【オオカミ少年】
イジワルなコウくんとお人好しのカズくんは小学生になっても仲良し。
ある日コウくんは公園で遊んでいるカズくんを見かけました。
「おーい、カズくん!」
大きく手を振りました。
カズくんも大きく手を振ってこちらに走って来ました。
「カズくん、大変だよ!カズくんの家が火事で燃えてるよ!」
コウくんはまたいつものウソを言いました。
「大変だ!!」
カズくんはまっしぐら、お家へ向かって走りました。
少しして消火器を持ったカズくんが公園に戻って来ました。
「コウくーん!ありがとうコウくん。おかげで大丈夫だったみたいだよ」
コウくんはポカンとしながらカズくんを見ました。
「でも、ウチの火がコウくんのウチに燃え移ったかもしれないよ!お庭の方から煙が上がっていたんだ!」
それを聞いたコウくんはカズくんの持っていた消火器を引っ手繰るように借りると家に向かって走りました。
ゼイゼイと気管支を鳴らしながら辿り着いた家の庭からは確かに煙が上がっていました。
コウくんは慌てながらも消火器を持って庭へと駆けました。
そして煙目掛けて勢い良く消火器を噴射。
煙と消火器の粉で目の前が真っ白です。
やがてそれらが晴れて見えた先にはバーベキューの準備をしているコウくんパパが居ました。
コウくんは真っ白なパパにめちゃくちゃ怒られました。
それから1年、バーベキューは無しになりました。
イジワルなコウくんは仲良しのカズくんと同じ高校。
ふたりは街を見下ろす丘の上から双眼鏡で交互に見ていました。
「カズくん、ユウヤの奴が駅前を歩いてるよ。隣、彼女かなぁ」
「ホントだ、いいなぁ」
他愛の無い景色と他愛の無い会話で居られるふたりは無二の親友。
でもコウくんは相変わらずのイジワルさんです。
「おい!カズくんの家が宇宙人に襲われてる」
もう滅茶苦茶です。
嘘に成長の度合いが反映されていません。
カズくんはコウくんに渡された双眼鏡で自分の家を見ました。
「コウくん、宇宙人は次にコウくんの家からおじさんを連れて行こうとしているよ!」
カズくんは慌てて双眼鏡を渡しました。
「はあ?」
ウソだと分かりきっている話。
コウくんは半笑いで双眼鏡を覗きました。
次の瞬間、コウくんは双眼鏡を放り出して走り始めました。
「父さん!」
レンズの向こうでは確かにお父さんが円盤の光に吸い込まれていました。
坂道を転げるように、時には本当に転げながら走りました。
泥だらけでボロボロの服のまま、靴すら脱がずに家に上がると「父さん!父さん!」と何度も叫びました。
そうして居間の扉を開けると、新聞を見ながらタバコを吸う父さんがそこに居ました。
(マズイ)
コウくんはとっさにそう思いました。
泥だらけ、しかも靴のまま。
過去の経験上、間違いなくガッチリ怒られるパターンです。
が、今日は怒られませんでした。
お父さんはコウくんにニッコリと笑うと声を掛けました。
「ヲカエリ、コウクン」