【証拠はいらない】主人公の友達事情
相棒が言った。
「今日は、友達とお茶してきた」
「よかったな」
それだけ返す。
「あなたは?」
「友達と、どこか行ったりしないの?」
少しだけ、間が空く。
それから、俺は言った。
「お前と一緒になる前は、してたさ」
「今は?」
「今は、ない」
相棒が首を傾げる。
「なんで?」
俺は、少し考えてから答えた。
「情報処理が追いつかなくなる」
「情報処理?」
「人の話」
「気分」
「期待」
「言葉にしなかった感情」
指で机を軽く叩く。
「全部、入ってくる」
相棒は、黙って聞いている。
「人が好きだから」
「昔はよく、誰かと一緒にいた」
相棒は意外そうに目を瞬かせる。
「へえ」
「でも」
「やめた」
「どうして?」
俺は、窓の外を見る。
「消耗が、激しかった」
「消耗?」
「話を聞いて」
「気持ちを受け取って」
「それを、全部持ち帰る」
相棒は黙っている。
「人数が増えるほど」
「処理が追いつかなくなる」
「疲れる?」
「そうだな。疲れると、人間はどうする?」
相棒は少し考える。
「適当になる?」
「そう。適当に人と接するようになる。
でも、それは俺が一番やりたくないこと」
「だから、全部ちゃんと受け取ろうとした」
少し間を置いて、続ける。
「しばらくはそれでよかった」
「でも無理は続かない。徐々に友達とは疎遠になった」
「お前と出会って、友達とはほぼ会わなくなった」
相棒が、首を傾げた。
「どういうこと?」
「一人の人を大切にするには」
「時間も」
「手間も」
「ひたすら、注ぐ必要がある」
「他にも人がいれば」
「注げる量は、減る」
「結果」
「一人を、ちゃんと大切にできなくなる」
静かだった。
「だから」
俺は、淡々と言う。
「距離を置いた」
「人を減らしたんじゃない」
「大切にする形を、選び直しただけだ」
相棒は、しばらく何も言わなかった。
「……寂しくない?」
「寂しくない、とは言わない」
「でも」
窓の外を見る。
「これ以上」
「中途半端に、誰かを大切にするほうが」
「嫌だった」
相棒は、ふっと笑った。
「不器用ね」
「そうかもな」
「でも」
少しだけ、声が柔らぐ。
「後悔はしてない」
相棒は、それ以上、聞かなかった。
静けさ。
人が嫌いになったわけじゃない。
一人を大切にするために、
それ以外を、そっと手放しただけだ。
それが分かっているなら――
もう、証拠はいらない。




