第十話:独占欲は止められない
・・・・・夜叉王丸だ。なんだか今回は作者の好き勝手に書かれた気分で機嫌が悪いから、ささっと退出するから好きに読め。
「あっ!この家具なんか良くない?飛天っ」私は選んだ家具を指差す。
「・・・・・あぁ、良いんじゃねぇの?」しかし返ってきたのは怠そうな声だった。
「もう!まだ始まったばかりなのに、そんなやる気ない声だしてるの!!」
「・・・・・低血圧なんだから仕方ねぇだろ」
低血圧って、朝の十二時にもなれば治るでしょ!!
屋敷で一夜を過ごした次の日に、私は飛天様を連れ家具類を買いに万魔殿に向かった。
だけど、飛天様の低血圧のせいで出るのが正午過ぎになってしまったのだ。
「飛天のせいで大幅な時間ロスしたんだから、ちゃんと選んでよ!?」
「・・・・・分かった分かった」私の怒った態度にやっと選び始めた。
「おやおや、新婚早々から尻に敷かれているので?男爵様」
家具屋の主人さんが辛かったように笑った。
「飛天に似合う家具ってありません?」家具屋の主人さんに助けを求める。
「男爵様は家具類に疎いですからなぁ」
主人さんは苦笑しながらも選ぶのを手伝ってくれた。
「この家具なんかはどうですか?男爵様」
主人さんが選んだのは、質素な造りだが上品な家具だった。
「わぁ、綺麗なタンス」全部、名のある職人が造った家具だろう。
質素な造りに丹精が込められていた。
「ほぉう、これは中々な造りだな」飛天様も身を乗り出して凝視する。
「ん、気に入った。これにする」
決めるの速ッ!?
「いくらだ?」
「金貨五百枚の所、三百枚で結構です」
そんなにまけて良いんですか?!
「ほい、三百枚」ぽんと懐から出す飛天様。
「家具は、いかが致しますか?持ち帰りますか?それとも送りますか?」
「んー、ベルゼブルから呼び出されてるから送ってくれ」
えー!?ベルゼブル様から呼び出し!?
「2、3日前に来たんだが面倒臭いから、無視してたんだよなー」
嗚呼、皇帝陛下の呼び出しを無視するなんて・・・・・・・・頭が痛くなってきちゃった。
「・・・・・無視して良かったの?」頭痛のする額を抑えながら尋ねる。
「まぁ、大体の見当は着いてるから」
「まぁ、そういう訳だから屋敷の前にでも置いておいてくれ」
家具屋の主人さんに命令して飛天様と私は城に向かった。
城に入るとメイド(元同業者)が私達を案内してくれた。
「この部屋で待っていて下さい」
客室に案内して紅茶とコーヒーに茶菓子を置いてメイドは去って行った。
「人を呼び出しておいて待たせるのかよ」
愚痴を言いながらミルクを入れてコーヒーを飲む飛天様。
「3日も無視してたからベルゼブル様の都合が悪くなったんだよ」
「そうか?」
茶を飲みながら待って十分後にベルゼブル様がやってきた。
「ジャンヌちゃん!久し振り!?」
部屋に入るなり私に抱き付こうと飛び掛かってきた。紳士服に身を包んだベルゼブル様が入って来た。
飛び掛かってきたベルゼブル様の顔に正拳を打ち込んだ飛天様。
「・・・・・ぐはぁ!」ベルゼブル様は鼻血を出して床に崩れ落ちた。
「人の嫁に手を出すんじゃねぇ」私を庇うように立つ飛天様。
「痛いじゃないか!!」鼻を抑えながら怒るベルゼブル様。
「人の嫁に手を出す方が悪いんだよ」悪怯れもなく言い返す飛天様。
「ちょっと位、良いじゃないか!?俺の義娘でもあるんだぞ?!」
「お前のちょっとは信用できねぇ」
「なんだと?」
「なんだよ」
二人の間に不穏な空気が流れ始めた。
あワワワワワワワワ
な、何とかしないと前みたいになっちゃうよ!?
「き、今日は、どんな用事で呼び出したんですか?ベルゼブル様ッ」
「おぉ、そうだったそうだった。つい熱くなってしまった」私の声で空気が緩和し始めた。
・・・・・・心臓に悪すぎるよ。
「今日、呼んだのは夜会の事だよ」
ベルゼブル様は笑っていたけど、飛天様は嫌そうな溜め息を吐いていた。
「・・・・・やっぱり夜会の話かよ」
「そう溜め息を吐くな。幸せが逃げるぞ」
「ふんっ」飛天様は拗ねたようにソファーに身を沈めた。
「・・・・・あの、夜会って、貴族の方が集まるのですよね?」
「ジャンヌちゃんを紹介する為の夜会だよ」
私の為の夜会?
「それを伝える為に手紙を送ったのに、こいつが返事を返さないから呼び出したんだけどね」
「そうなの?飛天」飛天様を見ると目を逸らされた。
「こいつ、ジャンヌちゃんを他の貴族に見せたくないんだよ」悪戯な笑みを浮かべる。
「いやー、執着心や独占欲が無いのかと思ってたけど持ってたんだな」
「・・・・ふん」不機嫌な表情を崩さない飛天様。
「???」執着心やら独占欲って何が?
「・・・・・ジャンヌが混乱してるぞ」ちらりと私を見る飛天様。
「お前が説明すれば良いじゃないか」
「・・・・・・・・」険しかった顔が更に険しくなった飛天様。
「・・・・・まぁ、身を持ってジャンヌちゃんも分かるだろう」私に微笑むベルゼブル様。
え?えっ?何が?どういう事?
「話しは戻るけど、明後日に開く夜会に来いよ」私を無視して話しは進む。
「これは、皇帝からの“命令”だからな」
「また職権乱用かよ」溜め息を吐きながら睨む。
「こうでもしないと、来ないだろ」睨まれても平気で答えた。
「しかし、今回は“命令”でも行かないぞ」
飛天様は勝ち誇ったように笑った。
「生憎、ジャンヌは夜会に行くドレスも無ければ装飾品も無い」
「よって、ジャンヌを連れて行けない」確かに飛天様の言う通りだった。
貴族でも王族でもない私は綺麗なドレスも宝石も持ってない。
夜会に一度くらいは、出て見たいけどドレスが無いのでは出られない。
「じゃあ、俺とジャンヌは帰る」
席を立ち部屋を出ようとした時にベルゼブル様が笑い出した。
「それ位で俺が引き下がると思ったか?」
「・・・・・なに?」訝しむ飛天様。
ベルゼブル様が指を鳴らすと数人のメイド達が部屋に入って来た。
その手にはドレスと宝石が山のようにあった。
「俺からジャンヌちゃんへのプレゼントだよ」甘いマスクで微笑んだ。
うわぁー、格好良い・・・・・・・・
頬を染めてしまう私。
「・・・夜叉王丸様、顔が引き吊ってない?」
小声でメイド達が囁いていたが聞こえなかった。
「・・・・・何だか全身が痙攣してない?」
「空気、ちょっとやばくない?」後ろに静かに下がるメイド達。
「・・・・“義親父”」それまで笑っていたベルゼブル様が固まった。
「・・・・・っは!?」
周りを見るとメイド達は逃げた後だった。
「い、いや、ひ、飛天、おおおおおお、落ち着け!まずは、落ち着こう!?」
何でこんなに慌ててるんだろう?
「奥様、早くこちらへ」二人のメイドが両脇を掴んで走り出した。
「え?ど、どうしたんですか?」
「夜叉王丸様が陛下を“義親父”って言う時は超が着く不機嫌な時です」
「そして、そんな時の夜叉王丸様は誰にも止められないんですっ」メイド達は全速力で走った。
「この女たらしが!俺の嫁を誘惑しやがって?!」
「ひぃぃぃ!?た、助けてくれ!?」
背後から爆発音や悲鳴が聞こえた。
一時間後に戻ると客室は廃墟で、中には飛天様と黒焦げになったベルゼブル様がいた。
「・・・・ジャンヌ、帰るぞ」有無を言わせない威圧感を出していた。
「・・・・・はい」当然、私に選択の余地など無かった。
帰り道は、緊張を越えて恐怖感を感じながら屋敷に戻った。
城に行く度に、こんな神経を使うなんて・・・・・・・・・・・・
・・・・・はぁ、こんな生活が何百年、何千年も続いちゃうのね。
正直、身も神経も持つ自信ありません。
私は心の中で言いながら溜め息を吐いた。
・・・・・読者の皆さん。初めまして私は地獄帝国皇帝、ベルゼブルです。(決まった!!) どうだったかな?え?身体は大丈夫? 飛天にやられた傷なんて大丈夫さ・・・・・・・・・・・・って飛天!? な、なに?大丈夫ならもっとしてやる?! ひ、ひぃ!?うそうそうそうそ!全然、大丈夫じゃないから?! や、止めろ!?それだけは!やめてくれー!?