三日月 愛すべきおバカ参上!!
人影もすでに絶えた真夜中。空には少し欠けた大きな月。そんな明るい月の光を浴びて、小さな川の小さな橋の上で、小さな少女が足をぶらぶらさせながら月見をしていた。
「うーさぎうさぎ 何見て跳ねる
十五夜おーつきさま 見てはーねーる」
少女の腕の中では子うさぎがもそもそ動いている。少女はそんな子うさぎを抱え直した。
「……ウサ丸? こんどこそ会えるかな」
うさぎは分かっているのかいないのか、少女の顔をちらりと見て、あくびを1つした。
「会いたいな……」
子うさぎはそう言う少女の腕の中にもぐりなおした。
「す、すみませんっ。せ、席に着いてくださいっ」
SHRに入ってきたそのクラスの担任は月曜日なので自分のクラスの生徒達に怯えていた。
「センセーがんばっ!!」
「みんな~、我々の偉大な教師 井上美樹殿がいらっしゃったぞー!!」
そう言ってはやし立てる生徒達にさらに怯える始末。もうすでに半泣きである。
「もうミキちゃんったら、今日も可愛いんだから。おい、お前らさっさと黙って座れや!! ……はい、ミキちゃん。始めちゃって」
七瀬はそんな井上を溺愛していた。彼女曰く、全てにおいてミキちゃんは可愛い、らしい。教師と生徒。しかし、周りの人間から見れば、どう見ても泣き虫な弟とそれを溺愛する姉の図だ。
「黒鉄、ありがとう。でも、僕の名前、ミキじゃなくてヨシキなんだけど……」
「気にしないで、ミキちゃん」
ただし、伊吹と恭牙は気付いていた。七瀬の頬がほんのり赤く染まったことに。
クールで男より男前。そんなふうに表現される黒鉄七瀬は、担任の前では、純粋に恋する乙女だった。
「今日は、編入生を紹介します。入ってください」
教室のドアが開いて、入ってきたその人に全員目を奪われた。
「わたくし、望月神楽と申します。ふつつか者ですが、どうぞよろしくお願いいたします」
「嫁入りかいっ!!」
真っ先に我にかえったのは恭牙だった。さすがは関西人、突っ込みが素早い。
「そないに畏まらんでええよ。気楽にしてや」
「なら遠慮なく。さっきも言ったが私の名は望月神楽だ。これから世話になる。よろしく頼むぞ…………、なんちゃって~!! こんどこそ本物、神楽ちゃんで~す!! 仲良くしてね」
コロコロと表情を変え、口調を変え、最早何と言えばいいか。ただ一つ確かなことは、
「みてみて~。この子、ウサ丸って言うんだよ。可愛いでしょ?」
「望月、うちの学校、ペットの持ち込み禁止」
「え、そうなの?」
こいつが馬鹿だってこと。