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灰村家の喧騒  作者: 平遥
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古田と花小路とその周囲

氏名、古田ふるた明音あかね。女性。年齢16歳、身長体重――不詳……というか、知れば容赦のない拳と罵声の雨あられ。趣味はネットサーフィンで、好きな音楽ジャンルはテクノポップ。ちなみに――

・・・・・・

「――ちなみに最近あった嬉しかったことは、苦労を共有できる人が現れた事、と。だいたいこんな感じ?」

「おぉ、そうだな。キモいくらいに詳細だ。」

「……何やってんのよ、アンタ達。」


金曜日の疲れもきっちりと癒え、休みを挟んでスッキリとした気分で迎えた月曜日の教室。ソコには何やら人の情報をプレゼンでもするかのようにまとめあげている(まだ)友人がいた。


「ちょっと待って!今の(まだ)ってなに!?」

「この後の返答如何によっては友人関係を絶たせてもらうのよ。」

「いや、別に変な目的じゃないから、ね?」


一体どう変じゃなければ友人の詳細なプロフィールをまとめあげる事があるというのか。それよりも、だ。完全に突っ込むタイミングを逸したが、一言言うべき事があるだろう。


「それよりも『容赦のない拳と罵声の雨あられ』ってどういう意味よ!情報を纏めあげるなら、纏めあげるで事実を書きなさいよ!事実を!!」

「まごう事なき事実じゃないか!」

「あぁ?」

「おぉう、ごめん。スマン。超ごめんなさい。」


あら、ちょっとよく聞こえなかったから聞き返しただけだっていうのに亮くん、スッゴク丁寧に謝ってくれたわね。何をか知らないけどまぁ、赦してあげようかしら。


「で、あとは……愛読書とかは?」

「おぉ!いいねぃ!古田、何かあるか?愛読書。無かったら国語辞典にするけど。」

「うん、まず淡々と作業に戻るな!それと、愛読書が国語辞典ってそれどこの三島由紀夫よ!」

「じゃあ……源氏物語の『雲隠』にするか?」

「それ本文無いやつ!……ってか、本当に何がしたくて私の情報を纏めてるのよ。」


いい加減教えてくれないと本当に不気味ではないか。もっとも、灰村と黒田なら変な理由ではないと思えるのだけれど。


「言っても問題ないならとっくに言ってるさ。花小路が原因だって言ってよかったらとっくに言ってるって。なぁ、亮。」

「お、おぅ!そうだな。花小路が『ちょっと、古田氏に関してわかる範囲の事を教えてくれないか。無論、無理の無い範囲で構わない。』と言っていたからって言っても問題なけりゃあなぁ。」


花小路はなのこうじ伊尊これたけ。先般、何やら私が近づいたら逃げた男だ。イラッとくる話し方だったのを覚えている。というか、むしろそんなことしか覚えていない。


「で?その花小路がなんでそんな事を聞いてんのよ。しかも、私じゃなくてアンタ達に。それと、なんでアンタ達はそんなことに従ってんのよ。」

「一つ目は、知らない事にしとくわ。二つ目は、そりゃあねぇ。」

「なぁ。」


灰村と黒田が互いにアイコンタクトを交わす。そうして言うことには……


「「従った方が面白いからに決まってるでしょう!!!!」」


……もうヤダ、この馬鹿共。

・・・・・・

たとい、私の怪しさを咎める者があろうとも、私が彼女に付きまとうことを止めることはないだろう。私にとっての古田嬢とは、丁度欠けたパズルのピースのようなものだ。彼女は、虚無を感じていた心をスッキリと埋めてくれたのである。

故に、私は彼女を伴侶としたいわけではないのだ。

詰まるところだね――

・・・・・・

「――詰まるところだね、彼女の記憶の一隅に残るなら友人程度の仲でも構わないのだよ。」

「はぁ?お前みたいに地味で、取るに足らなくて、臆病、且つ顔も成績も将来性も中の下、或いは下の上程度の男、古田さんは友人どころか記憶にすら残したくないだろ、多分。」


むぅ、亮殿は中々に辛辣ですな。というか……


「私は亮殿を友人だと思えませぬぞ!」

「いや、俺からしたらお前が友人とか嫌だけど。」


とりつく島も無かった。そもそも私は彼にとって友人でもなんでもなかったらしい。まぁ、それならそれでまるで構わない。私には古田嬢さえあればよいのだ。その他のものなどよく利用できる有象無象にすぎない。しかし、どこかショックを受けている私が居るのは何故かしらん。


「むぅ、黒田氏からも何か言ってやってくれませぬか?」

「お!俺かぃ?そうだな……。ま、俺もお前が友人ってのは勘弁願いてぇな。」

「なんと!?」


とんだ裏切りである。私はもう誰を頼ればよいのだろう……。


「黒田氏め、裏切りおって!孟達もうたつか、貴様は!」

「いや……裏切るも何も、元々仲間じゃねーし。」

「ってか、なんで三国志なんだよ。百歩譲って、三国志にするにしても呂布とか有名所があるだろ。」


ほぅ、亮殿は三国志に中々の造詣があるとみた。いや、そんなことはどうでもいい。


「とにかく、私を古田嬢に印象付ける方策を教えていただけないかね?」

「そう言われてもなぁ……。花小路だしなぁ!」

「……じゃあよ、こういうのはどうだ?」

「ほう、何かあるのかね?黒田氏。」

「名付けて……『彼を知り己を知れば百戦殆あやうからず作戦』だ」

・・・・・・

黒田のあまりに突飛な発言に最初に反応したのは屈辱的なことに花小路だった。


「黒田氏、誰が孫子を諳じろと言った。」


あぁ、どっかで聞いたと思ったら孫子の言葉だったのか。などと思いながら黙っているのも癪なので追従する。


「ってか彼って古田さんは一応女だぜ。」

「おぉう、二人とも目が阿呆を見る目になってんぜ?あと、亮の突っ込みドコロはおかしいだろ。」


そう言われても阿呆な事を言っているのだから「阿呆を見る目」は当然の報いなんじゃねーの。


「まぁまぁ、聞けよ。いいか、この作戦の概要はなぁ……。」

「要は、花小路が古田さんの事をもっと知るということだな!!?」

「花小路がってなんで先読みするんだよ!?」


いやだって読めたし。


「まぁ……そういう事だ。どうだ?花小路。この作戦でいいか?」

「ふむ……。まあ、良いだろう。それで行こう。」

「いや、だからどっから目線だ。」


相変わらず偉そうなのな!!


「という事だから後は君たちの仕事だなぁ。いい感じに古田嬢について纏めてくれたまへ。」

「は?なに言ってんだお前。」

「だってそうではないか。彼女の事を知ろうにも私よりも君たちの方が遥かに古田嬢の事に精通しているだろう?」


成る程一理あ……いやねーよ!!なんで俺たちが古田さんの事を纏めなきゃなんねーんだ!


「では宜しく頼んだ。」

「いや、待て……っ!」


彼は早々に教室を去っていき残されたのは、花小路に翻弄される阿呆二人だけであった。


こうして、話は冒頭へと返る。いやしかし、こうしてみると……花小路よりも黒田の方が原因な気がするんだケド……。まぁ、古田さんに嘘をついた訳じゃないしいいか。

・・・・・・

ちなみに古田さんに情報が正しいか確認してもらったところ「趣味はともかく何で私が『最近あった嬉しかった事』までアイツ等知ってんのよ。」とドン引きしていたという。

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