第十四話:先行き不安
こんにちわ。ジャンヌ男爵夫人です。 ・・・・・すいません。一度で良いから言ってみたかったんです。 まぁ、私の話は置いておいて、第十四話を読んで下さい!?
「本当に、ジャンヌちゃんって結構良い身体してるわね」
朝の着替えをしている最中に、いきなり背後からペイモン様に抱き締められた。
「ひゃ!ぺ、ペイモン様!!止めて下さい!?」またか、と思いながら制止を呼び掛ける。
「うふふ、男を知らない生娘の反応は、可愛くて良いわね」耳元で囁かないで下さい!!
「・・・・もっと意地悪しちゃおうかしら?」
耳元で艶やかな声で囁くペイモン様。
助けて!!飛天様!?
ここには居ない夫の名前を叫ぶ。
「・・・・・おい、朝っぱらから俺の嫁に手を出してんな」
「・・・・・目隠しをして助けに来るなんて大したものね」
ちらりと見ると目隠しをしてペイモン様の首根っ子を掴んだ飛天様がいた。
「・・・・・早く着替えてヨルム達の所に行け」
「う、うんっ」急々と着替えを済ませ部屋を出た。
ペイモン様とゼオンさん達が屋敷に引っ越し(押し掛け)てきてから一週間。
ペイモン様は毎朝、私が着替える時を見計らってセクハラを仕掛けてくるんですよ。
私が着替える間は、飛天様も別の部屋で着替えている訳で、セクハラのやられ放題なんです(涙)
そんな後にヨルムさん達と朝食を済ませた。
朝食の後は私は、ペイモン様に礼儀作法を学ぶ時間。
極度に低血圧の飛天様はフェンさんと昼寝で、ヨルムさんとゼオンさんはチェスをして過ごしていました。
「少し休憩時間にしましょう」
礼儀作法を学んでから二時間くらいに休憩が入った。
私は平気だったけど、ペイモン様の方が休憩したかったようだ。
「はぁ、久し振りに礼儀作法をやるから疲れるわ」安楽椅子に座り足を組むペイモン様。
服装は相変わらず露出度の凄いドレスだ。
「今、紅茶を入れます」
ヨルムさんの計らいで茶菓子は準備してあった。
「んー、良い香り。どんな葉を使ったの?」香りを楽しみながら尋ねるペイモン様。
「今日はフィーリング(心地)という葉を使ったようです」茶菓子と一緒に置いてあった手紙を読む。
「さすがヨルム。伊達に人生破綻者の飛天の執事をやっているだけの事はあるわね」
紅茶を飲みながら笑うペイモン様。
確かに。飛天様みたいな人の執事をしているだけの事はある。
「・・・・・ふーん」小さく吹き出す私を見て、何か思案していた。
「ジャンヌちゃんって飛天が何で人生破綻者って言われてるか分かる?」
「えっ?この前、自分で荒野の果てで暮らしていたからって聞きましたけど」
「それもあるけど、あの男ね、昔、神界からスカウトされた事があるのよ」
「えぇ!!し、神界からスカウト!?」つい声を荒げて机から立ち上がってしまった。
「えぇ。どう見ても神界からスカウトされるような柄じゃないでしょ?」
大きく頷く私。
神界とは、その名の通り神々が暮らす場所。
ちなみに仏様達が住む場所は天竺で、妖精達は妖精界に住んでいます。
「飛天って見た目によらず腕も良いし頭も切れるから欲しがってたのよ」
「条件に言う事はなかったのに、飛天は断ったわ。ここで問題、何で断ったわと思う?」
飛天様の性格から言えば柄じゃないとか、居心地が悪いとかで断ったわのかな?
「・・・・・柄じゃないから?」
「くすっ、正解」うっすらと微笑むペイモン様。
「神々の前で『神なんて柄じゃねぇ』って言って断ったのよ」
なんだか飛天様らしいって言ってら飛天様らしい。
神になったら栄華の極み放題なのに、それを柄じゃないからと断った。
まぁ、飛天様だからこそ断った話だろう。
「神界からのスカウトは断ったけど、天竺のスカウトはOKだしたのよ」
「えっ?なんでですか?」
「まぁ、元日本人だから神よりも仏の方が馴染みがあったのよ」
なるほど。言われてみれば納得がいく。
「だから、飛天“夜叉”王丸なのよ」
夜叉の部分を強調するペイモン様。
「夜叉って八部衆の一つでしたっけ?」
「えぇ。夜叉の棟梁でもあり悪魔男爵でもある。それが飛天よ」
夜叉、仏教を守護する八部衆の一つで、元々悪鬼だったが仏様の教えに改心して八部衆になった部族。
「まぁ、仏は悪の存在もな認めてるから陛下も何も言わなかったわ」
組んでいた足を組み直すペイモン様。
確かに、仏様は勧善懲悪なんて言わないで、善もあるなら悪もある、とか言って悪の存在も認めてるね。
「飛天も、そういう仏の所が気に入ったからスカウトに頷いたのよ」
「こら、勝手に人の事を話すんじゃねぇ」
びっくりして後ろを振り替えると今だ低血圧の飛天様が立っていた。
ひぃ!目付きが恐いよ!?
「あら、愛する男の話をしちゃ悪い?」
飛天様の目付きを恐れずに笑うペイモン様。
「・・・・・ふん」ずんずん歩いてくると空いていた椅子に乱暴に座った。
「ジャンヌちゃんも大変だったでしょ?こんな破滅的な位、目付きの悪い低血圧な夫で」
「は、はいっ。最初がとても恐かったです」
初めて飛天様の事を起こしに行ったら、とんでもないくらいの目付きで睨まれたんですよ!!
「仕方ないだろ。低血圧なんだから」
不機嫌そうに煙草を取り出して火を点ける飛天様。
「ジャンヌ、礼儀作法の練習は大丈夫か?」
煙草を吸いながら尋ねる飛天様。
「うん。ペイモン様の教えが良いから大丈夫だよ」
「なら、良い」紫煙を吐きながら笑う飛天様。
うわぁー、久し振りに見たよ。飛天様の笑顔。
「・・・・・・・・」私は分からなかったが、ペイモン様は少し嫉妬と羨望の眼差しで見ていたらしい。
三人で談笑していると
「主人様、皇帝陛下から手紙です」ヨルムさんが手紙を持って入って来た。
「破って燃やせ」
笑顔から怒った顔になり素っ気なく命令する飛天様。
「ちょっと!飛天っ、ベルゼブル様からの手紙を燃やすだなんて!!」
私とは対照にペイモン様は面白がっていた。
「読まなくても中身は分かっている」
ぶすぅとした表情で喋る飛天様。
「近い内に城で開く夜会の誘いでしょうね」
紅茶を一口のんで微笑むペイモン様。
「夜会なんて集団見合いみたいな物だ」
吐き捨てるように言うと灰皿に吸い掛けの煙草を押しつける飛天様。
「そう怒らないの。一回くらいジャンヌちゃんを皆に見せても罰は当たらないわよ?」
宥めるように言うペイモン様。
「ジャンヌちゃんも一回くらい出たいわよね?」ちらりと私を見るペイモン様。
「ま、まぁ、まだ王族の方々に挨拶もしてませんからね」
今になって思い出したが私と飛天様の婚姻は、恋愛や見合いではなく政略結婚。
だけど、その割りには楽しく暮らしているのが現状なんだけどね。
「・・・・・分かった」突然、飛天様がぽつりと言った。
な、なにが分かったの?
「・・・“一回”だけ夜会に連れて行ってやる。“一回”だけだぞ。分かったな?ジャンヌ」
その“一回”を強調して私に言わないで下さい?!
眼が血走って、とっても超恐いです!!
「陛下、ジャンヌちゃんに会いたがっていたから大喜びよ」
飛天様の様子を楽しみながら見るペイモン様。
「あのエロ爺がっ、ジャンヌに手を出したら八つ裂きにして、塩胡椒で味付けしてダハーカとフェンの夜飯にしてやる」
飛天様は相変わらずの怒った顔で、恐ろしい事を言った。
ヨルムさんは困ったように私に笑い掛けた。
こうして私の魔界での社交界デビューが決まった。
だけど、先行きが不安な気持ちの私。
どうなるんだろう?これから・・・・・・・・・・?
ご愛読ありがとうございました。 バトラー(執事)のヨルムです。 奥様の社交界デビューが決まり嬉しく思う反面、先行きが不安でなりません。 どうか、温かい眼差しで読み続けて下さい。