第十九話:最高の花嫁
初の夜叉王丸の独白物です!?
「主人様。少し宜しいですか?」
中庭に埋められた秋なのに満開に咲き誇る桜の木の下でフェンとダハーカと一緒に昼寝をしているとヨルムが声を掛けてきた。
こいつが眠っている俺に声を掛ける時は、ベルゼブルやルシュファー達と言った王侯貴族達の事でだ。
やれやれ、面倒臭いなー。
どうせ、やれ夜会に来いだのジャンヌを連れて来いだの早く孫を作れなど下らない話しだろう。
まったく一人身のヘルが羨ましいぜ。
つい二日前にヘルは屋敷を去った。
サタン様と面会も済ませ用は無くなったからだ。
正直、今だ独身貴族のヘルが羨ましい。
俺だって結婚しなければ優雅に旅に出てたのに・・・・・・・・・・
・・・まぁ、あいつ(ジャンヌ)が妻だから結婚を決めたんだけどな。
あいつじゃなかったら、結婚しないで旅に出てただろうな。
「主人様、顔がにやけてますよ」若干、不機嫌そうなヨルムの声が上から降ってきた。
こいつは物好きと言えば物好きの部類に入るだろう。
俺みたいな人格、生活、それ以前に自分から悪魔になった男の執事を務めているのだからな。
まぁ、有能だから文句ないがな。
「・・・なんだ?」半開きの左目を上に向ける。
「・・・リリム様からお手紙が来ております」
「・・・・・」俺は再び眼を閉じて眠りに入った。
リリムだと?
「手紙は届かなかったという事で処分しておけ」瞳を閉じながら命令する。
「・・・畏まりました。直ぐに処分します」
一礼して立ち去るヨルムを気配で察して再び眠りに着こうとしたが、別の気配が近づいてきた。
「飛天っ、手紙を読みもしないでなに捨てさせてるのよ!!」
ジャンヌが怒り口調で俺にずんずん近づいてきた。
・・・・・・はぁ、静かに昼寝をさせてくれ。
「聞いてるのっ?」俺を揺さぶりながら尋ねてくる。
「・・・・んんん」寝た振りをして寝返りを打つ。
「起きてるでしょ!」外れたか。
「別に良いんだよ。どうせ何処かに連れて行ってくれとか、宿題を教えてくれとか下らない内容だから」起き上がって説明する。
実際、あいつから来る手紙なんてそんな物ばかりだから、最近は読みもせずに捨ててばかりだ。
「違うかも知れないでしょ!何でも決め付けないの!?」
俺の低血圧の眼差しを見ても怯みもせずに怒鳴ってきた。
お前くらいだぜ?寝起きの俺に怯まず怒鳴る女なんて?
まぁ、俺の正妻だからそれ位じゃないと困るがな・・・・・・・・・・
「何をぶつくさ言ってるのっ。手紙はヨルムさんが捨てに行ったんだから、今からリリム様の所に行こう」
そして、俺に本当に命令するのもお前くらいだ。
「えー、面倒臭い〜」ふざけた返答をすると
「何が面倒臭いよ!まだ昼前よ!?」凄まじい形相で怒られてしまった。
相変わらずお前をからかうと退屈しないですむ。
「なにを笑ってるの!早く行くわよ!?」俺の腕を掴むと引き摺り始めた。
「おいおい。お前も行くのか?」まぁ、紹介する予定だったから良いけど。
「飛天だけで行かせると万魔殿のお店で遊んでそうだから見張り役で行くの!」
やっぱり、お前は最高の妻だ。この俺を望む答えをお前はする。
「分かった分かった。行くから、仕度をしろ」面倒臭そうに答えながら立ち上がる。
「フェン、ダハーカ。行って来る」
一緒に昼寝をしていたフェンとダハーカの頭を撫でて自室に戻る。
自室って言っても、ヨルムとフェンの陰謀でジャンヌと同室なんだけどな。
だから、ジャンヌも一緒に部屋に着いて来る。
そんな事でも嬉しくて堪らない。
部屋に戻ると黒いボロマントを羽織り帽子を被って仕度を済ませたのに対してジャンヌはペイモンが留守のため薄い紺の軽素なドレスに身を包んだ。
ジャンヌは何を着ても似合う。
初めて会った時の白い花嫁衣裳を見た時は空から本当の天使が降って来たかと思った。
この俺がどれだけ、お前のために忍耐強い生活をしているか分かるか?
夜叉の棟梁でもあるから持ち堪えられるが、他の男なら迷わず襲うぞ。
まぁ、俺以外の男なんて全部まとめて皆殺しにしてやるがな。
「マントも帽子もボロボロだよ」俺の格好を見たジャンヌが顔を顰めた。
顔を顰める程か?まぁ、貴族には似つかわしい格好だろうが・・・・・・・
「まぁ、俺が悪魔に成った時にビレトのおっさんとザパンのおっさんから貰ったからな」
帽子もマントも後生大事にして置かないとビレトのおっさんとザパンのおっさんに申し訳が立たない。
「でも、そんなにボロボロじゃ見栄えが悪いよ」ジャンヌが言い辛そうに口を動かした。
「確かに。また縫い直すかな?」久し振りにやるから指を縫うかも知れないが良いか?
「え?飛天って裁縫も出来るの?」ジャンヌが不思議そうに聞いてきた。
「?料理も裁縫も自分でやるものだろ?」少なくとも人間の頃から俺はやってたぞ。
悪魔になってからも一人暮らしが長かったからな。
まぁ、料理や裁縫をやってやるって女神達が言ってたけど断ったんだよな。
あいつらに任せると危険だからやらせなかったんだけど・・・・・・・・
「いや、普通は奥さんや侍女にやらせるものだよ」さも当たり前のように言うジャンヌ。
確かに、ベルゼブル達や他の貴族達は召使いにやらせてるな。
ん?待てよ。これは使えるな。
「じゃあ、お前がマントとか縫ってくれないか?奥さん」にやりと笑ってジャンヌに顔を近づける。
「・・・・っ!わ、分かった!分かったから顔を近づけないで!?」真っ赤になりながら距離を取った。
ククククッ、お前は最高の嫁だ。
この俺を飽きさせずに欲情させて、それでいてお預けをさせる。
こんな女は初めてだ。
一生、放さないぜ。お前みたいな女は恐らくもう会わないだろう。
逃げようとしても無駄だぜ?
俺から逃げたら俺はお前を殺すだろうな。
他の奴に渡す位なら、俺の手で殺した方が良い。
そうすれば、お前は身体も魂も俺の物だ。
まぁ、お前の性格からして俺から逃げたりしないだろうから殺さないけどな。
「飛天、さっきから何を言ってるの?」
ジャンヌが訝しげに見つめてきた。
「なんでもねぇ」くしゃくしゃと乱暴に頭を撫でる。
「乱暴に撫でないでよ!直すの大変なんだから!」ばしっと触れていた手を振り払われた。
そういう事されると少し傷つくな。
「早く行くよ!」俺の手を掴んで歩き出した。
はははは、怒った顔も可愛い奴だ。
ヨルムとゼオンに見送られながら俺とジャンヌは用意されていた馬に乗って城に向かった。
ちょっと悪魔っぽく狂気な想いを載せてみました(爆爆)