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灰村家の喧騒  作者: 平遥
15/17

灰村清次の密会

日曜の朝、寝すぎた故の頭痛に耐えて起き上がるとスマートフォンにメールが来ている事に気づいた。差出人は――古田朱音。文面には「少し用があるので会ってくれませんか?」と。そのメールに「了解。では来週の日曜に。」とだけ打って送信すると俺は再び眠りについた。――事態の不可思議さに気がついて飛び起きたときには、返信が完了して一時間が経過していた。

・・・・・・

お兄さんからの返信を見てホッと胸を撫で下ろした。返信が遅かったから、無視されたのかと不安もあったがどうやら杞憂だったらしい。私が彼に会いたくなった原因、それは例によって例の如く、花小路伊尊その人である。

あの男の最近の行動ははっきり言って異常だ。彼は俗に云うストーカーでありしかもそれを十分過ぎるほどに自覚している節さえある。

異常で、異様な、執念的な何かを感じる。とかく、人の感情というものは分かりにくいと云われるが彼の行動は気味が悪い。だから亮のお兄さんである清次さんに相談してみることにした。理由は単純。相談相手として頼れそうな人が彼しかいなかったからだ。悲しいかな、私の交流は余りにも横にしか伸びていない。そして、亮も黒田も相談相手としてはポンコツ過ぎる。というか、彼らは伊尊と通じている様子が見られた。全く、阿呆かと言いたい。

・・・・・・

月曜朝の気怠さに耐えて耐えて耐え忍んで机に座っていると、朝から友人が無駄に元気よく声を掛けてきた。


「やぁ、古田さん。おはようさん。」

「あ、阿呆だ。おはよう。」

「ちょっと待って!おはようの前にくる言葉が『あ、阿呆だ。』ってどういうこと!?朝から大層な挨拶だね、それは!何を朝からささくれてるのさ!?」


亮が朝も早よから騒ぎ喚いている。


「あなた達に会ったら毒を吐こうと昨日決めたのよ。」

「それはそれは……いや、何で!?」

「あなた達がポンコツだからよ。」

「えー……。なんか古田氏が恐い……。」

「よっす、どした?」

「あぁ、黒田。助けて、朝から古田さんが恐っろしいの。」

「あ?そんなのいつもの事じゃねぇの?」


何やら物凄く失礼な事を言われてる気がする。……もっとも、今日の私が言えたことではないのだけれど。

「で?何をそんなにもささくれだってんだ?」


黒田が改めて問う。


「べっつに~。ただ、昨日の夜ふと貴方たちって頼りないなぁと思ったダケ。伊尊の事とか、伊尊の事とか、伊尊の事とか。」

「「あー……それは……申し訳ない。」」


分かってくれたようで何より。

・・・・・・

古田さんからのメールから5日が経過して今日は土曜日だ。俺は物凄っく珍しく休日に行われている部活に参加していた。


「……ったく、何でよりによって今日なんだよ。」

「ん?何か用でもあった?それなら早退してもいいよ?」

「いや、今日はないんだよ。ただ、明日ちょっとねぇ……。」

「ふーん……。あ!それロン。」

「マジかっ!!」

「……で、その……予定って……?」

「ん、あぁ。ちょっと人と会う予定がね。」

「へぇ、わざわざ休みの日に君に会いたいなんてドコの物好きだろうね。」

「……大きなお世話だよ。」


しかし、一理ある。何で彼女は俺を選んだんだろうね。

・・・・・・

そして、一夜明けて日曜日である。話し合いの場として古田さんが提供してきた喫茶店に行くと集合時間30分前だというのに彼女は既に待機していた。


「おぅ、まだ30分前だってのに早いな。」

「あぁ、店の開店前から待ってましたから。」

「早いなっ!ってか、むしろそれ店に迷惑だろ……。」

「あ~……店員の視線は少し痛かったかなぁ~。」

「というか、店員から追い出されなかったの?」

「あぁ、その為にパンを一切れ残してコーヒーをおかわりし続けてたんで。」

「あ~……それはそれは……」


なるほど。この少女も周りが見えなくなると中々の阿呆だ。……亮と友人でいられる理由が分かった気がする。


「ま、それはそれとして……本題に入っても良いですか?」

「ん、おぅ。いいぜ。」


そういや何か「用がある」って話だったか。しっかし、俺に用……ねぇ。まさか亮が何かしらやらかしたんじゃあるめぇな。


「では……実は、お兄さんには私の相談に乗って欲しいんです。」

・・・・・・

私には取り立てて趣味と呼べるようなモノはない。何故ならば私の心の空虚を埋められるものは、他でもない古田嬢だけであり、読書だの、スポーツだの、麻雀だのでは、到底私を満足させるに足りぬからである。私にとって世の人々のいう趣味というモノは時間潰しの域を一歩たりとも出るものではない。無益で無駄なモノ。それが私の趣味に対する認識である。

しかし、敢えて無理矢理一つだけ強いて趣味と言えなくもないモノをあげるとすれば、「散歩」であろうか。今日も、テコテコと気の向くままに歩き回っていた。すると、私の眼前に目を疑う光景が飛び込んできた。とある喫茶店の店先の席、そこに古田嬢が座していたのである。と、同時に私の脳はその光景の受容を拒否しようとした。彼女は、正体不明の男と一緒にいたのである。

えぇい、なんという不審な男!彼奴は何者であろうか?一体どの様な甘言で彼女を誑かしたのだ!?羨ましくも忌々しい!忌々しくて憎々しい!!


ともあれ、不審な男と共に彼女がいる以上私は全力をもって彼女を守らねばならぬ。それが、私の義務というものだろう?

・・・・・・

「で、その男の面倒さったら酷くて!」

「あぁ~、何となく雰囲気が似てる奴俺の友人にもいるよ。」

「え!?あんな感じのと友人なんですか?」

「……悪い、ウソついた。間違っても友人とは言いたくねぇわ。」

「ですよね。」


「……少々、宜しいかね?」


古田さんと話していると不意に男……少年……?その中間くらいの詰まるところ、亮や目の前にいる古田さんと同じくらいの歳と思われる人物が声をかけてきた。


「ん?古田さん、知り合いか?」

「……残念ながら、ね。」

「残念ながらとは失敬な!こうして助けに来たというのに!さぁ、とにかく不審な男からはお離れなさい。」

「……いや、失敬なのはどっちだ。」


思わず初対面にもかかわらず突っ込みをいれる。初対面の相手に“不審な男”って、オイ。


「だって、不審ではないか!!どこの世界の健全なが、日曜の朝っぱらから明らかに年下の女子と喫茶店で過ごすというのだ!」

「成る程、一理ある。」

「いや、ないですからね!?コイツのペースに流されないで下さいよ……。」

「あ、あぁ。悪ぃ。」


どうもこういった手合いの人間は苦手だ。……文芸部のアイツとか。


「で、キミ誰?何で変に絡んできたの?」

「ふむ、確かに名も名乗らずに不審とは失礼した。私の名は、花小路 伊尊。ソコの古田嬢とは大変に仲良く「してません。」」

「……“一番の親友”と言っても過言では「過言です。“不倶戴天の敵”という言葉なら適してますが。」」

「……少々良心が痛んだりとかないかね?」

「え?全然。」


さすが古田さんだ。こんな面倒な奴を相手に、一分の隙も無い。しかし……コイツが花小路か。成る程、古田さんが愚痴りたくなるのも頷ける。


「あー……花小路くん。」

「何だろうか?」

「取り敢えず、不審を取り消してくれると有りがたいんだけど?」

「断固として拒否する。何故なら貴様は不審だからだ。」

「ですよね~。」


うん、こういう奴は決して自分の価値観取り消さないって知ってた。


「とにかく、貴様は彼女から離れよ!そうして、あわよくば、そのまま不審者として回覧板を回されるがいい!」

「いや、何だ。その微妙な口撃は!……さて、古田さん。どうするよ?本人乱入したケド。」

「……あ~~~、まぁ、今日はもう良いです。有り難う御座いました。」

「あぁ、こちらこそ。とんでもない面倒を教えてくれて、ありがとさん。」


本当に花小路くんと同じ歳じゃなくて良かったよ!!あと、古田さんと同じ歳が良かったよ!!!

・・・・・・

月曜日、学校に行くと、予想だにしない言葉が友人から発せられた。


「ねぇねぇ、古田さん古田さん!何で、日曜日兄さんと会ってたの?デート?」

「はぁ?なに言ってんのよ!?」

「だって……ホラ、これ。昨日黒田から送られてきた写真。こんなにも仲睦まじそうな二人の様子が。」

「あぁ~……。確かに……そう、見えなくも……無い……かな?」


残念だけど。しかし……成る程~。人が見てるとは、というより見られてもこんな風にイジられるのは予想してなかったなぁ。ま、いいや。花小路と仲良く見られた訳じゃないし。


「で?実際どうなの?」

「……常識で考えてよ?何で!私と!あなたの!お兄さんが!デートを!するのよ!!」


突っ込みはキチンと入れなくちゃだけどね。

・・・・・・

月曜日、部室に行くと、予想だにしない言葉が部長から発せられた。


「ねぇねぇ、灰村くん、灰村くん。何で、日曜日どこぞの女子中学生と一緒にいたの?犯罪?」

「ん?ありゃあ、弟の友人で……って言うか、『犯罪?』って聞き方はおかしいだろ!」

「!弟の友人に手を出す兄がいるなんて……。部長として処分を検討……。」

「いや、そうじゃねぇから!」


とんでもない冤罪で処分されてたまるか!」


「……ロリコン……?」

「やめて!竹内さんの言葉って一番心に来る!!」

「ま、性癖はそう簡単に変えられるモノじゃあないんだ。そう責めてやらない方がいいんじゃないか?」

「そのロリコンを前提とした物言いをやめろ!」


この後、俺は丸一月にわたってロリコン扱いされることとなった。……大変、不本意な冤罪である。

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