灰村家の日常
ここ、灰村家は何の変哲もない普通の家族である。
別に家族の誰かが血が繋がってないなんて事はないし、ましてや変に極端な怠け癖があったり、何でも切ることが出来る鋏を所持して気が触れたりなんかしていない一般家庭だ。
ただ1つ、常に明るく騒がしいということを除けば。
・・・・・・
この家、灰村家の弟、灰村 亮は生意気という表現がぴったりである。傲慢にして我が儘、この世の全てが自分を中心に廻っていると考えている節さえある。
「おい、てめぇなにやってやがる?」
灰村家の長兄である清次は詰問のようにしつつ自分の部屋の中のソレに視線を向ける。
「え?ポテトチップス食べながら本読んでんだけど……。失明でもした?」
「そうじゃねーよ!何で人の部屋でポテトチップス食べながら本読んでんだって聞いてんだよ!」
「イヤほら、兄のものは弟のものでしょ?」
「いや、その理屈はおかしい!何をいけしゃあしゃあとこのヤロウ!」
わが弟ながらなんて傲慢な男!
「取りあえず俺の部屋から出ていけ。」
「えー、だって俺の部屋暑いし。」
「出・て・け!」
「だって考えてみて。弟のピンチに際して助けるのが兄ってもんじゃないの?」
「一瞬納得しそうになったけどそれほどのピンチでもねーよな!?」
「もー五月蝿いな。分かったわ、しゃーないで出てったるわ。」
「恩着せがましいな、オイ!」
・・・・・・
「ったく、亮のやつ。我が物顔でくつろぎやがって。」
ようやく落ち着いたのでさて、課題でもしようかと机に向かった瞬間……。
「痛゛ッッ!?」
頭に痛みが走った。
「良しっ!」
頭に当たったのは消ゴムだった。しかも俺の。
そして人に消ゴムを当てて喜んでんのは、当然の事だが亮である。
「よーし、喧嘩だぁー!」
「あ、待って。」
「あん?何だよ?」
「はい、どいてどいて。」
言いながら亮は押しのけながら部屋の中に入ってきて。
「じゃ、借りてくで。」
「まて、コラ!」
棚からマンガをドッサリ持っていこうとしやがった!
「えー、何?貸してくれてもいいじゃん。」
「あぁ、貸すのはいいよ。それくらいやぶさかじゃぁない。」
「じゃ、借りてくでね。」
「だけどお前返さないし、しかも帯を取……って聞けよ!」
既にそこに亮の姿はなかった。
・・・・・・
「あ゛ー、しんどっ!」
くそぅ、古典担当の森上先生め!こんな複雑怪奇な課題を出しやがって!ってか熊みたいな体格の生徒指導担当って何だよ!天職か!
「Hey,my brother!」
「どうした?ここは日本だ。」
「ノリが悪い!?」
「忙しんだよ。構ってられっか。」
「兄さん、非道い……。」
「弟、ウザい……。」
「いや、何言ってんのかちょっと……?」
「うぜぇ!」
「何だかんだ言いながら構ってくれる素敵。」
「……そうかい。」
なんとも言えねぇ。
「で?お前わざわざ何しに来たの?」
「え?多量の課題に苦しんでる兄さんに嫌がらせをしに来たんだけど?」
「シバかれるぞお前!」
「まぁ、冗談だけど。」
「じゃあ何の用だ?用がないなら出てけ。用が有るならさっさと言え。金以外なら話を聞いてやる。金なら良いヤミ金を紹介してやろう!」
「……普通に勉強教えてもらいたいだけなんだけどなぁ。」
「……いや、それは、すまん。」
「ってかヤミ金って何?業者知ってるの?」
「そこは深く突っ込むなよ!」
あぁもうめんどくさい奴!
・・・・・・
こんな感じで喧しく騒がしく灰村家の1日は過ぎていく。