第二十五話:初めての人界
ストーカー悪魔のアスモデウスの少し可哀相な所をご堪能下さい。
「ここが日本の首都の東京?」
私は運転をしながら煙草を蒸す飛天様に尋ねた。
「あぁ。喧しい所だろ?」
嫌そうに口元を歪めて答える飛天様。
現在、私は飛天様が運転するベンツSSKに乗りアスモデウス様を探している。
初めての人界に期待していたが、ごみごみして空気が悪い東京に参っていた。
「人間の、まだ餓鬼だった頃から嫌な場所だなって思ってた」
「飛天には確かに似合わないね。どちらかと言えば少し田舎の方が似合う」
飛天様は伸び伸びとした場所が似合うと素直に思う。
「サンキュー・・・・・にしても純情ストーカー悪魔は何処に行ったんだ?」
ため息を吐きながら飛天様はハンドルに顔を埋めた。
人界に勇んで行ったアスモデウス様を追って人界に来たが、まったく居場所が分からない。
この人間達の中から探すなんて無理に近い。
「仕方ない。魔術を使って探すか」煙草を灰皿に捨てて意識を集中する飛天様。
「我、夜叉王丸の名において命ずる。色欲の魔神アスモデウスを捜せ」
呪文を唱えると風が強く吹いた。
「後は待つだけだな」再び新しい煙草を取り出す飛天様。
道路端に止めていたがエンジンを掛け道路に出る。
「何処に行くの?」
「飯食い」
短く返答して素早くクラッチを踏んでローギアからセカンドギアにチェンジする飛天様。
「何を食いたい?和か洋か?」
「二つしかないの?」
「フレンチ、イタリアン系は正装じゃないから無理だし中華は昼に食いたくないから却下」
「んー、・・・・・・・じゃあ、マクドナルドが良い!!」
「マック?ファーストフードが良いのか?」
予想外の返答に目を見張る飛天様。
「和食も洋食も食べてるし初めてだから行ってみたい!!」
いつも寝ている間にヨルムさんとゼオンさんが和と洋を交換しながら作っているのだ。
勿論、低血圧の飛天様が朝早く起きれる訳がないから料理はできない。
「分かった」私の頼みを快く了承してくれる飛天様。
直ぐ近くのマクドナルドに車を止めて中に入る。
「いらっしゃいませっ」店員の声が心地よかった。
「何にするんだ?」メニューを見ながら尋ねてくる飛天様。
「んー、妥当にハンバーガーとフライドポテトとシェイクかな?」
「じゃあ俺も同じで」店員に注文する飛天様。
笑顔で言う飛天様の姿に周囲の女性は釘付けであるのを私は知らなかった。
「・・・・・・・・」店員は固まっていた。
「どうしたんだ?」手の平を振る飛天様。
「はっ、申し訳ありませんっ。ご注文は?!」
「ハンバーガーセットを二つ頼む」
もう一度、注文し直す飛天様。
「畏まりました!少々お待ち下さい!?」
あせあせと奥に戻る店員に私と飛天様は首を傾げた。
「どうしたんだ?」
「さぁ?」
その三分後に店員が袋を持って出て来た。
「お待たせしましたっ」
「ありがとう。嬢ちゃん」
袋を二つ受け取り代金を払う飛天様。
「車の中で食うぞ」袋を片手に背を向ける飛天様の後を追う私。
扉を出ようとした瞬間にドアを蹴り飛ばして男が入ってきた。
その手には猟銃と拳銃が握られていた。
「動くな!?」男は手にした猟銃を上に向かって発砲した。
「きゃあ!?」店の店員、客が悲鳴を上げた。
「静かにしろ!?静かにすれば危害は加えない!!」
男は大声で怒鳴った。
「そこの大男と女、床に伏せろ!?」男が拳銃を向けてきた。
っと言っても私も飛天様も平然としていた。
男の目付きは怖いけど寝起きの飛天様に比べれば可愛い方だし、銃よりも協力な魔術を見てきたから怖くない。
「あ?この俺に命令する気か?餓鬼」怒った眼差しで男を睨み下ろす飛天様。
流石は冥界の王たるハーデス様にアイスクリームの名前を付けて皇帝のベルゼブル様に鉄拳を出すだけの神経をしている飛天様だ。
「う、うるせぇっ!!ぶっ殺すぞ!?」
「そんな銃で俺を殺すだと?笑わせるな」鼻で笑う飛天様。
「今、俺は腹が減って機嫌が悪い。大人しく無能な警察に自首するか、ここから出て行け。さもないと病院送りになるぞ」
袋を私に渡して男の目の前に立つ飛天様。
「ふ、ふざけやがって!」
男は激怒して飛天様に銃口を向け発砲した。
店員、客達は瞳を閉じたが私は瞳を開けていた。
「あ、あ・・・・・・」銃口を曲げられた男は唖然として見ていた。
「どうした?何を唖然としている?」
男から銃口が曲がった猟銃を取り上げ店の片隅に投げる飛天様。
「降参するか?」
「はっ、だ、誰が!?」男は意識を取り戻し拳銃を向けた。
「・・・・それなら、病院行きだな」男の腕を掴むと軽く捻り上げ
「ぎゃ・・・・・・」男は悲鳴を上げようとしたが顔を掴まれドアに向かって投げられた。
ガシャン!!
大きな音を立てて男は店の外に放り出された。
「全治二、三週間の軽い怪我だ。安心しろ」
外で気絶している男に言って飛天様は床に伏せている店員に札束を置いた。
「ドアの修理代だ。それで足りないなら、この番号に電話しろ」
懐から番号が書かれた紙を置いて飛天様と私は店を出て行った。
「どうやらストーカー悪魔はまだ警察に捕まっていないようだ」
車に戻ると飛天様がニヤリと私に笑いかけた。
「よかったじゃない」
「いや、これからが大変なんだよ。どうやって無事に連れ戻すかだ」
「この前はどうしたの?」
「この前はルシュファーとベリアルと一緒に鎖で縛り上げて猿轡をして連れ帰った」
「・・・・・・拉致じゃない」
「仕方ないだろ。そうしないと連れて帰れそうになかったんだから」
「今度はどうするの?私と飛天だけだよ」
「なぁに心配するな。今度も手抜かりはない」
意地悪な笑みに背筋が冷たくなった。
「お前に少しアイドルになって欲しいんだよ」
「え?私がアイドル?」
「そう。少し化粧して派手な服を着てストーカー悪魔のアイドルになってくれれば良い」
「で、でも・・・・・」
「頼む!!後で言う事を何でも聞くから!?」
「・・・・・ねぇ、大丈夫なの?飛天」私は耳に付けたイヤホンで尋ねた。
「心配するな。奴は必ず食い付く」小さい声で飛天様の声が返ってきた。
「何だか刑事ドラマの囮捜査だよ」
「我慢しろ。後で言う事を聞いてやるんだから」
結局、私は飛天様の頼みを聞き入れ現状に至る。
何でも言う事を聞くって言われてOKしてしまった。
今更、後悔しても仕方ないけど・・・・・・・・・
「でも、三週間もストーカーしてたら分かるんじゃない?」
三週間もストーカーしてたら偽物の区別くらい付くはず。
「頭に血が上ってるから心配するな」
「・・・・そうかな?」
不安な気持ちで人込みの少ない道を歩んでいると
「やっと見つけた!!」
突然、目の前にアスモデウス様が現れた。
「ひぃっ」悲鳴を上げて後退る。
「逃げないで!俺は何もしない!?ただ君と話しをしたいだけなんだっ」
目を血走らさせて言われても説得力がない。
「俺は君が好きなんだ。堪らなく好きなんだ!!」
「君の後を追ったのも護衛のためなんだ!!だから信じてくれ!?」
今にも襲い掛かりそうなアスモデウス様。
飛天様!助けて!?
「悪ふざけは終わりだ。ストーカー悪魔」
私の救いの声が届いたのか直ぐに飛天様が現れた。
「なにっ!?」
アスモデウス様の背後に立った飛天様は素早く鎖を巻き付けた。
「飛天っ!!」アスモデウス様は暴れたが何も出来ずに車の中に押し込まれた。
「ジャンヌ。帰るぞ」
私を乗せて静かに車を走らせて私達は魔界に帰って行った。
何だか願い事が一つだけって割りに合わない気がするよ。
帰り道で私はそんな事を思いながら初めてのシェイクを口にした。
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