灰村亮の合宿
「合宿をしようぜ!」
「……はぁ?」
唐突に黒田が訳の分からぬことを抜かした。もっとも、奴の訳が分からないのはいつもの事なのだけれど。思わず古田さんに目を向ける。
「……何よ?私は突っ込まないわよ。」
「いやいや、古田さんが突っ込まないと。黒田の世話は古田さんの仕事でしょ?」
「誰が飼育係よ。阿呆なコトを言っている阿呆を止められるのは阿呆だけでしょ?あなたが突っ込みなさいよ。」
「いや誰が阿呆なのさ!」
「……それ以前にお前らの俺に対する扱いが酷ぇなオイ。」
わぉ、黒田のコト忘れてた。
・・・・・・
「んで、何で急に合宿なんか言い出したのよ?」
何だかんだ言って古田さんが突っ込んでくれた、ありがたい。
「え?そりゃあ、部活と言えば合宿だろ?帰宅部も合宿したくね?」
「帰宅部が合宿で練習ってそれもうただの日帰り旅行じゃない……。」
「っていうか、帰宅部には部費が出てないから自腹で行かなきゃなんだケド?」
「いや、亮の言い分もおかしいから!そもそも帰宅部は部活じゃないの!」
「いいじゃねぇか、旅行で。なんだったら日帰りでなく泊まりで。」
「馬鹿じゃないの!?費用も日程も追い付かないじゃない!」
「あ、旅行で良いのは良いんだ。ってか日帰りならいいのか。」
「まぁ、うん。それならまぁ、良いんじゃないかなぁ、と思わなくはないわね、えぇ。泊まりは付き添いがないと危ないし。」
なんだったら泊まりで行きたそうだなぁ。ふむ……付き添いか……。
「マトモな付き添いになってくれそうなのなら心当たりが。」
「「えっ!誰!?」」
あ、二人とも反応するんだ。
「あ、御免ウソ。正直マトモではなかったわ。……あれも未成年だし。」
「……その付き添い意味あるの?」
知るか。
・・・・・・
「って訳だから、夏休み一日目から一週間は空けといてね。兄さん。」
学校から家に帰った直後の我が弟の身勝手な第一声には大変驚いた。何が「って訳」なのか。
「いやいやいやっ、勝手すぎるし急すぎるだろ!」
「どうせ予定ないんだから、いいっしょ?」
「無いって決めつけんじゃねぇ!」
「じゃ、有るの?」
「……無ぇケド。」
悲しいかな、無い。だが、同様に何が悲しくて夏休みの貴重な一週間を弟(とその友人)の為に使わなくてはならんのか。
「ちなみに行き先と予定は?」
「長野。3泊4日。」
「オーケー、お前らは馬鹿だ。」
「だよね~。そんな感想になるよねぇ。」
自覚あるんかい!
「良いじゃん、行こうよ。どうせ家でダラダラダラダラしてるだけなんだし。どうせダラダラするなら長野の温泉にでも浸かればいいじゃない!」
「むぅ。」
それは……ちょっと惹かれるな。
「確かにちょっといいな……それ。」
「でしょ?ならそう言うことで……」
「イヤ、でもダメだな。」
「え、何で?」
何でってそりゃあ……
「金はどうすんだよ。電車で行くとして往復一万するだろ?」
「ソコは……ほら兄さんのお年玉の残りとか!」
「なんで俺を頼るんだよ!せめて自分の交通費くらい出せよ!」
「だって俺の分は使い切っちゃってるし。どうせ出せるでしょ?兄さん友達いないからお金使う機会無いし。」
「友達いるわ!使う機会もあるわ!!……まぁ、数年かけて貯金してるから出せるケド。」
「ホラ、じゃあそれで。」
おかしくね……?色々とおかしくね?ってか他にも金かかる場所はあるでしょうに。
「ホテルないしは旅館はどうすんだよ。」
「あー……それは、どうにかしといて。」
「どつき回すぞ。」
どうにかってなんだよ!
・・・・・・
「どうにか……どうにかねぇ……。」
「……何を……してるの?……早く……ツモって……。」
「どうにかしといて。」と云われたからにはどうにかして見せようと一念発起した俺は部活動中にも考え込んでいた。
「あぁ……悪い。っと……コレかね。」
「あ、それロン!」
おおぅ、すっげぇ見え見えの待ちに振り込んだ。……余りよろしくないなぁ。
「何をさっきからボーッとしてるんだい?病気にでもなったのかい?灰村らしくもなく。」
「さっきから……というか……朝……から……?」
「少なくとも麻雀やれる精神状態ではないねぇ。」
どうやら相当に卓に迷惑をかけていたらしい。
「あぁ……悪ぃ……。少々考え事を、ね。」
「ふーん。珍しっ。」
「……で?」
「……「で?」とは?」
「考え事の……内容……。」
「あぁ、確かに。聞かせてもらえるんなら是非聞きたいね。」
「う~ん……まぁ、いいか。」
俺は亮逹の合宿について話した。
・・・・・・
以下は聞き終えた部員共の反応である。
先ずは竹内さん。
「……底抜けの……馬鹿な……お人好し……?」
次いで筒井。
「どうにか、ねぇ。どうにもならんね。」
最後に萬田さん。
「あぁ!いいね合宿!!よし、うちもやろう!期間は夏休み一日目から3泊4日で!」
「あー……萬田さん。話聞いてたか?」
「うん。亮くんとかその辺も呼んでいいから。」
「はっ?」
「よし、そうしよう!そうすれば宿とか交通費とかも解決するし!!」
「えっと……それって……横領になりうるんじゃ……。」
竹内さんの意見に萬田さんは2・3秒瞑目して答えた。
「う~ん……。そうだ!灰村くん。岩田くんに掛け合ってきて。」
「コネかよ!!」
まぁ一応やってみるケド、んなもん通るわけ……。
「って訳なんだが岩田、いいか?」
「……まっ、イんじゃね?」
「おぅ……マジか……。いや、人間関係とか気にしてんなら……。」
「ハァ……、灰村。ちょっと耳貸せ。」
「ん?何だ?」
「(ここだけの話な、実は何だかんだ他の部もこっそり身内連れてったりしてんだよ。バレてないと思ってんだろうな。真面目に許可取りに来るのなんかお前くらい。っつーか、なんだったら寧ろ来ないで欲しかった。それなら、見て見ぬふりが出来るからな。)っつー訳で、お前は俺に何も相談しなかった。いいな?」
「……おう。」
大丈夫か、この学校。
・・・・・・
「って事だから。」
「……兄さん。」
「何だよ?お礼なら……」
「どうにかしてとは言ったけど誰が危ない橋を渡れと!?」
「……俺も渡る気はなかったよ。」
まぁ、うん。バレなきゃセーフセーフ。ってより、この場合バレてるけどセーフ、かな。