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新月 遥か昔の物語
今は昔、竹取の翁ありけり。
野山にまじりて竹を取りつつ、
よろずことに使いけり。
名をばさかきの造となむ言ひける。
それははるか昔の物語。
おそらく、日本人なら大抵知っている話。
「かぐや姫」「竹取物語」
あの、月へ帰ってしまった一人の姫の話。
「かぐや、お主は今、元気にしておるのかえ」
姫が月へ帰ってすぐに、お爺さんは亡くなった。
かつて姫とお爺さんと三人で過ごした、広々とした家で、お婆さんは独り月を眺め、
ある日、ひっそりと息を引き取った。
一方、かぐや姫を愛した帝は、不死の薬と手紙を山の頂きにて焼いた。後にそこは、不死の山から転じて、富士の山と呼ばれる。
帝はやがて正室、側室との間に跡継ぎができ、姫のことは忘れたかのように思われた。
しかし死の間際、
「死んだなら、姫の近くに行けるだろうか」
そうこぼして亡くなったという。
彼には多くの妻がいたが、彼が生涯愛したのは、
かぐや姫ただ一人だった。
ときは流れ、平成の世。
月と地球で亡くなった者たちの魂が、
長い時を経て再び巡り会う。
これは、もう一つのかぐや姫の物語である。