第18話 新聞の切り抜き
事故があった日は、十年前の十一月二日。
お嬢ちゃんは五歳……大体この年齢から、魔力が発現するらしい。
それに合わせて魔力の移植をしたのかもな。彼女が使わない内に。
この件についてその後の記事はない。
魔力移植実験……魔力の暴走。お嬢ちゃんは元気にしているし、実験は成功しているように見える。
それとも、移植する方の人間は必ず魔力が枯渇してしまうのか?
もしそうなら、成功の裏に誰かの死があるということだ。そんなの、冗談じゃない。
うーん、と首を傾げる。
魔導士にとって、魔力の枯渇は死を意味する。
俺は二度、魔力欠乏症になったことがある。
頭が割れそうに痛くて、全身が鉛のように重くなる、あの最悪の状態だ。
あれよりさらにひどい、命を落とすような苦しみ――それが枯渇というやつなんだろう。
子どもが『二十歳まで生きられる』という魔術から解放されるために、魔力を移植した香代さんが気の毒でならない。
……あのとき、香代さんはどんな気持ちだったんだろう。
想像すると、胸の奥が沈んでいく。息をするのも億劫なほど、重たい。
――他人の痛みを抱えるのは、今はやめておこう。
ちらと横目で見たソラは、もらったお菓子をおいしそうに食べている。試しに一かけら食べてみたら、ほんのりと牛乳の風味がするだけで、甘味はほぼなかった。
先ほどの記事は印をつけておき、ほかに関連性がありそうなものを探す。
ふと目に止まったのはだいぶ古い日付だった。
今から八十二年前、八意魔術高等学校の設立を記念した内容で、当時の校長が記者からの質問に答えている。学校の名前の由来についての文章がつづられていた。
『「八意というのは、八意思兼神という学業の神の名前を拝借いたしました」
「魔法学校ではなく、魔術学校というのはなぜですか?」
「魔法が存在する前、魔術という力がありました。魔術が進化したことにより魔法が生まれたわけです。初心を忘れることのないように、八意魔術高等学校としました」
と語っている。』
『魔術が進化して魔法が生まれた』……?
魔術について、かなり詳しい。
ってことは――
「この人、『二十歳まで』の魔術知ってるんじゃないか?」
初代校長の名は鳳文和と書いてある。
鳳……鳳……たしか、どこかで……そうだ、理事長の名字だ!
「鳳文和ってまさか、現理事長の曽祖父?」
だめだ!
聞きに行ったらまずい!
自宅に魔術の資料か何かありそうだが、断念せざるを得ない。
春日井先生に秘密裏に調査すると言った手前、関係者に堂々と聞きに行くのは、さすがによろしくない。
お菓子をぽりぽり食べるソラが口を開く。
「……侵入しちゃう感じ?」
「侵入しちゃわない感じ」




