第12話 流舞の魔導士
数分後、原岡が子猫を腕に抱いた少年を連れて降りてきた。ついでに、鉄塔の中から少年を探していたという三人の魔導士も。
無事だったか……よかった。
腕の中の子猫を撫でるように抱えているあの姿、なんだか胸にくるものがある。
猫好きみたいだな……さすがだ、少年。
野次馬の先頭にいた、親だと思われる二人が走ってきて、子どもと子猫を抱きしめる。
まるでその三人を包み込むように、太陽が優しく照らし出す。
群衆は緊張から解き放たれた反動で、歓声と拍手を惜しみなく贈っていた。
さて、なんとかなったし帰るか。
そう思って振り返った瞬間――目の前に誰かが立っていた。
「わっ……!」
思わず飛び上がる。
びっくりしたー……距離近すぎるって。
まるで朝霧に濡れた砂のような、灰色に淡く光る薄茶色の髪。それと、那智より痩せ気味の体型。
眼光が鋭いが、穏やかな性格の持ち主らしく、女性に人気と噂の、北方支部責任者の渡辺さんだった。
……既婚者らしいけど。
“ミカヅチ三人衆”と呼ばれる本部、北方、南方支部の責任者が組んで解決しなかった事件はないという。
三人とも四十代で歳が近いから、馬が合うのかもな……なんて余計なことを考えていたら、鋭い目を向けてきた。
「利他くん、協力に感謝する」
声が渋い。かっこいい。
「いえ……自分も、何が起きたか……わかっていませんので」
壊してしまった結界はどうするのかと尋ねると、おそらく術をかけ直すことはしないだろうとのこと。今回の件と似たようなことがあれば、対処するのに時間がかかる。それを危惧してのことだろう。
「そういえば、きみと会うのは汽車乗っ取り事件以来だね」
「ああ、そうでしたね。たしか――」
俺が本部に所属していた年の夏。
ミカヅチ駅で、汽車乗っ取り事件が起きた。
俺が那智と陽菜と三人で組んでいた頃で、あのときは支部の優秀な人材が総動員された。まあ俺は、二人のおまけだったけどさ。
大勢の魔導士が戦っている中、責任者の魔法は今でも思い出せるくらい、威力が絶大だった。
そのときの渡辺さんの動きは鮮明に覚えている。
水を操っての攻撃は優雅で美しく、舞でも見ているかのようで感動した。
“流舞の魔導士”の二つ名を持つにふさわしい人だ。
「戦闘中、渡辺さんのことがっつり見ていたら、微笑んでくれましたね。余裕のある人は違うなと思いましたよ」
「……なんでそんないらないことを覚えているんだ」
そう言いながらも、渡辺さんの口元はわずかにほころんでいた。
さすが、余裕のある男は違うな。




