再開
「ここが始まりの森」
私は薄暗い森へと入り息をのむ。
私はただ今絶賛後悔中だ。まちがっても公開ではない。
「何で言わなかったんだろう。簡単なことだったよね。私狩りなんてしたことありません。そういえば、よかったことなのに……」
低い声でぶつぶついう私。
手にはまだもちやすそうな剣が握られている。
なにも出てきませんように。
言っておくが、私は怖い話が苦手だ。大嫌いだ。
ゴソッ。
不意に茂みの奥で何かの音がした。
「ひっ!」
と声にならない叫びをあげ、剣を握りしめる。
絶対モストーだ。モストーだ。イノシシだよ。いのしし。
すー。私は大きく息を吸って走る。
「うおー。」
エイヤー、トー。
目を閉じながら突き刺すが、感覚がない。
おそるおそる目を開けると、手がつかまれていた。
「危ないだろ。俺を邪眼の伯爵と知っての冒涜か。」
こんなことを言う奴には一人しか心当たりがない。
私はそっと目を開けた。
「横宮はじめ。」
「げっ。綾小路。」
私はやっと仲間に会えたと思い、嬉しさで飛びつこうとした。
……。
えっと。円周率は3.14159265358979323846、あれ次何だったかな。
「綾小路、戻ってこい!」
「ふぇ?アナタハダレデスカ。」
「そりゃ、俺も悪かったけど。お前が急に殴りかかってくるから。」
「ソウデスネ。随分と大きなものをお持ちでしたね。」
「ふっ。あいつは俺の自慢の息子だからな。」
……。
再び沈黙が訪れる。
私が見たもの。
それは真っ裸の横宮一だった。
だから当然一瞬だけどあれも見えてしまったわけで、ですネ。
「今から三分前までの時間はなかったことにしましょう。私は横宮君を見つけて、声をかけた。横宮君は今みたいにチャンと服を着ていた。OK?」
「OK。」
よし。記憶消去と。
小説って便利♪
私は一つ深呼吸をしてからあたりを見渡す。
彼の周りには、焚いたであろう火と、私と同じ赤いスマホが落ちている。
彼もお金とかは持っていないようだ。
「横宮君。なぜ服を着ていなかったの。」
「いやー。話せば長くなるんだが。」
彼が話した話は要約するとこうだった。
私がフェアルの32村に着いた時、彼も31村に着いたらしい。
そこで赤いスマホを渡されたことはいいのだが、異世界に着いて、テンションがハイモードになってしまい、
「フッ。俺が狩り。俺は邪気眼を持つ選ばれし者。通り名は邪眼の伯爵だぞ?気安く話しかけないでほしいね。早く食事の支度を。」
といったらしい。
怒った亭主が彼をお姫様ダッコで森まで連れて行き、湖にドボーン。
うわ-。この異世界について分からないことだらけだが、ひとつだけわかったことがある。
「バカだな。」
「バカよね。」
「二人して言うな!」
はじめが手を振り上げておこるが、二人?
私たちは顔を見合わせはじめのスマホを見る。
「ククク。もうバカとしか言いようがないね。」
もう一人は案の定神様だった。
「異世界へ飛ばされて二時間程度で湖にダイブした話なんて聞いたことないよ。」
私はがくがくとうなずく。
今は神様にはげしく同意だ。
だいたいいきなり湧いてきた身でよくそんなことがいえるよ。私なんてまだ、これが現実かどうかすらわからないのだから。
「登録番号31番。横宮一。あんた50人のなかで一番面白いよ。綾小路星羅もクエスト達成頑張って。ちなみにクエストは発信されてから1日以内に達成されないとバイバイキーンだからね。」
神様~。だからそんな大事なことはもっと早くに言ってくださいよ。
「では、後ほど。チュ。」
はじめのスマホから発信された投げキッスを軽く避けて、私のスマホを見る。
本当だ。
残り時間20時間となっている。
「横宮君。とりあえず一緒に行動しない?そのほうが効率的だし。」
「ふっ。俺のこの邪気眼さえあれば、モンスターなど一撃に。」
「じゃ、私は狩り行くね。モンスター来ても倒せるんでしょ。」
「待ってください。綾小路様。」
別に皮肉で言ったわけじゃないのに、はじめはなぜか付いてきた。
邪気眼で倒せるなら、使えばいいのに。
む、もしかして一般庶民の私がいるから使えないのか?
そもそも邪気眼ってなんだろう。
ま、いいか。とりあえずクエストを達成しなければ。
私ははじめを従え、さらに奥へと進んでいったのだった。
なんか桃太郎みたいと思ったのは私だけ?