灰村清次の文化祭・準備篇1
「そういえば文化祭だね!」
夏休みの部活中に萬田さんが不意にそんなことを言った。
「急に何言ってんだ?」
「いや、夏休みが明けてすぐ位に文化祭があるじゃん。うちの部も何かしたいなって。」
「あー、雀荘とか?」
「いやいや、麻雀部だからって雀荘はちょっと……許可が下りなさそうだし。竹内さん、何か意見ある?」
「……麻雀教室。」
「あ、それ面白そう!」
「……ただし説明するのはローカル役のみ。」
「それなんの意味があるの!?」
「……最近……ローカル役を……調べるのに……ハマってて。十三不塔とか……人和……みたいな、有名どころの……他にも……大七星みたいなの……も。」
「部活の話し合いにマイブーム持ち込まないでよ……。なんか急に凄い話すし……。筒井くんは?」
「麻雀喫茶とかどうだい?」
「おぉ!意外にもマトモ!!」
「麻雀喫茶“緑一色”!」
「うんうん。」
「食べ物も飲み物も『緑色』のみとかな。」
「いや、飲み物はともかく食べ物が緑はどうなのよ!」
おぉ、何故か萬田さんがツッコミ役に回ってる。……俺の立ち位置ねーな、オイ。
・・・・・・
結局、「まぁ、緑縛りを少しだけ緩めればいいだろう。」という理由でうちの部の出し物は麻雀喫茶となった。
「で、何をすりゃいいんだ?」
「んーと、じゃあ内装とか外装とかの買い出し行ってきて。」
「はいよ。ベニヤ板とかそんな感じのでいいんだよな?」
「うん、よろしく。」
「よし、いくぞ。筒井。」
「はいはい、仕方ないね。」
「いや、お前の案だろ。」
・・・・・・
「さって、んじゃ男子勢が買い物行ってる間にメニュー作ろうか。」
「……私に、料理を……しろと?」
「一応はね。ローテで回すつもりだけど。」
「……そう。」
「えっと、料理できない感じ?」
「……しないだけ。」
「料理の“さしすせそ”は?」
「……砂糖、塩、スパイス、“せ”は……わからない。“そ”はソイソース……だよね?」
「いや、待って。おかしい!“す”から先全部おかしい!“せ”だけ分からないじゃなくて全部分かってない!ってかスパイスってソコだけ広すぎるでしょ!あと何で醤油だけ英語になっちゃったの!?」
「……違った?」
「違うよ!!正しくは砂糖、塩、酢、醤油、味噌!」
「……さしすしみ?」
「何でそうなるのよ……。」
この子意外と問題児かもしれない
・・・・・・
「ここなら多分売ってるだろ。」
「ところで灰村、一つ聞いてもいいかい?」
「ん?何だよ?」
「自転車で買い出しに来たのはいいけどベニヤ板なんて自転車に乗るのかい?」
「……失念してた。」
「それで、どうするんだい?」
「配達とかできねーかな。」
「学校に配達か。中々面白いね。」
「ちょっと許可取ってみるわ。」
「あぁ、精々通るように頑張るんだね。」
………
……
…
「なんか、割とアッサリ通った。」
「へー、良かったじゃないか。」
「せっかく不許可だったときの言い争いもシミュレーションしてたのによ。」
「いや、何で灰村はそんなに教師と言い争おうとしてんだい?」
「いや別に。ただこう、なんか青春物語っぽくね?」
「……そうかい。ハァ~。」
一体、筒井は何を呆れてるのだろう。
・・・・・・
「で?この部室では何があったんだい?」
部室に帰ると筒井の第一声はこうだった。
いや、寧ろ筒井の落ち着きは素晴らしいものだといえる。
「いや、竹内さんに料理の基礎を教えてたらこうなって。」
「何をどうしたら部屋中メモだらけになるんだよ。」
「基本の“き”どころかkすら分かってないない人に基本を教えたらこうなる。」
「こんなに……酷いのかい?」
「そりゃもう。少々って言ってるのに袋から入れるし、小さじはティースプーン、大さじはカレースプーンになってたし。」
「お、おう。それはそれは。」
よく、教えようと思えたな。
・・・・・・
「で?ベニヤ板は?何で持ってないの?」
「自転車で持って帰れるか!」
俺も店着くまで気づいてなかったけど
「え?じゃあどうしたのよ?」
「ん?学校に配達するように頼んだ。」
「いや、バカでしょ。」
「他にどうしろっつーんだよ。」
「……担ぐとか!」
「阿呆か。」
「じゃ、車とか!」
「免許持ってねーし、取れねーし。」
「顧問に頼むとか?」
「うちの部の顧問って誰だっけか。」
「私、知らない。」
「お前部長だろ!」
「まぁ、良いじゃん。」
「……まぁ、良いか。」
ぜってー、良くねえけど。
・・・・・・
灰村清次、文化祭まであと3週間