灰村亮の学校生活
亮の学校生活は清次のそれとは全く異なるものである。
毎週月曜日を「よし、頑張ろう。」で始めて毎週金曜日を「さぁ、休みだ!」で終えるのがある種のルーティーンになっているのだ。つまり今回はそんな亮の学校生活の話。
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亮の学校生活を語る上で彼の友人の話は欠かすことができまい。兄である清次よりも広い交友関係を持つ故に大分変わった特徴を持った友人が多いのである。
「おはよう、灰村どん。」
「おー、おはよう黒田どん!」
「……あんたら、月曜朝からテンションおかしい。」
「そう言う君は古田様ではないか!」
「おはよう、古田様。」
「その変なテンションやめ!」
まったく朝からめんどくさい、と3人のツッコミ役である古田麻子が呆れたようにため息をつく。
古田麻子と黒田琉太、そして僕、灰村亮。この三人は小学校からの付き合いであり、古田と黒田に至っては「付き合っているのではないか?」という噂が流れていたことさえある。(ごくごく一部にだが「黒田と亮はホモなのでは?」という噂もあった事を最近聞いた。噂を流した奴をどつき回したい。)
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「このように、日本は三審制というものを採っており……。」
あ~、眠い……。もう寝て良いかなぁ?寝て良いよね?うん、きっと問題ないはずだ。よし寝よう!
「お~い。亮、寝るな~。頑張って起きろ!」
あぁ、気づかれた!しゃーない……起きてよ。
「おい、またか大曽根?起きろ!ったく一昨年卒業した兄といい兄弟揃って大曽根家は……。」
「いや、待ってください。良いですか?先生、人類の最低限っていうのは「衣・食・住」にありますよね?」
「は?」
おい、何が始まった?大曽根 彰。めんどくさいから変な言い訳するなよ。
「なら、その3つの理由は何でしょう?」
「そりゃあ……“衣”が無きゃ風邪をひく、“食”が無けりゃ死ぬ、“住”が無いと落ち着いて寝ることも出来ないからだろ?」
先生も無視すりゃ良いのに……。下手に付き合うから大曽根ペースになるんだよ。
「そうです!つまり、“衣食住”は、“衣食寝”であっても良いわけです!」
いや、その理屈はおかしい!
「成る程!その考えはなかった!」
「納得しないでよ、先生!」
あ、古田が我慢しきれずツッコんだ。
「お、おう。そうだな、古田。……とにかく大曽根はもう寝るな。」
ああ、良かった。何とか授業が落ち着いた。これ、で、落ち着い、て、寝……れ……。
…………
………
……
「お~い、灰村。授業終わってんぞ~。」
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あー!よく寝た!
「スッキリした顔してんじゃないわよ!」
「いやぁ、さっきの授業は凄かったなぁ。大曽根の理屈は面白いな。感心した!」
「眠気に負けずよく頑張った!感動した!」
「黒田は何、納得してんの!?んで亮はどこの元・首相よ!」
「そう言えば、古田のツッコミも流石だったな。」
「あ!それ思った!『納得しないでよ、先生!』ってね。」
「あ、あれは……先生が負けそうになってるから。」
「いやぁ。流石、古田様!」
「まだそれ引っ張るの!?」
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「じゃあ、フライドポテトとチョコケーキとチョコレートパフェと、あとドリンクバー3つ。」
「かしこまりました。」
僕はいわゆる帰宅部である。
帰宅することが部の活動内容である以上帰宅せずにファミレスで寄り道をする自分たち三人は帰宅部としては弱小であると言える。わが校から帰宅部のエースは生まれないものか?大曽根 彰は中々有望だと思うのだが。
「よし、帰宅部甲子園進出を目指そう!」
「おい、どうした!?亮っ!頼むから突然変なことを言わないで!」
「おー、良いねぇ!目指そうぜぇ!」
「いや、黒田も乗らないでよ!」
「お客様、こちらジャンボデラックスミックスパフェになります。」
「頼んでないです!むしろ、男子二人と女子一人の三人でそんな胸焼けしそうなもの食べるわけないでしょう!と言うかどうやって間違えたらチョコレートパフェとジャンボデラックスミックスパフェを間違えんのよ!」
「え!申し訳ございません!すぐにお取り替えします。」
「店員相手に言い過ぎでしょー。」
「さっきまであんたらにつっこんでたからそのノリでいっちゃったのよ。」
「お待たせしました。チョコレートパフェとフライドポテトとチョコケーキです。」
「はーい、どうも。」
「伝票こちらに置いておきますね。」
「はーい、と。で?帰宅部甲子園って何?」
「あ、そこに戻る?」
「戻るわよそりゃ。他に話題無いんだし。」
「戻られても……適当に言っただけだし。」
「……でしょうね。」
「そいや、俺らの部活って何だっけ?」
「そりゃ……帰宅部でしょ?」
「帰宅部よね?」
「そうだよな……。」
「黒田、何を考え込んでるの?」
「いや、テスト期間中って普通部活動禁止だよな?」
「そうね。」
「はっ!?まさか……黒田、そう言うことか……?」
「あぁ、とんでもないことに気づいてしまったもんだ。俺たちはテスト期間中……帰宅出来ない……。」
「……あんたらバカでしょ?」
「「もうちょっとマトモにつっこんで!」」
「さぁ、さっさと帰宅するわよ!」
「おぅ。んじゃ俺は500円くらいか?」
「俺は……450円ね。」
「私は……2100円か。……2100円!?」
古田の伝票はジャンボデラックスミックスパフェのものになっていた。
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「ただいま、兄さん。」
「おー、お帰り。ってか何で帰宅部のお前が俺より遅いんだよ。」
「まぁ、ファミレスでちょっと古田がトラブってね~。そう言えば兄さん。」
「どうした?」
「テスト期間中って普通部活動禁止だよね?」
「まぁ、そうだな。」
「帰宅部って帰れなくなると思う?」
「部活やらずに帰るだけじゃね?」
「その考えはなかった!」
「いや、当たり前だろ。」
「そうだ!兄さんと大曽根の兄って同じ学校だよね。」
「大曽根、大曽根ねぇ……あぁ、何か隣のクラスにいた気がするな。」
「今日、大曽根 彰っていう大曽根さんの弟が寝てるところを起こされて中々言い返しをしててね。」
「いや、寝てるところを起こされて反論するなよ!」
このように、自分のボケと、古田と兄のツッコミで灰村亮の1日は成り立っている。