第21話 ネズミの天敵
山口さんに案内され、資料室の扉を開けた瞬間、思わず足を止めた。
これは……関連資料を探せる環境じゃない。
書類が床から棚まで並び、俺の身長を優に超える高さで積み上げられている。一枚でも抜こうものなら倒れてきそうだった。足の踏み場もないじゃないか。
「すみません……散らかってて」
「……うん。まあ、そういうときもあるよ」
彼が離れていったので、俺の足の甲に両手を乗せていたソラと顔を合わせた。
「これはひどいな……」
「探し物するときどうするんだろうね」
組合員総出で資料をバサバサと見返す情景が見えるな。
足元で行儀よく座るにゃんこに再び目をやる。ここに積まれた書類は猫より高さがある。崩れた紙に埋もれて潰れでもしたら大変だ。
ソラには肩に乗ってもらい、図書館で使ったときと同じ魔法をかける。
該当したのは二件だけだった。
ペラペラとめくりながら、軽く中身を確認する。
十年前に研究所で起きた爆発事故の記録と、二年前の火災の調査――まさにこれだ。
こんなにも雑に置いてあったから心配したが、調査報告書はきちんと作られていた。
この部屋は落ち着いて読むどころか、座る場所すらない。無理に読み込んで、紙の束が崩れられたらたまったもんじゃないし、ここはひとまず退散しよう。
服の内側に、写した資料を隠した。腹部に違和感があるし、腰が曲げにくい。
部屋を出た瞬間、扉を閉めたときの風圧のせいで、紙がバサバサと崩れる音がした――。
「あれ? もういいんですか?」
「ああ。案外すぐ見つかって」
お世辞かと思ったら本当に暇みたいで、山口さんは箒で床を掃いているところだった。
向かい合って座り、お茶をいただくことに。
よかった。さすがに湯呑みは綺麗だ。
緑茶のさっぱりとした爽やかな味わいが口の中に広がる。
「ここって、建て直しの要請はしないの?」
「あー、ここですね。前から言ってるんですけど、なかなかやってくれなくて」
げんなりした表情だった。
たぶん、山口さんは勤めたときからずっと思っていたはずだ。なんだここは、と。
魔導士協同組合の建物は町ではなく国の管轄になるため、ケチだから申請が下りにくい。
ミカヅチ本部の屋根が台風の影響で壊れたときも、雨漏りしていないからという理由で修理してくれなかった。そのときは俺が修繕の魔法をかけ、屋根をしっかり補強して事なきを得た。
「上からネズミが落ちてきたときは、もうどうしようかと……」
「ぼくの出番かな?」
膝の上で背筋を伸ばすソラが、誇らしげに胸を張る。
頼もしい……けど。
「探してくれるの!? ぜひ……」
「いや、やめてくれ」




