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魔導士は白猫を飼っている  作者: 汐田 伊織
1章 二年前

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5/202

第5話 初めての空中散歩


「よかったねー。仕事もらえて」



着物の中からソラの明るい声が響く。

きみはぬくぬく快適かもしれないが、こっちは腹部以外すべてが極寒地帯なんだぞ。


冷たい向かい風の影響を受け、凍えるのを通り越して骨が痛い。



「でも、何もこんな夜中じゃなくていいのに」



まったく。人が気持ちよく寝ていたというのに……。こんな寒空の下に飛び出す羽目になるとは。


いくら個人営業の魔導士で、仕事が全然もらえず、細々とした生活を送っていたとはいえ……睡眠不足になるのはよろしくない。



宙に浮いている足先を見下ろすと、景色がものすごい速さで後ろに流れていく。今まで空飛んだことなかったけど、高所恐怖症じゃなくてよかった。


真っ黒な山影の合間に、小さな灯がぽつぽつと灯っていた。人の営みがこんな夜中にも続いているのだと思うと、不思議な気分になる。



「まあ、いいじゃない。組合抜けてから暇してたんだし、たまにこういうのも悪くないよ」



――魔導士協同組合……通称“組合”。


いわば“魔導士の便利屋集団”で、通行人に挨拶するだけの仕事から、組織壊滅みたいな大事まで引き受ける。

ただ、やることが多すぎて、月に一人は発狂するくらい忙しい。


俺も以前はそこに所属していたけど……まあ、いろいろあって辞めた。


肩書きを捨てた代償は大きくて、営業しても今じゃ門前払いが当たり前。依頼なんて、村の人のお情け案件以外こない。


組合を抜けてから数ヶ月。

ソラの言う通り、たしかに暇だった。貯金が底をつきかけるほどには仕事がなくて。



「たまになら、ね。まあ、いいけど……深夜料金でも上乗せしてやろうかな」


「じゃあ、今日はちゃんと朝ごはん食べてね。昨日、くず野菜しか食べてなかったでしょ?」



ほとんどソラのごはんに費やしていることを気に病んでいるのか?

気にしなくていいのに……かわいいやつめ。



「そうだね。ソラのもちょっと豪勢にしようか」



着ている外套に隠れて見えないが、大層お喜びなようで「やったー」と、機嫌のよさそうな返事がきた。



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