第8話 何の生き物?
ゆっくり起き上がりながら、長いため息を吐いた。頭痛が治まるまで、校長室にある大きな窓からぼけっと空を眺めてみる。
こんなとき、ソラがいてくれたら……肉球を揉んで暇つぶしできたのに。
あの子がそばにいるときの気楽さが、少し恋しくなった。
そのまま何分か経った頃、校長室の扉が開き、春日井先生が買い物袋を持って入ってきた。
「ユウナくん、もう起きたのか」
「ええ、今しがた。魔力の回復、先生がしてくれたんですよね? ありがとうございます」
「久しぶりだったから自信なかったけど、無事でよかったよ」
光属性魔導士の先生は安堵の表情を浮かべながら買い物袋を机に置き、中身を出している。
学校の近くにある、昔からある定食屋の弁当だった。
あのおばあちゃん、まだやってたのか。
通学中に買ったのり弁の味が懐かしい。
ごはんに挟まった、かつお節と白ごまの風味が妙に好きだったんだよな。
先生はそれを二つ机に並べ「食べられそうなら」と、一つをこちらに渡してくれた。
「それにしても……魔法獣ではなく、本物の神を拝めるとはね。いやあ、長生きしてみるもんだね」
「え、いや。ルネは八意思兼神を参考に召喚しただけですって。俺の魔力で作った存在だし、神様みたいな権限も持ってないはずです」
体のすべてが俺の魔法によって構成されているのだから、本物の神様にはなり得ない。想像上での神にはなったかもしれないが。
あとは自分で生み出したからか、すごくかわいいとは思った。
飲み水を渡してくれていた途中で手の動きが止まる。先生の顔を見ると呆気にとられ、何も言い出せなくなっている。
「……魔法獣は、術者ができないような技術を身につけた状態で顕現するのは絶対にありえないよ」
「そう言われましても……自宅にいる妖精の魔法獣だって、自分の知らない庭の手入れの仕方知っていましたけど」
あとは、日中に呼ぼうと思っても来てくれなかったりするだけで。
急に先生の表情が引き締まった。先ほどまでの穏やかな顔とは別人のようだ。
しばらく言葉を探すように視線を落としたあと「いいかい?」と、声色がわずかに低くなった。教師としてではなく、何か重大な秘密を抱える大人の顔だ。
「魔法獣は、術者の魔力を使って、術者と同じ魔法を発動するだけの存在なんだ。それ以上のことは、基本的にできない。せいぜい『避けろ』とか簡単な指示を聞く程度で。それなのに、ルネくんが人の記憶を覗けるのも、きみの家にいる妖精が庭の手入れを知っていたのも……普通じゃないんだよ」




