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上弦の月 実は良い子な不良達と統率力ある生徒、あと馬鹿娘

それは七月上旬のある日のことだった。いつもは騒がしい教室内は静まり返り、物音一つしない。言っておくが、けして無人ではない。珍しくクラスの全員が集まっているのだ。教壇の上の担任は今にも泣き出しそうだ。


いつまでこの緊張が続くのか、とその時。

静寂を破ったのは、担任だった。

「えっと、テストを返します」

教室はテスト返却日です。


皆返されたテストに一喜一憂し、伊吹の方をチラチラと伺う者も。彼と勉強会をした時、悲惨な点を取った奴は課題を与える、と言われているのだ。その課題は半端じゃない。夏休みに別れを告げなければならない程の量だ。言わなきゃいい? そんなのバレた後が恐いです。


さて、皆の関心は今、一人に注がれている。

「望月」

「はーい」

何とも緊張感のない返事だ。

転校初日に馬鹿疑惑が発生していた彼女はやはり馬鹿だった。数学の文字式を見て英語の勉強と間違える程に。生物で血液の成分を問われて、「血!!」と自信満々に答える程に。聖徳太子の絵を見て「ラストサムライ」と答える程に。

皆が彼女を見守る。一緒に学んだ仲間だ。出席番号11番の不良の彼など、手を合わせて神頼み中だ。彼は今まで授業にもあまり出ていなかったのに、元のつくりが良かったのか、彼女と勉強し彼女に教えるうちにメキメキ学力を上げた者たちの一人だ。


神楽の手にテストが渡る。

彼女は俯きながら皆の方を振り返った。

もしや、駄目だったのか……?

しかし次の瞬間、彼女は顔を上げ、テストを持った手を天井に向かって突き上げた。ぽかんとしたのもつかの間、全員その意図を理解した。

「赤点よ、さらば!!」

皆歓声を上げた。

担任は涙を流した。今までこのクラスがこれ程まで団結したことがあっただろうか、いやない。実は良い子の集まりだったことが判明。


「先生、少しお時間よろしいですか?」

「あ、うん」

「ありがとうございます」

教壇に上がったのは伊吹だった。

「さて、皆に言っていた課題の件だけど……欠点者なしのため課題もなしだ」

拍手喝采。ガッツポーズをとるものもちらほら。

「ただし、夏休み中に周りに迷惑な行為をした者には倍の量の課題を届けるから、そのつもりで責任を持って行動しろよ。いいな?」

「了解しました!!」


夏休み直前の日の出来事である。

ついでにいえば、夏休み中問題を起こして捕まったり学校に呼び出されたりした生徒の中にこのクラスの生徒の名が上がることはなかったという。

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