灰村亮の人生相談
「亮ー殿ー!!!」
ある日、黒田でも古田でもなく自分を呼ぶ声に亮はこう思った。
「ひどく面倒な予感がするなぁ!」と。
・・・・・・
面倒な雰囲気を醸し出したまま、その男は結局自分の前に来てしまった。我ながら何故逃げなかったのか、とも思う。後悔先に立たず。
「で。誰?何?何故?」
「いやいや、質問を省きすぎだろう。まぁ、いいですよ?答えてしんぜましょう。」
イラッとくるなぁ~。イライラを質問に込めたのに気づかれないってこんなにもイラつくのか。
「私の名は、花小路 伊尊。用件は“あなたに相談に乗って貰いたい”ということ。そして最後、何故君なのかと言えば……。」
「俺なのかと言えば……?」
それほど見知らぬ(もっとも、自分は伊尊の名前さえ知らなかった訳だから“それほど”という表現さえ過剰だろう。)自分に相談など持ちかけたからにはよほどの事だろうと思った。期せずして、身を固くする。
「君ならどれだけ不躾に、不遜な態度で、出し抜けな相談をしても問題なさそうだからさ!!」
「よし、腹を掻っ切ってひたすらに苦しんだ上で、遂には死ね!」
くっだらねー上に何とも失礼な理由だった!!
・・・・・・
なんだかんだ言って相談に乗る俺は人ができているんだろうなぁ!と思う。
「それはそれとしてだね。」
「俺はちっとも良くねーぞ、おい。」
何をいけしゃあしゃあと言っているんだコイツは!……まぁ、いいや。
「私の相談の話だよ、君。」
「あぁ、そういやそういう話だったな。」
「どういう相談かというとだね。」
「恋愛相談とか言おうものなら、全力で殴るがね。」
「……つまり私は殴られるのだな。」
「おおぅ。マジかぁ……。」
こいつの恋愛相談とか……。え~……。うわ~……。キッツ……。今日初めて会った人だけど分かる。この花小路という男は人を見下すことに関しては天才であり、しかも見下していることに気づいてさえいない。そんな人間に恋愛などできようハズがないのだ。ていうか惚れられた相手が可哀想過ぎる。
「あー……その、なんだ。花小路、殴らないでおいてやるから、他を当たってくれ。」
「何ゆえ!!?私が何をしたというのか!気分を損ねたというのならば謝罪しよう。気が乗らぬというのならば報酬を弾もうじゃないか!」
「うん、そういうところだよ!その成層圏並みに上から目線なところだよ!!」
「報酬を弾もうじゃないか!」なんて言う奴初めてみたわ!なんの裏取引だっつの。
「後生だから!話だけでも聞いてくれないかね?」
「嫌だってのに。ほら、あっちにもっと面倒見が良いのがいるよ。」
と古田を指差すと、彼女はこちらにやってきた。
「何よ?今、私の話してたっぽいけど。」
「ん?何かこの男が相談があるらしくてねぇ。で、親切心と面倒見の良さには定評のある古田を勧めてた、と。」
「褒められてる気が少しもしないのは何故かしら?あと、その男なら私が来て早々に教室を出ていったわよ。」
「はいぃぃ?」
「私彼に何かしたかしらね?」
「くっ!古田さんが恐ろしい人だからって、なにも逃げなくても!!」
と、走り出そうとすると古田に腕を掴まれた。
「誰が恐ろしいっていうのよ!?」
「おおぅ、聞き流してくれなかった。」
「聞き流すわけないでしょ!さっさと、あの男を捕まえてきて!彼にも逃げた理由を聞くから!!」
「いや、捕まえにいこうとしたら止めたのは「いいからさっさと行く!」」
理不尽だ!不条理だ!などと喚いても古田の怒りは収まらないんだよなぁ。
・・・・・・
花小路は教室の外に居た。
「なにやってんの?ってか逃げんなよ。」
「ふむ、それは失礼。しかし、私の意中の人が彼女である以上私が逃げたのも必定というものだろう。」
「は?」
「つまりだね、私の想い人とは古田嬢その人なのだよ。だから、彼女が来てすぐ私は遁走したというわけだ。」
えっと、自分の親友とでも表現すべき女子に惚れたという他人が現れたらどういう反応をすればいいんだろうね。それともう一つ。
「乙女か、お前は。好きな異性が近くにきたから逃げるて。少女漫画のヒロインか!」
「しかしだね、彼女が不意に近づいてきたら思わずにげてしまったのだから仕方なかろう。これは本能だよ、君。」
「あと、親友とでも表現すべき人が好きだと言われたら俺はどうすりゃいいんだ?」
「私に最大限協力すればいいのさっ。」
「やなこった。」
「そこをなんとか!言うではないか、情けは人の為ならずと!」
「……分かったよ。その代わり一つだけ条件。」
「おぉ!了承してくれて有り難い!して、条件とは?」
「古田さんのところに戻って逃げた理由を説明してやってくれ。」
多分、そろそろどんな細かい事にもイライラしてツッコミを入れだすから。
・・・・・・
「お奉行様、罪人を捕らえました。」
「誰が罪人か!私は咎人などではない!」
「はい、お疲れ。取り合えず亮に一言。時間かかりすぎ。」
「おおぅ、古田さん容赦ないねぇ。」
何やら、聞き慣れているのに今日初めて聞く声がした。
「……古田さん。意見具申。」
「何よ?」
「何故、黒田がいるのでしょうか!」
「さぁ、知らないわよ。私がその男のことを話したら面白そうだから見せろって。」
すると、黒田がそっと耳打ちしてきた。
「(そいつ、花小路伊尊だろ。)」
「(知ってるのか。)」
「(あぁ、古田の半ストーカーとして有名だ。)」
「(……マジで?有名な割に俺は知らなかったけどなぁ。)」
「(そりゃそうだ。有名だってのは俺が今勝手に言っただけだから。つっても、俺はこいつを古田の半ストーカーだと思うくらい見てるけどな。)」
「(……なるほどね。)」
思わず苦笑した。一時、古田の恋人の噂まで流れた黒田ならついでに調べられていても不思議じゃない。
「で?結局なんであんた逃げたのよ?」
「いやその、……逃げたつもりは……ないのだが……。」
「いやいや、それは無理があるわよ。私が近づいてすぐだったからね。しかも超ダッシュ。」
「いやー……実は……そう!あのタイミングで走りたくなったのだ。」
「いや、それ変人じゃないの!なに?野生動物なの?本能の赴くままに生きてるの?」
おぉう……ツッコミが切れてるっていうか、切れてるツッコミだなぁ。
「黒田、あれ古田キレてるだろ。」
「う~ん、微妙にキレてるかもなぁ。」
「キレてないわよ!」
うわ、飛び火した。
「で?亮、結局こいつ誰?というか、あんた名乗りなさいよ。」
「え!?……私の名前は花小路 伊尊という。クラスは隣なのだが見覚えはないだろうか?」
「ふ~ん。で?結局あなたが逃げた理由が聞けてないのだけれど?」
「いや……だから逃げたつもりは……。」
あー、ありゃ第一印象最悪ってやつだな。
「おい、亮。どうするよ。助けてやるか?」
「黒田、常識で考えろよ。」
「はいよ。」
「追い詰められてる花小路の方が大人しくていいだろ?」
「……だな。」
ちなみに、古田に花小路の印象を聞いた結果はこうだ。
「何言ってんのか分からなかったけど取り合えず話し方がウザいことは分かった。」と。