第13話 空気の読める娘さん
報酬についての話し合いになりかけたが、勝手に割り込んだだけなので断っておいた。
渡辺さんが困った顔で「それはちょっと……」と、止めてくる。
俺への依頼じゃないから気にしなくていいのに。
ふと、渡辺さんの後ろを歩く友人の姿が目に入った。
「じゃあ……原岡に、帰りの切符代請求したいです」
「ふっ……よし、わかった。原岡くん、頼んだよ」
「ええっ!? とばっちりじゃないっすか!」
財布をポケットから取り出し、しぶしぶといった感じで金を差し出してくる。
「ありがとう。これで、学生時代に貸した金額全部帰ってきたわ」
人の金でこっそり買っていた春画はまだ家にあるのか?と聞きたくなったが、責任者の手前だからやめておこう。
「うおぉ……忘れてた。悪い」
ミカヅチ北方支部の面々に別れを告げ、足早に駅に向かった。少年が抱いていた子猫を見たら、早くソラに会いたくなってしまった。
***
「ただいま」
「おかえりー」
玄関の先にいつも通り愛猫が座っている。脇から持ち上げ、ふわふわのお腹に顔を埋めた。
その感触に癒されていると――ソラの背後に、人の気配。
ぎょっとして目を向けると、白い毛の向こうに、お嬢ちゃんが静かに立っていた――
「今日は帰ってくるの早かったですね」
現在、台所にてお嬢ちゃんと向かい合い、抹茶とよもぎ饅頭でお茶会をしている。ほろ苦いよもぎが香るもちもち食感の生地と、やわらかい餡との相性が絶妙な一品だ。
和菓子は基本、とうさまの店のものしか買わない。うまいから。
お嬢ちゃんは、さっきの愚行は見ていませんという顔で抹茶をすすっていた。
……うん。空気の読めるすばらしい娘さんだ。
「たいした用事じゃなかったからね」
抹茶を一口飲む。
自分の発言に、嘘をつけと頭の中の自分を平手で叩いた。
だけど、どうしても疑いが晴れない。
……魔術。
それが意味するものが、まだ頭の中で形にならない。わかっているのは、今までの常識が少しずつ崩れているということだけ。
はー……どうしたものかね。
人の悩みをよそに、おいしそうによもぎ饅頭を頬張るお嬢ちゃんを見てほっこりした。
笑顔がかわいらしい子だ。那智が一目惚れするのもわかる気がする。
友人たちと会ったのが先週か……あと数日すれば四月になるな。
「あ、そういえば。学校の制服届いた?」
「はい。試着もしてみました。もうすぐ学校ですね……緊張します」
「誰しも通る道だからね」
お嬢ちゃんが学校に通い始めたら、こちらも動きやすくなる。本格的に、二年前に起きた火災の調査開始だ。
俺の膝にどっかりと座っているおソラ様は、前足をちょんと机に乗せ、饅頭をじっと見つめている。その小さな肩を指先で揉みほぐす。
「凝ってますねえ」と指を動かしながら言うと「猫背が酷くて」と、ソラは満足そうに鼻を鳴らした。




