【父と子】
「来月の16歳の誕生日に原付きの免許を取りたいんだ」
神妙な面持ちの息子が食卓の向こうに居た。
「ダメだな」
俺は息子の願いを一蹴した。
「和也はね、受験料もバイクのお金もアルバイトで貯めたのよ」
穏やかな口調の家内は息子の味方らしい。
「ダメだ」
再度首を横に振る俺を見た息子は落胆しながら席を立った。
家内とふたり。
残された静寂の気まずさを破ったのは家内だ。
「知ってますか、あの子が新聞配達を始めた理由」
「いいや」
「あなたと一緒にバイクで走りたくて6年も続けたのよ」
「そうか」
俺は茶を啜るとそのまま沈黙した。
夜、息子の部屋を覗いた。
乾いた涙の跡を頬に残した息子が眠っていた。
(似たような事を考えるもんだな)
俺は枕の横に冊子をひとつ置いて部屋を出た。
手紙を一通書き添えて。
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和也へ
試験だけで乗れる原付きにオマエを乗せるのは親として、バイク乗りの先輩として反対だ。
実はな、もう申し込んである。
技術を学んで免許を取れ。
追伸
原付きじゃ俺の背中は追えないぞ。
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翌朝、自動車学校のパンフと手紙を持った息子が部屋から飛び出して来た。
「ありがとう」
「免許を取らせたこと、俺に後悔させるなよ」
満面の笑みの息子の頭を軽く撫でた。
来月、息子以上に免許を楽しみにしている俺が居るだろう。
キャッチボール以来。
息子とのふたつ目の夢が叶う。