第16話 喫茶店のプディング
「どこか近くの店にでも入ろうか」
「うーん。離れた方がいいんじゃない? もっと人が少なそうなとこ行こうよ」
そうだよな。ここは町の中心地。誰が見ているかわからない。
たしか……ここからほど近い場所に、シナツ支部があった覚えがある。
同期も何人かそこで働いているはずだから、格好を変えているとはいえ、さすがに顔を合わせたら見つかってしまう。そんな事態になったらめんどうだ。
図書館から離れた郊外を散策していると、建物の一角に喫茶店らしきものを見つけた。
灰色の外壁に、古びた木製の扉。その脇には『時つ』と書かれた小さな看板が掛けられている。
珈琲の香ばしい香りに誘われ、周囲にそれらしい影がないことを確認してから、そっと扉に手をかけた。
店内はどこか懐かしい空気感に包まれていて、ほっとする温かみがある。深みのある茶色の壁が、静かな郷愁を呼び起こす。
画風の似た数枚の絵が、穏やかな雰囲気を引き立てていた。窓際には小さな机と椅子が配置されており、一人でゆったりと過ごすことができそうな場所が設けられている。
ほの暗い店内だったが、机の真上には石油ランプが吊るされているため、集めた資料も読めそうだ。
どこか懐かしいこの雰囲気……こういうの、たまらない。
木の匂い、古いランプ、落ち着いた空気。こういう場所でのんびり本を読んだりするのが、一番好きだ。
思わず口元がほころびそうになる。
ほかのお客さんに迷惑がかかりそうなので、きょろきょろと店内を見渡すのはやめておいた。
席について早速お品書きを開く。
珈琲だけにしようか……えっ!?
この店、プディング置いてある。※
高級洋食屋でしか提供していないらしいのに。
せっかくだからそれも頼み、持っていた資料を机に広げる。
「それにしても、先生のことばっかりだな」
「まあ、一番有名な学者だからね」
ペラペラと、中身を飛ばして見出しで簡単な内容を読む。
これだけ話題に出ているのに、顔が写ったものが一つもない。少し文を読むと、霜月先生は写真に撮られるのが苦手だと新聞社の間で有名らしく、今回も撮らせてもらえなかった……みたいな内容が書かれていた。
先生の顔を、魔法獣のルネに見てもらいたかったけど……残念。
大きな見出しのものを探すと『一般高校生が新たな魔法を発見!?』とか『二十歳の若き学者、魔法大臣賞二度目の受賞』とか。
……いや、本当にすごい人だったんだな。今さらだけど。
あの温和な先生が、受賞歴バリバリの学者って。
霜月先生は魔法を使えないから、その存在が異質だと思う人間もいるようで、悪口に近い記事もある。
ただの嫉妬だろう、くだらない。
※「プディング」が「プリン」と呼ばれるようになるのは、明治後期〜大正時代らしいです。




