灰村家の試験
灰村家のゴタゴタも収まり、(ゴタゴタの内容が下らないにも程があるが)いよいよ期末試験当日を迎えた。今日までなにもしてこなかった馬鹿や阿呆が後悔し、山をはって当たった豪運供が後に何も残らない好成績を収め、山をはって外した阿呆が「今回はツキが無かった」と間違った後悔をする日をついに迎えたのだ。
因みにマトモに勉強をして満足する者などいない。マトモに勉強をする彼ら彼女らに「満足」の2文字は無いのだ。我唯足るを知らぬという観点でいけば此もまた一種の阿呆と言える。
異論反論は認めよう。
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「ふむ、長々とご苦労さん。で?オチは?」
「英語のテスト範囲を教えてくださいな!」
「清次。」
「なんだよ?」
「知ってるか?テストは今日からなんだ。」
「……やっぱそんなリアクションになるわな。」
「テスト週間は何やってたんだよ?」
「麻雀と兄弟喧嘩。」
「よし、テストで精神的に地獄に堕ちた後、肉体的にも地獄に堕ちろ。」
「本当……俺、何やってたんだろ?」
「知らねーよ。山をはって当てる豪運少年にでもなっとけ。」
「あんまりだ!」
「とりあえず残りの時間で教科書読んどけ。そしたら今日は現代文だけなんだし、出来るだろ。」
「そうだな、よし!残り時間は?」
「5分と21秒。」
「ちくしょー!!」
さて、その日のテストの惨憺たる結果について言及する必要があるだろうか?
・・・・・・
最近、勉強に関して「いつやるか?今でしょ!」という名言が流行っている。しかし、いつでも「今やる」ことで間に合うとは限らない。
例えば、夏休みの課題を8月31日に「今やっ」ていては間に合わないだろう。思い立ったが吉日というが、思い立った日が遅ければそれはもはや、凶日である。
そもそも、誰かに言われて勉強をするような奴はいずれ勉強をする。本当に勉強をしない奴が誰かに言われたところで動く訳がないだろう!
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「と、思うわけなんだよね。」
「……ふーん。」
「古田様、助けて下さい。」
「さっきの文言を考えるのに何分使ったの?」
「朝来てから古田様が来るまでだから……15分位?」
「その時間を勉強すれば良かったのにね。それじゃ。」
「黒田、もう君しか頼れない。」
「よし、任せろ!今回のテスト範囲の確認からだ!教科書85ページから……。」
「75ページからよっ!」
「……黒田さん?」
「古田様、助けて下さい。」
「……ハァ。二人とも諦めなさい。」
「そこをなんとか!」
「悩める我々に救済を!」
「我らにサクッと説明して赤点を回避した暁には!」
「古田様を祀った寺を建立しましょうぞ!」
「いや、いらないわよ。教科書だけでも読んでおいたら?」
「「それで出来たら苦労せんわい!」」
「うん、あんた等根本的に間違ってるわ。勉強がじゃなくて……人間的に。」
亮のテストは見たことのない点数であったという。
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「清次と!」
「亮の!」
「「テスト結果発表~!!」」
「って、なんだよ!このノリは!」
「いや、このくらいのノリで行ったほうが親のウケもいいかな、と。」
「なるほど、一理ある。よし!これで行くぞ!今日、母さんが帰ってくるのは?」
「17時位だね。」
「よし、完璧なタイミングを掴むぞ!」
「そうだね。」
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「ただいまー。」
「お帰り。」
「夕飯、もうちょい待っとって。すぐ作るで。」
「はいはい。」
(よし、段取り通りいくぞ!)
(おう!)
「「清次と亮!の!」」
「早ぇーよ!段取りどこ飛んでった!」
「あー、ごめんごめん。もっかい、もっかい。」
「という訳で母さん。One more chance.」
「はぁ……?」
「清次と!」
「亮の!」
「テスト結果発表~!!」
「と、いう訳で母さん。テスト結果でございます。」
「どうぞ、刮目せよ!」
「……いや、いらんし。」
「何で!?」
「テンション無駄に上げてくるっていうことはどうせ阿呆みたいな結果でしょ。いらんいらん。」
「ひどくないすか?」
合ってるけど。
「ま、どうしてもって言うならそこ置いといて。後で見るから。」
「……遠慮しておきます!」
「あ!じゃあ置いとくね。」
何を血迷った、亮!貴様何ゆえ自ら死地に!?
「何でわざわざ見せるんだよ!」
「いや、今回選択問題ばっかりでさ。勘で選んだら……こんな感じ。」
国:78数:11英:88理:65社:86
「……真面目に勉強している奴らに謝って点数を振り分けてこい。」
「……俺もそう思う。」
「お!良いじゃん!数学だけどうしたの?」
「数学は選択問題無いから。」
「勘かい。さすが私の子やと思った感情返せ!……んで?清次は?」
「見せない方でお願いしやす!」
「……阿呆。」
灰村家の母親はある意味何よりも辛辣であった。
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彼女に一言で罵倒された者は言う。
「あの本気で蔑んだ顔で阿呆と言われるくらいならド叱られた方がずっとマシだ!」