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【LUNA】  作者: 冬月 真人
3/13

【自己証明】



目が覚めると病院のベッドだった。

(どうして?)

思い出せない。

見回すとヘッドボードに名前の書かれたプレートがある。

「島崎裕一郎・・・」

どうやらこれが俺の名前らしい。

状況が把握出来ずに途方に暮れている所に看護師が入って来た。

「気が付かれたんですね。今、先生を呼びますからそのままで居てくださいね」

ほどなくして医者と看護師が入って来た。

それと背広を着た男がふたり。

ひと通りの診察を終えた医者は難しい顔をしていた。

「身体には異常は無いですね・・・ただ、受け応えが妙です」

医者は俺にではなく背広の男達に言った。

「今日は何月何日ですか?」

医者は俺に向き直って聞いた。

「・・・」

答えられない俺に医者は更に続ける。

「貴方は転んで頭を打ったんですよ」

「はぁ」

「貴方の名前を言ってください」

「・・・島崎裕一郎」

俺はもう一度プレートを見て言った。

「もういいですよ先生」

背広の片割れが俺の前に立った。

そして1枚のカードを投げ寄越した。

運転免許状況だ。

名前は島崎裕一郎。

俺の顔写真も印刷されている。

背広の男は更にもう1枚、カードを投げ寄越した。

運転免許証。

名前は下田俊樹。

写真は俺だ。

2枚とも違う住所。

更にもう1枚。

また更にもう1枚。

また更に・・・


背広の男達は刑事だった。

俺は悪質極まりない詐欺師で、日本全国をペテン行脚していたそうだ。

ドジを踏んでふたりに追われた時に商業ビルの二階から飛び降りて逃走を図って着地し損ねて救急搬送された・・・らしい。

で、頭を打って記憶喪失。

まるでマンガだ。


俺は挙げられる余罪の数々の認否すらままならず、全て【記憶に無い】と言わざるをえなかった。

正直な話、こんなことはお互いにどうでも良いことだった。

コイツらは容疑否認のまま、状況証拠と物的証拠で送検すればそれで終了。

俺は間違いなく有罪だ。

まあ、俺もそれに異論は無い。

あれだけの偽造免許証。

俺が善人でないことは間違い無いのだから。

記憶を失くしたついでだ。

罪を償って過去も失くしてしまえばいい。

人生をリセットする機会だと思った。


だが問題がひとつ。

(俺は誰だ?)

思ったと同時。

「お前誰なんだよ?」

刑事が困り果てた顔で言った。

出て来た免許証も身分証も全て架空だったそうだ。

「本人を確定出来ないなら、各偽名毎に立件しますか?」

「それぞれで有罪なら名前の数掛ける懲役年数か?」

「100年超えますね」

ふたりの刑事は頭を悩ませている。

冗談ではない!

「詐欺で一生刑務所暮らしなんて本当に冗談ではない!」

思わず俺は叫んでしまった。

「あぁ、そんな馬鹿な話あるわけないだろ」

(本気にするなよ)という表情だった。

「し、指紋とかどうですか?」

俺は慌てて提案した。

「生憎だがお前に前科は無い」

どうやら既に照合済みだったようだ。

「DNA、DNA!」

俺は髪の毛をむしり取るように差し出した。

「一体、誰のDNAと照合する気だ?」

刑事の冷ややかな視線が痛かった。

「俺の顔、全国に知らせて知り合いを名乗らせるってのは?」

「大規模な首実検か。最悪はそれもあるかもしれないな」

「それは無理です」

医者が水を差した。

「検査でCTを撮った時にシリコンが写りました。患者さんは整形をしていますね」

首実検の道はあっさりと断たれた。


今、俺は俺が俺であることの証明を求められている。

指紋もDNAも、俺の身体や俺を構築する全ては何ひとつ俺を証明しない。

現代社会に於いての個人の証明や特定は、全て第三者による認定に過ぎない。

詐欺師だった俺はその盲点を利用してのさばり、そして今、その盲点によって俺という存在を抹消されている。

俺は誰で、誰が俺なんだろうか。

そもそもが他人の証明のもとに存在する俺は、本当にこの世に存在するのだろうか?

なんて愚かな罪を犯したのだろう。

誰も俺を知らない。

俺も俺を知らない。

俺は自らを生きる屍にしてしまった。



・・・貴方は誰ですか?

それを証明出来ますか?








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