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魔導士は白猫を飼っている  作者: 汐田 伊織
第7章 自意識

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第22話 恋の自覚


鳳家を後にして汽車に揺られながら、ソラの背中を撫で、ぼんやりと窓の外を眺めていた。流れていく景色が、まるで考えを連れ去っていくみたいだった。



「ねえ、ソラ」


「んー?」



「新しい魔法って、なんだと思う?」


「さあねえ……なんだろうね……」



二人そろって首を傾けてみたものの、名案が浮かぶはずもなく、やがて言葉は途切れた。



「なんかさ。ユウナが誰かのために、ここまで動くのって初めてじゃない?」


「え? ……ああ、そうかもしれない」



言われてみて初めて気づく。


彼女が苦しむ姿を想像すると、心のひだに棘が触れるような、静かな痛みが走る。誰かの悲しみを、こんなにも自分のことのように感じたのは、初めてだった。


助けたい――その想いだけは、曖昧にならず、はっきりと胸に残っている。



……これが、恋愛感情というものなのだろうか。もしそうなら、なんて厄介で、そして素晴らしい感情だ。



車窓に映った自分の顔は、少しだけやわらいで見えた。初めて抱く気持ちなのに、不思議と確信があった。


この想いは、きっと嘘じゃない。




***




家に着き、部屋着に着替え、布団に倒れ込む。


どっと体にのしかかる疲れ。肩がじんわり重い。



――学生はもうすぐ夏休みになる。

ルネにはできるだけ説得を急いでもらって、イフリートという上位精霊を連れてきてもらおう。


契約しなくても、あと数年は呪いの作用を受けないけれど、気が気じゃない。



「……はあ」



深いため息をついた直後、腹の上にふわりとした重みがのしかかる。ソラが気だるげに座り込んできたのだ。



「おい、重いって」



不満げに顔をしかめると、ソラは丸い目を細め、口の端をにやりと上げたように見えた。


これは、何かを企んでいるときの顔だ。



「まだあわてるような時間じゃない」


「……なんか、どっかで聞いたことある台詞だ」



きっと、焦らず落ち着けって意味なんだろう。


そう言われると、少しだけ肩の力が抜けた。


今できることをやるしかない。



襖の隙間から見える広縁ひろえん

夏の熱気に、庭の景色が陽炎のように揺れている。飛び石の周囲に敷かれた白砕石はくさいせきは、日差しを浴びてまぶしいほどに輝いていた。

もわっとした熱気が肌にまとわりつく。


あの上に卵を落とせば、目玉焼きくらいなら作れそうだ。



遠慮がちにあくびをし、寝転がりながら伸びをする。それでもソラはしぶとく座っていた。


ずっと横になっていたら、買い物に行きたくなくなるな。



「今日は魚料理でもしようか」


「太刀魚!」



ソラは勢いよく飛び起き、瞳をきらきらさせた。さっきまでぐうたら具合はどこへやら。



「おまえ、元気じゃん……」



苦笑しながら立ち上がる。


――まあ、俺も少し元気出たかもな。



ご要望の太刀魚を買うため、銀三じいさまの魚屋に向かうことにした。



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