第21話 宿題の追加
それにしても、ルネは本当にすごい。上位精霊を説得しに行けるってことは、同等あるいはそれ以上の位のはず。
俺はふと気になって口を開いた。
「ルネの真名というか、精霊としての本当の名前は? そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?」
……もしかして、“精霊王ルネリウス・なんちゃら三世”とか?
いや、こんな変な名前だったら嫌だな。
ルネはふいっと首をひねった。
「当ててみてって言ったでしょ」
いいじゃないか、減るものでもあるまいし。
……減るのか?
脳内の反論は、当然ながら無視された。
とりあえず、魔術の解除は先になったが、まだ延命できる可能性が出てきたのでこの話は一旦置いておこう。
……あの子に精霊の話をするべきだろうか?
契約そのものより、知らない存在と向き合うことの方が、きっとずっと怖い。
無理に話して怯えさせ、契約が成立しなかったら?
それだけは避けなければ。
でも、できるだけ早く伝えたい。とにかく、時期を見て話そう。
焦ってしくじったら元も子もない。
お嬢ちゃんがちゃんと受け入れられるように、今のうちから伝え方を考えておかないとな。
「彼女に違和感なく契約させるにはどうしたらいいか……」
「魔法獣の召喚を、夏休みの宿題として追加しましょうか? これなら、優香さんも抵抗なく召喚してくれるでしょう」
「いいんですか? 魔法獣の召喚はたしか、二年生になってからでしたよね」
「ええ。ですが危険なものでもありませんし、今回は急を要しますから。優香さんがその宿題をする前に、精霊を説得する必要がありますがね……」
ルネが『がんばる』と頷き、さっそく精霊界に帰っていった。
さすが高校の理事長。
これなら問題なく、自然に精霊を呼び出すことができる。
精霊を召喚するときは、魔法獣を呼ぶ流れと同じだそうだから。
明日にでも春日井先生に連絡すると言ってくれた。
学生のみんな、宿題増やしてごめん。
でも、どうか許してくれ。
沈んでいたものが、静かに浮かび上がってくるようだった。
今日、無駄足にならなくてよかった。お嬢ちゃんが助かる可能性があるなら、どんな手でも尽くそう。
強く握っていた拳がじんわりと汗ばんでいた。
協力してくれた鳳さんに深く頭を下げ、感謝の意を伝える。
「ご協力いただきありがとうございます」
「すべてがうまく進んでいくことを願っています」
鳳さんの静かな微笑みが、背中をそっと押してくれるようだった。
「……がんばります」
その言葉が、自分でも驚くほど力強く響いた。まるで、俺自身に言い聞かせるように。




