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魔導士は白猫を飼っている  作者: 汐田 伊織
第7章 自意識

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第10話 負けず嫌いのぼやき


ついでに、目の前の南美川なみかわ呉服店を見た。


――不本意だが、仕方ない。


正面の店にいる南美川青年に手招きする。



『なんだろう?』という表情をしながら来た彼に「今、休憩行ける? いや、ほら……一人だと危ないし」と尋ねる。


ああ、くそ。いっそ断ってくれないかな。



「あ……あー……ちょっと聞いてきます」



照れくさそうに自分の持ち場に戻っていった。



若い魔導士の二人を苦々しい気持ちで見送り、買い物の付き添いで来たらしい男性のお客さんの元に向かう。



その人たちが別の店を見に離れると、ねえさまが何やら慌てた様子で耳打ちしてきた。



「ユウナ、つまみ細工、売りきれちゃった」


「え。本当? じゃあ作ってくる」



――うわ、本当にない。小物売り場はすっからかんになっている。


しまった、油断した。

在庫切れなんて起こさせない。南美川呉服店に負けるなんてごめんだ。



慌てて作業台に向かい、魔法を込めた指先が、いつもより早く動く。裏でこっそり新しいものを作って店頭に並べておいた。


ずるい気もするけど、まあ、いいよね。





「そこの、緑目の綺麗なお兄さん! ちょっといいかい?」



ん?

俺のこと?


返事をしながら振り返った。


あれ、この人もどこかで見た顔だ。



物腰やわらかそうな青年はにこにこと笑みを浮かべており、手には封筒を持っていた。

聞くと、先ほど宣伝に使った歌劇の団員だそうで、噂を聞きつけやって来てくれたらしい。


ちなみに彼の配役は子どもの集団の一人。

役名はとくになかった覚えがある。


名もなき彼の顔を覚えてしまうほど歌劇に通っていた自分に、今さらながら感心した。



「わざわざおいでくださり、ありがとうございます」



勝手に曲を借りたり演出をねじまげたことを謝罪すると、両手をぶんぶん振り、「何をおっしゃいますか!」と大きな声で言った。



「お兄さんがここの宣伝に使ってくれたおかげで、うちに問い合わせが殺到して、入場券が三日分も完売したんですよ」


「えっ、そんなに?」



思わず声が裏返った。予想以上の反響に、胸が熱くなる。


「ささやかながら」と渡されたのは、一番いい席の入場券二枚だった。

ほんの一瞬、あの子の笑顔が脳裏をよぎった。


――なんで今、真っ先に。



複雑な心境で、跳ねるように去る団員を見送った。


……こちらが賭けに負けたら、南美川くんにでも渡そうかな。ちょっともやっとするけど。



和装ってこういうとき便利だよな、とか思いながら、封筒を帯の間に差し込んだ。



人の動きも落ち着いてきたので、梅ちゃんとねえさまにも休憩に行ってもらい、一人で店番をした。



あーあ。

あと半日もソラと会えない。


この場に、あの小さな姿が見えないだけで、ぽっかり穴が空いた気分になる。


ソラ、今日も玄関で待っているだろうな。寂しいって顔するから、なるべく早く帰らないと。



顔を両手で覆って、その隙間から大きく息を吐いた。



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