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魔導士は白猫を飼っている  作者: 汐田 伊織
第7章 自意識

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第12話 謎の黒い犬


店に向かう途中、影で休む黒い犬を見かけて思わず足を止めた。


めずらしい。迷子か?



近づいても大人しく、鼻先に指を持っていってもとくに警戒されなかったから、頭を撫で回した。


あー、かわいいな。

耳が分厚くてぴろぴろしてかわいい。


……店番続きで動物不足だったから、余計に沁みるな。早くソラに会いたい。



「……すみません、お兄さん。道を尋ねても?」


「ん、え? あ、きみ魔法獣だったんだ……」



声を聞いて、ようやく気づいた。さっきまで普通の犬だと思っていたけど、そういえば目がやけに賢そうだった。


なんだ、やっぱり魔法獣でも話せるんじゃないか。



それにしても、俺が召喚した魔法獣以外で会話をするものは初めて見た。ソラとは違う系統の精密さを感じる。

まあ、うちにいる妖精たちは精霊だったけども。


この犬を生み出した人間は、すごい技術の持ち主なのかもしれない。ちょっと会ってみたいな。



懐に入っていた紙に、教えてもらった目的地の名前を書き、鶴の形に折る。

それに魔力を込めると、紙の擦れる音がし、パタパタと鶴が羽ばたいた。



「これに案内させるから、すぐに着けると思うよ」



お使いえらいねえ、と両手で顔を包むように撫でまわすと、犬は耳をぴくぴく動かしながら、なんだか気まずそうに黙り込んでしまった。


……あれ、もしかして、こういうの嫌いだったか?




***




そうこうしている間に四時になり、着物市の方は終わりを迎えた。


今日は朝からずっと接客しっぱなしだったけど、その分、売り上げは上々だ。予想以上の成果に、呉服店の二人も満足している。



「優香ちゃん、最後のお客さんの相手ありがとうね」



ほがらかに笑う梅ちゃんに、お嬢ちゃんは肩をすくめた。



「い、いえ。でも、喜んでもらえてよかったです」


「何か買ってくれたの?」


「予約入れてくれたのよ。着物じゃないけどね」



最後に来た男女は、結納のときに着ていく着物を見に来たと言っていた。三人とも接客をしていて対応できなかったが、その間にお嬢ちゃんが話し相手をしてくれたらしい。



「両親への贈り物に悩んでいるって言っていたので、『つまみ細工の花束で作った、この看板と同じものを贈ったらどうですか?』って言ったんです」


「ああ、なるほどね」



そうしたら大層喜んでくれて、その花束の予約を入れてくれたとのこと。


まあ、作るの俺なんだけど。



「でも、花の細工選びはわたしに任せますって言われちゃいましたね……」



笑ったあと、ふっと視線を落とし、まるで何か決意するような顔になった。

いつものふわふわした空気とは違う、その凛とした横顔に、思わず息を呑んだ。



「花って詳しく知らないんですよね……でも、せっかく任せてもらえたから、勉強しないと」



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