるで漂う“なにか”に身を委ね導かれるように、一歩ずつ足を前に踏み出していった。
おぼつかない足でたどり着いたのは、修復中なのか向かって右半分をすっぽり布で覆われた、館だった。正面入り口のドアの上のほうに看板が掲げられているから、なにかの店だろう。
いや、と男はつぶやいた。
ここは......
外壁や窓にはツタが乱れて這っているようで、館の中はよく見えかった。が、ツタや布を介して漏れ出す灯りや、食器を重ねる音に男は固唾を飲んで思いを馳せた。
男はやっとの思いで館の正面のドアの前に立ち、ノブに手を掛けドアに体重をかけた。
小さなの看板には、こう書いてあった。




