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魔導士は白猫を飼っている  作者: 汐田 伊織
4章 調査開始

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第20話 白い街の異物


駅に備えつけられていた公衆電話を使い、ワタツミ支部に繋ぐ。



『――はい、魔導士協同組合ワタツミ支部です』



あれ、聞き覚えのある声だ。



「あ、もしかして山口さん? お久しぶりです。利他です。ちょっと今からそっち行ってもいいかな?」



電話相手は、巨大うなぎ事件のときに、一緒に海水を浴びた山口さんだった。



『利他さん、お久しぶりです! 今からですね? 全然大丈夫ですよ。お待ちしていますね! 』



彼が快く了承してくれたので、さっそく切符を買い、はやる気持ちで汽車に乗り込んだ。




***




ワタツミ駅は、海のすぐ近くにある。

そのせいか……駅舎は潮風のせいで、白壁がくすんで灰色に変わり、鉄の柵には赤茶色の錆が目立っていた。

今日は風の影響で波が高い。堤防に立つと、細かい飛沫が飛んでくる。


駅から徒歩三十分ほどの中心地にワタツミ支部があるらしい。

行ったことはないが、山口さんに「特徴的な建物だから見ればすぐわかる」と言われ、その情報を頼りにソラを抱えながら気持ち早足で向かう。





電話で聞いた辺りに着くと、ぎょっとして思わず顔を引きつらせてしまった。


なんだこれ……?



白い街並みの中に、墨を垂らしたように黒ずんだ建物がぽつんと佇んでいた。


元々白かったであろう外壁は色あせ、窓枠や扉の金具は錆びついて赤茶けている。壁の一部は剥がれ、窓ガラスにはヒビが入っていた。


ボロいなんて生易しい。まるで廃墟を放置し続けたような建物だった。

“特徴的”で片付けられるもんじゃないな、これ。


うなぎ騒動の際、お嬢ちゃんをこんなお化け屋敷みたいなところに泊めてしまったのか……。

あのときは、ほかに手段がなかったとはいえ、気の毒すぎる。


どうしてもっと気を配れなかったんだ、と申し訳ない気持ちになった。



扉の取っ手を回して押し込むと、蝶番が錆びているせいで、甲高い悲鳴をあげた。

まるで楽器の弦を全力で引っ掻いたような音が、鼓膜を容赦なく攻撃してくる。


腕の中にいるソラも、不愉快そうに顔をしかめている。



中に入ると、元気いっぱいの象徴のような山口さんが熱烈歓迎してくれた。



「利他さん! ようこそワタツミ支部へ。あ、今日は着物じゃないんですね」


「たまにはね」



それにしても……中もひどい有様だ。


天井の石油ランプはボロボロで、さっき寄った喫茶店並みに暗い。喫茶店『ときつ』と異なる箇所は、空気感が最悪なところだろうか。

床に張られた木の板は抜けそうなほど古くなり、黒みがかっている。ちょっと歩くだけでかなり神経を使う。


この街の建物は、すべて白い壁に青い屋根と統一されて美しいのに、ここだけ時代に取り残されていた。


背景とキラキラ若人の山口さんの組み合わせが合致しないせいで、廃墟に山口さんを合成したみたいな違和感がある。

失礼な思考は口に出さずに、ぐっと飲み込んでおいた。



「急で申し訳なかったね。ちょっと見たい書類があって」


「今日は暇してたんで、どれだけでも見ていってください!」



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