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対面

ヘルトナに戻ったガルドはすぐさま行動を開始した。この街でエルフといったら一つしかない。帝国にコネを持ち竜人がもたらす輸入品を扱い、莫大な財を成す一族だ。常に気高く傲慢な態度は典型的エルフ像であり、ガルドがこの町でもっとも忌み嫌う存在…


屋敷に踏み込もうとした二人の前に、あの取引を持ちかけたエルフが現れる



「仕事が早いな。さて報酬についてだが」


「引っ込んでろ三下、テメェの雇い主に会わせろ」


「いきなり詰めかけて会える程、私の主は安いお方ではない」


「高いか安いかなんて知るか、テメェらはクズだ。どうしようもねぇ蛆虫が、とっとと消えろ」


汚い言葉で罵られ、流石の冷静なエルフも青筋を浮かべる。互いに睨み合う状態が続くかにみえたが、一人のエルフが屋敷から現れる


「ヴィンセント、もういいわ。客人を屋敷に入れてあげなさい」


「アーネルン様、しかし! 承知致しました…」


屋敷の主人と思われるエルフの女性の言葉で、男はしぶしぶながら引き下がる。ガルドは門をくぐる際、男に中指を立ててほくそ笑む


「わたくしの前で、そんな下品な仕草をしてほしくはないですね」


「誰だあんたは? 雇い主の夫人か? 雇い主に用がある会わせろ」


「フフ、わたくしがあなたの雇い主よ」


「あんたが? 冗談だろ」


軽く笑い飛ばすガルドだったが、笑みを絶やさない彼女を見て小さく舌打ちをする。ガルドにとってエルフにいいように使われているのは気に入らなかったが、雇い主が女のエルフだったことは更に屈辱だった。そんなガルドの心情を知ってか、女は目を細めて笑う


「クソが…あんたが雇い主なら話しは早い。テメェらこのオレに嘘ついたな? 何が害獣殺しだ、無実のカタギを殺すところだったぜ!」


「あら人聞きの悪いことを…それより仕事の話しは中でしましょう」


女はガルドの威圧をモノともせず、余裕のある態度で怒りを受け流す。脇に控えているハーンはちらっとガルドを見たが、あまりの怒りの表情に恐縮し、すぐさま目を逸らす。興奮状態で彼の体は若干赤みがかり、低い唸り声を出している。睨むだけで人を殺してしまいそうなガルドに対し、少しも臆さない女にハーンは少しだけ感心した…





エルフは森に暮らし自然を愛するイメージがつきまとう種だが、人間などよりも遥かに歴史が長く、そして強大だ。今は人間の帝国の支配下に甘んじてはいるものの、エルフの築いてきた文明と技術は計り知れない。美男美女揃いに個々の才能も高いなど、まさに神に祝福されたような種族だ。それ故他者を見下す傲慢な態度が見られ、ガルドのように蛇蝎のごとく毛嫌いする者が少なくない


女性エルフ、アーネルンの豪華絢爛な屋敷に通されても、ガルドは装飾に目もくれず彼女を睨み続けた



「そんなに見つめられたら恥ずかしいじゃない。さて、仕事の話しをしましょう」


「話しなんかねぇよ。テメェは詫びを入れて、オレは金を受け取って帰る」


「あら強引ね。嫌いじゃないわよ、そういうひと…」


「オレの忍耐力を試してんのか? 分かってると思うが、死んでから後悔は出来ねぇぞ」


「試してもいいけれど、屋敷を汚したくないわ。そんなことより…あなたわたくしのもとで仕事をしてみない?」


「おちょくってるのか、オレがこれ以上長耳野郎とつるむとでも?」


明らかに嫌悪感を示すガルドにいくらか傷ついたのか、アーネルンは苦笑いを浮かべる。お互いに相容れない存在であることを再確認し、アーネルンは話しを進める



「あなたの好みはよく分かったわ。でもここはレプティリスじゃないのよ…エルフもいればドワーフ、亜人たちもいるわ。適応出来ない者は歓迎されないの」



未だ不機嫌な表情を浮かべるガルドを一瞥し、アーネルンは窓の外に目を向ける



「ご覧なさい、あなたの同胞たちを。皆あの大戦の悪評をものともせず、前向きに頑張っているわ。慣れない文化にも差別にもめげずね…」


「おいオレを見くびるなよ。確かにあんたらエルフは大嫌いだ、近付きたくもない。だがビジネスは別だ、対等な取引が出来ればパートナーだよ」


「フフ…あなたとは気が合いそうね。ビジネスにおいて個人的感情なんていらない。利益さえあればいいのよ」


「嘘吐きのクソ野郎とは、一緒に仕事はしねぇけどな」


「…案外根に持つひとなのね」


気を許さないガルドに落胆するが、すぐに表情を戻す。ガルドもまた、不機嫌だった表情を引っ込め真顔になる。ここからはビジネスの話しだ


「あなたを騙したのは謝るわ。報酬も約束通り支払う、それで水に流しましょう。あなたとはいいパートナーになれる気がするの、どうかしら?」


「まずオレは傭兵じゃねぇ。金を払えば何でもかんでもやると思ったら大間違いだ。そこらへん分かってくれれば…あんたとはいい仕事が出来る」


「分かったわ…協力してくれるってことでいいかしら? よろしくね、ガルド」


「あぁ」



さすがに親しみを込めた言葉を口にするのは嫌なのか、てきとうな返事をする。ガルドの性格をある程度理解したアーネルンは微笑み、部下に報酬を用意させる


「仕事の話しはこちらから伝えるわ」


「ギャンブルで金を使い果たす頃には、次の仕事が入ってくるだろ?」


「ええ…わたくしも期待してるわ、ドラゴニュートさん」



ガルドはようやく本来の呼び名で呼ばれたのが良かったのか、小さく笑みを浮かべる。その笑みが他種族には恐ろしかったのか、アーネルン共々エルフの顔が引きつる



「もし消えて欲しいヤツに関わる仕事なら早めに知らせてくれ。用意がある」


「分かった。期待してるわよ」



短い話しだったが、長話をする質ではないガルドにとって実のある話しであった。この大陸で力を手にする手っ取り早い方法は、誰かを踏み台にすること。ガルドは今日、良い踏み台を見つけたのだった

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