灰村清次の文化祭・準備篇2
「っあー!ダルっ!」
「いや、そんなに元気なダルい発言初めて聞くんだけど……。」
学校祭の準備も着々と進行する中、清次は叫んだ。
萬田も軽く突っ込みをいれたもののその声にいつもの元気はない。メニューを考えていたのだが、二人とも緑色のメニューを考えるのに飽きてきていたのだ。ちなみに竹内は早々に戦力外通告をうけ内装に従事している。
「だいたい緑一色をやるなら紅孔雀でも良いじゃん!」
「……それは……ローカル役だから……。」
「いや、でも緑のみの料理よりは楽っしょ?」
「……中華しか……浮かばない……。」
「麻雀なんだから中華でいいじゃん。」
「……一理ある……!」
「じゃろ?」
「いやいや、もう生徒会に届けを出したから!今さら変更とか利かないから!」
「ま、そりゃそうだよな。だいたい何でメニュー決める前に店名を決めたんだろう?」
「そりゃ、出た案をそのまま採用したからじゃない?」
「……つまり……A級戦犯は……筒井君?」
「でいんじゃね?この場に居ねーし。」
「え?何でまた?」
「クラスの出し物があるんだとさ。」
「ふ~ん。筒井君のクラスは何やるんだろう?」
「ステージで踊るとかなんとか言ってたな、アイツ。」
「……筒井君が躍り狂う姿が想像できないんだけど。」
「……きっと……無表情で……黙々と……。」
「あー、なんか分かる。」
「残念だけど俺は踊らないぜぃ。」
「あー、そうか踊らないのか。」
「そうだよね~、照明とかもあるしね。」
「……ちょっと……残念。」
「「「って、うわっ!!!」」」
「……いや、遅いし。しかも、そこまで驚くかい、普通?」
「驚くわ!何でなにも言わずにナチュラルに会話に参加してんだよ!」
「そりゃ、俺をネタに盛り上がってたからね。途中で入ると微妙な空気になるだろ?」
「……いやいや、その気の利かせ方絶対におかしいよね!?」
萬田さんのツッコミは的確だった。
・・・・・・
その後30分ほど作業をして、メニュー決めも一段落ついた。
「さてメニューはこんなもんかね?」
「……多分……十分。」
確かに、飲み物には、抹茶、緑茶、メロンジュース、青汁、食べ物には、枝豆、抹茶味のチョコレート菓子、よもぎ餅、等々多種多様に揃ってはいるのだが……
「なぁ、一個聞いていいか?」
「なに、灰村君?」
「いや、絶対に4人じゃ店回らなくね?あ、竹内分を引いて3人か。」
「……。」「……。」「……。」
「何か考えとけよ!」
「いや、何とかなるよ。……多分。」
「萬田さんの多分だけは信用できないからな!」
「あー……クラスの方の練習があるからね、失礼するよ。」
「いや、さっき来たばかりだろうが!」
「……ノープロブレム。……きっと。」
「萬田さんよりは信用できるけど根拠ないよな?」
「じゃあ、灰村君なにか考えて!」
なにか考えてと言われてもな~……あ、アイツらならどうせやることもねーだろ。
「任せろ、心当たりはある。」
「ほんと!?誰々?」
「文芸部の連中なんだけどな。阿呆だけど構わないか?」
「そりゃもう!使えるのなら猫の手であったって構わないよ!」
「んじゃ、明日聞いてみるよ。」
・・・・・・
「んで?俺らに手伝えってか?」
「頼む、岩田。文芸部のメンバーを動かせないか?」
「いや、俺だけで決めるわけにもいかねーだろ。あの阿呆はともかく足立っちゃんは用事があるかも知れねーし。」
「ふむ、残念ながら私は他の部の手伝いを無償でするほど人ができてはおらぬ。特に私を阿呆と呼ぶような人など……。」
「あ、私は構わないけど?」
「足立さんが良いと言うならなんの問題もない。」
「……あー、なんつーか、悪ぃ。いっそ謝るわ。なんだったら当日はこいつだけ隔離してやろうか?」
「いや、今はもう阿呆の手でも借りたいから我慢するよ。」
「さぁ、何をしている?打ち合わせも必要だろう?さっさと麻雀部に案内するがよい!」
「……やっぱり、一回だけどついていいか?」
しかし、猫の手とどっちが役に立つだろう?
・・・・・・
「よっす、邪魔すんぜぃ。」
「お、来たね。じゃあ簡単に作業を説明するよ。」
「いや、待て萬田さん。何で普通に準備まで手伝わせようとしてんだよ、」
「え?使えるのなら路傍の石ころでも使うのが私だよ?」
「いや、おかしいだろ!」
「いや、まぁ、いいよ……。手伝わせてもらうよ、もう。」
「おぅ。悪いな。」
「良いって、良いって!馬車馬のごとくコキ使ってくれよ!」
「じゃあ、先ずは看板の作成。それが終わったら試作用の材料の買い出し、その次に……」
「いや、待て、おかしいだろ!許可さえ取れたら遠慮無しかお前は!」
「そりゃ、馬車馬のごとく使えって言われたら使わにゃ失礼だろ。」
「いや、その理屈はおかしい。」
・・・・・・
諸々の作業が一段落付いたところで本来の目的である調理の打ち合わせ(兼試作)に入ることにした。と、ここで俺にとって予想外の奴が足を引っ張ってきた。
「で?レシピは理解でき……。」
「いや……悪ぃとは思ってるぜ……?」
そこには、よもぎ餅となる筈だったであろう生ゴミが転がっていた。
「灰村君、竹内さんと同じレベルを連れてきてどうすんのよ?」
「いやいやいやいや。」
ぱっと見、完璧な岩田がここまで料理が壊滅的とか誰が思うんだよ。
「知らなかったのならば教えてやろう。岩田が昨年のクリスマスに作った料理の惨状を。」
「……俺は初めてお前の話に興味を持った。」
「まず、チキンライスが墨汁よりも黒く焦げた。」
「その位なら、まぁ……。」
有るんじゃ……いや、無いな!
「そして、聞いて驚くなかれ。……シュウマイが焦げた。」
「は?」「え?」「……?」
何で蒸し料理が焦げるんだよ!焼くなよ!ってか、何で竹内さんは不思議そうな顔をしてんだよ!!
「あー……竹内さん。」
「……何?」
「俺らが何に驚いてるのか分かってるか?」
「……焦げたこと……でしょ?」
「焼いたことだよ……。」
「……?シュウマイって……何て書くか……知ってる?」
「あー……竹内嬢。その言い訳は岩田氏と同じだ。確かにシュウマイは焼売と書く。しかし、その実蒸し料理なのだよ。」
この言葉を聞いて竹内は衝撃を受けたかのような表情をしたあと岩田の前にいった。そして、右手を差し出すと一言。
「……仲間。」
両者は固く握手した。……って、そんな役に立たない同盟結ぶなよ!
・・・・・・
「んで、どうするよ。結局俺たちと白木と足立さんで5人にしかなってないしよ。」
「……はい。」
「はい、路傍の石A。」
「……五人で……頑張る……。」
「はい、その案はせめて貴女がこちら側に来てから言ってください。」
「はい。」
「はい、路傍の石B。」
「川上結菜を派遣しましょう。」
「うん、誰だ!」
「俺の彼女だよ。」
「え、結菜って料理できたの!?」
「ん?足立っちゃんは一緒にバレンタインチョコケーキ作ってなかったか?」
「いや、あのとき結菜何もしなかったから。」
「出来るんだな、それが。」
「よし、路傍の石Bの名を返上することを認めよう!」
「あざーっす!」
「……裏切り者……!」
「まぁ、竹内さんは当日は客相手に麻雀を打ってくれればいいから!」
「……最高。」
・・・・・・
という訳で俺の学校祭は開催日当日を迎えた。