第十三話:押し掛け師団
おいおい、どういう事だよ?今回の話は? まだ、新婚ホヤホヤなのにこんな展開ありか? まぁまぁ、主人様。そう怒らずに(汗) やかましい!?俺は認めんぞ。こんな展開!!
「・・・・・っという訳で今日から宜しくね?ジャンヌちゃん」
屈託のない笑みを浮かべたペイモン様が私に微笑みかけた。
「「「今すぐ帰れ」」」私は呆然としていたが、飛天様達は口を揃えて言った。
「お前がいるとジャンヌに悪影響しか与えない」
「主人様と奥様を悩ませないで下さい」
「さっさと消えろ。性悪女がっ」二人と一匹は、遠慮なしにペイモン様に噛み付いた。
何故、飛天様達とペイモン様が言い争っているのかというと・・・・・・・・
天界から来て作法や仕来たりを知らない私に色々と教える為に、王族であるペイモン様が屋敷に住み込む事で揉めていた。
飛天様曰く、
『どうせ、ルシュファーが面白可笑しくする為に送り込んだに違いない!!』だそうだ。
「ひどいっ、私が何をしたって言うの?」傷ついた素振りを見せるペイモン様。
「「「色々だ」」」口を揃える飛天様達を説得するのを諦めたのか、私を標的に選んだ。
「ジャンヌちゃんなら同じ女同士、分かってくれるわよね?」ペイモン様は、切実な口調と表情で私を見つめた。
うぅぅぅぅ、誘惑に負ける人間の気持ちが分かる気がする。
「え、と、その・・・・・・・・・・・・」
「ジャンヌ、こんな性悪女の言う事なんて聞くな」怒った目付きの飛天様と
「女なら好きな男の傍にいたい気持ち、分かってくれるよね?」潤ませた瞳に女の気持ちを出して懇願するペイモン様。
うぅぅぅぅ、どうしよう?
飛天様の言う通りにすれば王族の不興を買うし、ペイモン様の気遣いを受け入れたら、飛天様達の怒りを買うのは必然的だし・・・・・・・・
「あ、の、少し考・・・・・・・・・」
「「今すぐに答えろ、なさい」」二人共、一緒に言わないで下さいよ!!
「えぇぇ、と、その・・・・・・・・」涙が出て来る手前で、玄関から大きな音がした。
「旦那!ジャンヌ様!大丈夫ですか!?」ゼオンさんの声だ。
ドタドタと廊下を走る音が近づいてきて勢い良くドアが開けられた。
「ちっ、遅かったか」ペイモン様の姿を見て舌打ちをするゼオンさん。
「あら、何か用かしら?ゼオン」言葉は穏やかだが瞳は笑っていなかった。
「えぇ。どっかの年増女が新婚夫婦の邪魔をしに行った聞いたもので」ゼオンさんも瞳は笑っていない。
「・・・・“年増女”」ペイモン様の額に青筋が立った。
「どうかしましたか?俺はペイモン様とは言ってませんが?」うっすらと笑みを浮かべるゼオンさん。
「・・・・・言うようになったわね。飛天に助けて貰わなかったら、ずっと冥界の牢獄に居たくせに」
冥界の牢獄って、確か重罪人クラスが収容されてるんだったけ?
ゼオンさんがそこに居たって事は、元重罪人?
「・・・旦那に助けられた命だからこそ、旦那に悪影響を及ぼす奴らを始末するんだよ」
背中に差していた二本の刀を抜くゼオンさん。
「フェンやヨルム、ダハーカだって同じ気持ちの筈だぜ」
「・・・・・確かに。私達も主人様の為なら命を投げ出す覚悟です」ヨルムさん達も頷いた。
「大した忠誠心ね」感嘆の声を出して扇で扇ぎ始めるペイモン様。
悪魔は元来、力で主従関係を築いているのが、殆どで忠誠心は薄い。
しかし、ごく一部にゼオンさん達のように忠誠心のある悪魔達もいる。
理由は様々だが、悪魔達の忠誠心は、鉄壁よりも堅く主人の為なら死も厭わないらしい。
「飛天も幸せ者ね。こんな忠誠心が溢れた部下に天界の姫君と美人な愛人と一緒に暮らせて」
「「「「ちょっと待て」」」」三人と一匹が声を合わせた。
「「「「誰もお前が、この屋敷に住んで良いなんて言ってないぞ」」」」
「あら、ついさっき使い魔から手紙で、もう陛下とサタン様からの承諾もらったから決定よ」
開いた胸元から手紙を出し読み始めた。
「天界から来て不自由な姫君を陰ながら助けてやるように 皇帝ベルゼブル 野党首長サタン」
「ルシュファー様と二人の養父から“命令”じゃ断れないわよね?」にっこり笑うペイモン様。
「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」がっくりと膝を着く三人と一匹。
「それじゃ、私は引っ越しの準備があるから一度、帰るわね」扇を手で弄びペイモン様は、悠々と去っていった。
呆然とする私は気付かなかったが、この時の飛天様の顔は激怒していたらしい。
そして夕方、ベルゼブル様の居城で大きな爆発が起きて、ベルゼブル様だけが黒焦げになったそうだ。
恐らく、飛天様が怒りを爆発させたのではないかと私は思う。
後に、仲間を引き連れたゼオンさん達も屋敷に押し掛けて来て、同じ日に引っ越して来たペイモン様と大乱闘になるのを誰も知らなかった。
こうして私と飛天様の新婚生活は音を立てて崩れ去ったのだ。
嗚呼、世の中は無情で神も仏もいないとは、まさにこの事だと思わずには入られません。
かなり荒れてたな。主人。だろうな?あんだけの目に合えば激怒するって。 可哀想な主人(涙) まったくだ(合掌)