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愉快な肝試し

作者: 七宝
掲載日:2026/04/20

「現在時刻0時00分!! これより我ら墓に入る!! オバケと会えばオバケと話し!! 死体と会えば死体をツンツンする!!」


 我らがリーダー・前田ケンジがそう叫んだ。


 俺たちは近所迷惑になるんじゃないかとヒヤヒヤしていた。学校に通報されたら鬼の鎌田にぶん殴られちまうからな。


「まずはおフィー! お前が1番に行ってくるんだ!」


 ご指名が入ったので行ってきます。


 この霊園は国内最大級の大きさを誇っており、その広さは東京ドーム14.5個分にもなるという。

 ちなみにここは全ての墓が一列に並んでおり、世界一細長い施設としても有名でギネスにも載っている(なぜかミシュランガイドにも載っている)。東京ドームを引っ張って細長くした状態の14.5個分なのだ。あ、14.6個分になった。


 そう、この霊園は成長しているのだ。住職と契約を交わしている人間が死ぬと自動で墓が生えてきて、自動で納骨される。ゆえに、夜中でも関係なく増えるのだ。

 ちなみに、墓が生える予定の場所に家などがある場合は、墓が生える前に自動で立ち退いてくれるので心配は無用だ。


 このようにほとんどのことが自動になった現代だが、俺たちは肝試しをする。それは生身で感じる恐怖こそが、ヨーチューバー(いつも俺たちが見ている幼虫の棒)を見るだけでは感じることの出来ない大切な感覚だからだ。


「おフィー! 考えごともいいけど、そろそろ行ってけれ!」


 ケンジがうるさいので行ってくる。


 ちなみにこれまでケンジ以外誰も喋っていない。発言権がないので、ひと言でも喋ると拳が飛んでくるのだ。


 霊園に足を踏み入れると、空気が変わった。コンビニの裏みたいな匂いだ。


 ライトなどは近隣住民の迷惑になるのでなし。たまにある街灯を頼りに細い道を歩く。


 立派な花が供えられているお墓。枯れているお墓。そして、花自体がないお墓。いろんなお墓があるんだな。


 しばらく歩いていると、向こうから誰かが歩いてきた。白い着物を着ていて、頭に三角の布をつけている。よく見たら足元が透けている。どこからどう見てもオバケだ。ケンジの言いつけ通り話しかけないと⋯⋯


「おう」


 話しかけようと思った瞬間、向こうが手をあげて声をかけてきた。


「え、こ、こんばんは」


 いきなりの声掛けに動揺するオレっち。


「?」


 不思議そうな顔をするオバケ。お前が声かけてきたんだろうが。そう言いかけたところで、後ろから声が聞こえた。


「おう」


 振り向くと、オバケと同じ格好をした人がいた。


 え、恥ずかし。自分が話しかけられたのかと思って返事しちゃった。しかも幽霊相手に。幽霊グループLINEとかでバカにされるのかな⋯⋯ああ、挟まれた⋯⋯


「久しぶりだな」


「先々月に会ったきりか?」


「確かそうだと思う」


 俺越しに会話をする2人の霊。気まずい。


「オレさ、新しい技覚えたんだよね」


「えっマジ!? 見せて見せて!」


 俺もめっちゃ見たい。


「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・財津和夫!」


 チューリップの?


「くらえ! チューリップボタン!」


 ボタン!? 技でボタンってあるの!? めちゃくちゃ弱そう!


 と思ったら幽霊の手から2種類の花が飛び出してきてうわってなった。俺は実際には当たらなかったからうわっで済んだけど、これを食らった後ろの幽霊は⋯⋯食べてる! モリモリ食ってるじゃん!


「ムシャムシャ、牡丹ってこんな味なんだな」


 ああそうか、ボタンって花か。チューリップは食べたことあるっぽいなこの人。


 それにしても、完全にすり抜けたな。人間が幽霊を触れないのと一緒で、幽霊も人間に干渉できないんだな。

 でもさっきの反応からして向こうも俺の事見えてるっぽいんだよな。なんで俺を挟んだまま会話したり技出したりするんだろ。パチ屋で両隣に大学生が来た時と同じ気分だわ。


「どう? オレの新技」


「なかなかだな。でもこの前のロースカツチーズ500g2辛イカサラダパンチのほうが美味かった」


 基準、おいしいかどうかなんだ。じゃあさっきのもエディブルフラワーだったのか。


「そっかぁ」


「そういえば俺さ、彼女できたんだよ」


「マジぃ!? どんな人? ねぇ、どんな人!?」


 彼女も幽霊なのかな。んでめっちゃ食いつくなこの人。


「聞いて驚くなよ。外国人なんだ」


「すげー!」


 外国人の幽霊も日本にいるんだ。生前日本に住んでたのかな?


「パツキンのボンキュッボンのナショメッポなんだ」


「たまんねーな!」


 ボンキュッボンの幽霊って見たことないかも。でも確かに巨乳の人も死ぬんだし、ボンキュッボンの幽霊がいるのは当たり前か。死ぬとお乳萎むとか聞いたことないもんな。ナショメッポってなに?


「ギミシベ、こいつバーバキーのチョチョマン?」


「スパスパスきっちンコ、ヌロヌロのチョチョマン」


 なんだ? 言葉が分からなくなってきたぞ? とりあえずエロ系の会話ってことは分かるんだが⋯⋯


「ニチチサンチチ、そろそろニダ?」


「ニケツサンケツ、ニシムクサムライ?」


 2人はそう言いながら俺を交互にビンタした。


「なにすんの!?」


「ニュルニュル」


「ツルツル」


 やはり言葉が通じない。


 いやちょっと待てよ? なんでこいつら俺のこと触れるんだ? さっき花すり抜けたよな?


「ニョフフ、ニョフフ」


「ジョセフ、ジョセフ」


 なんか喜んでるし!


 え、ちょっと待って!? 俺の服が消え始めてる!?


「おい! なんなんだよこれ!」


「オクトパス」


「イカ」


 話になんねぇ! 帰る!


「チョマテヨ」


「イカ!」


 2人に腕を掴まれた。やっぱり触れるんだ!


「ナカーマナカーマ」


「ジョイナスジョイナス」


 俺を仲間にしようとしてるのか!? もしかして、2人で俺を挟んでたのはオセロ的なことで、俺は徐々に霊に近づいているのか?


 ヤバい、服がほぼ消えている。このままでは全裸になってしまう。⋯⋯なんで?


「2人とも腕を離してくれ。これじゃ乳とチンを隠せん」


「ナカマ⋯⋯」


「ナレ⋯⋯」


「それはさっき聞いたから! 腕離せっつってんの! 変質者になっちゃうから!」


「ジョイナス⋯⋯」


「チューリップボタン!」


 今!?


 もががががが! 口に花が!


「キンジョメイワク、ナル!」


「ダカラ、ダマレ!」


 そういうこと。


 あ、完全に全裸に⋯⋯あれ? よく見たらうっすら白い布が⋯⋯ってこれ、こいつらと同じ装束じゃん! 本当に幽霊になっちゃう! あとなんで1回全裸経由したんだよ!


「⋯⋯少し歩こうか」


 ボンキュッボンのパツキン彼女を手に入れたほうの霊が言った。普通に喋れるのかよ。


「汝を最果てへと(いざな)わん」


 分かった、こいつら雰囲気で喋ってるんだ。


 ていうか、最果てに連れていかれるの? 今から東京ドーム14.6個分をこの墓に合わせて縦に伸ばした距離を歩かされるの? 最果てに何があるって言うんだよ。


「おフィー! そろそろ次いいかー?」


 バカでかいケンジの声が聞こえる。こういう時は返事をしないとぶん殴られるが⋯⋯


「耳を貸すな」


「そうだ、お前は既にこちら側の存在」


 そうかな。まだ結構服透けてるけどな⋯⋯


「おフィー! あと3秒以内に返事しなかったらそっち行ってアップルパイみたいにするからな!」


「耳を貸すな」


「もしどうしても貸したいなら契約書を作ってからにしろ」


「でもアップルパイみたいにされたくないんだけど」


「アップルパイみたいにします!」


 ケンジの大声が聞こえて、足音が始まった。やばい、アップルパイみたいにされる。


「終わりだ⋯⋯」


「我々が人間に負けるとでも?」


「オレにはチューリップボタンがある」


 新技気に入ってるみたいだけど、おいしくなかったんだよな。


「アップルパイみたいにします!」


 もう来た!


「くらえ! ダブルチューリップボタン!」


 2人で新技を!? ボンキュッボンのパツキン彼女がいるほうの奴はさっき初めて見たはずなのに!?


「ペッ! アップルパイみたいにします!」


 ケンジは一瞬でダブルチューリップボタンを吐き捨てると、2人に襲いかかった。


「アップルパイみたいにしました!」


 2人がアップルパイみたいにされちゃったよ⋯⋯ケンジ、幽霊相手でも普通に闘えるんだな。


「お前もアップルパイみたいにしますよ」


「ちょっと待ってよ! 見たでしょ今の幽霊! こいつらのせいで返事出来なかったの!」


「いや、返事くらいは出来たでしょう」


「ぐぬぬ!」


 正論だから何も言い返せない! くそ! 俺もアップルパイみたいにされて終わるってのか! そんなの嫌に決まってる! 俺は今、半幽霊の存在だ! なにか解決策があるはずだ! 助かる方法が! なにか!


「アップルパイみたいにしました!」

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