第16話 二つの魔術
手のひらを上に向ける。
魔力を込めると、眼鏡のフレームが組み上がり、パキパキと音を立ててレンズが形成された。
視力はいいから、度数は入れていない。
さて、始めようか。
「解読せよ」
眼鏡から、どこか軋んだような、金属が擦れるような音が響いた。瞬きを数回繰り返すと、文字がぐにゃりと変化し、いつも自分が使っている文字の形に変貌する。
巻物本体は変化してないよな?
そうなっていたら泣く。
眼鏡をずらして見たら大丈夫だった。
貴重な資料を、部外者が手に持って読むのもあれか。
指先を上に向けると、白い糸が手を覆うように縫われていき、それは綿の手袋へと変わった。
これでよし……では、読みますか。
顔を動かすと、きらきらした目の鳳さんが視界に入った気がした。
……いや、気のせいだろう。まるで、子どもが新しいおもちゃを見つけたみたいな顔をしていたけど。
巻物をゆっくり転がして中身を確認する。
ソラも横から巻物を覗くが、たぶん読めていない。
文書の中には、術式の構成、魔術の効果、そして――代償。過剰使用で命を落とす例まで、淡々と記されていた。
まるで、日常茶飯事みたいに。
……あれ?
金の炎について書かれていない。
金の炎……あれは『二十歳まで』の魔術とは違うのか?
もしかしてお嬢ちゃんは、二つの魔術を引き継いでいる?
いや――今は炎のことは置いておこう。あとで調べたらわかることだ。
巻物の中で気になったところは、この家系図。最後の名前――そこには、新しい墨ではっきりと『霜月優香』と書かれていた。
あの子の名が、こんな場所に……。
一瞬、心臓が跳ねた。
視線が、そこに釘づけになる。まるで、現実と過去が、一本の線で結ばれたようだった。
お嬢ちゃんをはじめ、霜月香代さんやその家族の何人かは、名前が丸く囲まれていた。
霜月先生と息子の弘清さんには、何も印がない。しかし、性別は関係なさそうだ。
それと引っかかるのは、名前の下の括弧に囲まれた数字。
……二十。二十五。
最初は生年かと思った。けど、違う。
これは死亡した年齢だ。
「この丸で囲まれた人は、なんですか?」
「魔術を引き継いでしまった方々の名前です」
この図の不思議なところは、兄弟姉妹は結構多いのに対し、未婚率が高いところだ。
魔術を引き継いだ未婚者は、性別問わず二十歳で絶命している。
けど、結婚した女性はもっと長生きしている。二十九歳、三十五歳……。
……違う。何かが、決定的に。
その違いが、お嬢ちゃんの生死を分けるのだとしたら――俺は、絶対に見落とせない。




