第四十七話:奪還と帰還
「・・・・・どうやら船で逃げる気らしいな」
ゼオン達が見つけて来た車を運転しながら夜叉王丸はポツリと呟いた。
「それは好都合だな。おっさん」
助手席に乗ったヘルが笑いながら答えた。
「船の中なら他の人間に被害が加わらないから?」
後部座席にいたフェリスが聞いてきた。
「あぁ。今のおっさんなら他人が巻き込まれようが知らん振りするだろうからな」
隣で黙って運転する夜叉王丸を見るヘル。
「・・・・・確かに、無いとは言えないな」
薄らと笑みを浮かべる夜叉王丸。
「おっさん。あんまり暴れ過ぎんなよ」
ヘルが釘を刺したがフェリスは
「あら。いいじゃないの。愛する奥さんを攫われたんだから」
夜叉王丸を弁護した。
「しかし・・・・・・・・・」
「それともヘルは私が攫われたら冷静にいられるの?」
「んー、無理だな」
「でしょ?だったらお義兄さんの気持ちを組んで上げないとね」
フェリスの言葉にヘルは苦笑して何も言えなかった。
「へっ。すっかり上さんの尻に敷かれてるな」
フェリスの隣に座ったダハーカが皮肉気に笑った。
「俺だったら女の尻になんて敷かれないぜ」
得意げに言うダハーカ。
「いや、お前は間違いなく尻に敷かれる」
四方八方から集中砲火を浴びるダハーカ。
「目に浮かぶぜ。気の強い上さんに叱られるお前の姿がっ」
夜叉王丸の言葉に笑い声を上げるゼオン達。
「う、うるせぇ!それよりもっと速くしろよ!?」
怒りながら催促するダハーカ。
「言われなくても今から跳ばす」
夜叉王丸はクラッチを踏みギアを変えスピードを上げた。
「これが奴らの逃げた船か?」
目的地の港には巨大なタンカーが停まっていた。
「いかにも雑魚が居そうな船だな」
ヘルが呆れた眼差しで船を見上げた。
「こんな所に女の子を連れ込むなんて悪趣味も良い所だわ」
フェリスは怒りを瞳に宿しながら拳の節を折った。
「さっさと片付けて宿に帰りましょう」
ゼオンが夜叉王丸を急かした。
「そうだな。行くぞ」
モーゼルを握り歩き始める夜叉王丸に続きゼオン達も各々の銃を手に持ち歩き始めた。
先ずタンカーの中に潜入するとジャンヌを捜し始めた。
しかし、隠れもせずに探していたため敵に見つかってしまった。
「敵だ!!応戦しろ!?」
雑魚の一人がマシンガンを乱射し大声を出した。
「煩い。餓鬼だ」
標準を定め引き金を弾き一発で仕留めた。
「ここからはバラバラに暴れてジャンヌを見つけろ」
用件を言うと夜叉王丸は歩き始めた。
「旦那の許しも得たし暴れっか」
楽しげな笑みを浮かべゼオンが動き出すのを合図にバラバラに別れた。
『・・・ジャンヌ、何処に居る?』
夜叉王丸は船内を歩き回りジャンヌの姿を探した。
背後には血を流し倒れる人間が転がっていた。
「う、うわぁー!!」
背後からナイフを持って突っ込んできた男に夜叉王丸は振り向き様に肘打ちを当てた。
「・・・ぐわっ」
男が怯んだのを見逃さず胸倉を掴む。
「攫った女は何処だ?」
ギリッ
と胸倉を絞める。
「ち、地下に居る」
「・・・そうか」
男の腹に蹴りを入れると夜叉王丸は地下に向かった。
地下に行くと無愛想な鉄のドアがあった。
「・・・・・」
夜叉王丸はモーゼルでドアノブを破壊すると勢いよくドアを蹴破った。
バアッン!!
中に入ると静かに眠るジャンヌがいた。
「ジャンヌっ」
慌てて近寄り首筋に手を当てると息はあり小さな寝息が聞こえた。
「・・・・・はぁ」
安堵の息を吐きながら夜叉王丸はジャンヌを抱き上げると部屋を出た。
「・・・よぉ」
部屋を出て船内から出るとダハーカ達が煙草を蒸かしていた。
「無事だったか?」
「あぁ。眠ってる」
抱いているジャンヌを苦笑しながら見る夜叉王丸。
「まるで眠り姫だな」
ダハーカが苦笑してジョーカーを投げ捨てる。
「・・・さぁて、警察が来る前に帰るぞ」
夜叉王丸が姿を消すとダハーカ達も消えた。
三十分後に警察が来てジャンヌを誘拐した犯人は逮捕された。
犯人たちは夜叉王丸に怨みを持つ組織の者たちで犯行を認めているが夜叉王丸たちの事は何一つ警察は詮索しなかった。
夜叉王丸が手回しをしたのかタンカーでの事件は単なる船内で爆発事故が起きただけと翌朝の新聞には書かれていたそうだ。