第9話 彼女の接客術
空いている時間は、先ほどの幻覚の作り方や、学校の話を聞いたりしてお嬢ちゃんと暇をつぶしていた。
「利他さんはこちらにおいでですか」
不意に、おっとりした男性の声がした。
振り返ると、最近会った覚えのある老夫婦が。
えーっと……ああ!
どちら様かと思えば――こんなに早く再会できるなんて。
「茶近さん、お久しぶりです。その後、体調などいかがですか?」
「おかげさまで。わたくしどもも娘も元気にしておりますよ」
胸の奥がじんわりと温かくなった。
先月、ミカヅチ本部に行く途中の家で、強盗に捕まっていた茶近夫妻だった。
二人とも素材のいい着物を身に付けている。何か師事でもされているのだろうか。
「まあ、茶近先生。わざわざ来てくださったんですか」と梅ちゃん。
「利他さんが華やかな舞台を演出されているのが見えましてね。少し寄らせていただきました」
「わたしも見たかったなー」とねえさまがぽつり。
それに対して、お嬢ちゃんはすかさず「くまさんが激しく踊っていましたよ」なんて言うもんだから、思わず吹き出しそうになった。
梅ちゃんに、茶近さんとどういう知り合いかと聞くと、茶道の先生だそうでお茶の席で毎回会うそうだ。
夫妻が紬を二枚買ってくれると言うので、梅ちゃんがどんなものにしようか相談に乗っている。
その間、宣伝効果といまだに降らせているひまわりのおかげでさらに人が増え、お嬢ちゃんまで接客する羽目になった。
彼女は、『これで大丈夫なのか?』というふうに時々こっちを気にするように視線を向ける。目が合うと気まずいのか、ぱっと逸らす。
うん……不慣れな感じがかわいいね。
若い子は、お嬢ちゃんがいると話しかけやすいみたいで、振袖を一緒に選んでいる。彼女は最初こそおどおどしていたが、次第にお客さんの好みに合わせて提案をするようになっていた。
「その色、すごく似合うと思います」
その笑顔が、あまりに自然で。まるで、昔から呉服店にいたみたいに馴染んでいて。胸の奥がそわそわと波立っていた。
その若いお客さんが別の店を見に行ってしまい、お嬢ちゃんが再び手持ち無沙汰に。
ちょうど昼だし、先に休憩入ってもらうか。
さて、どうしよう。
一緒に行けたらいいんだけど、今はさすがに抜けられない。
「……お嬢ちゃん、お腹空いてる?」
「えっ。あ、そうですね。うーん……まあまあです」
「この建物の正面玄関を出たら、赤い屋根の家が見えるから、そこに向かって。その家の三軒となりに、安くておいしい喫茶店があるんだ。行ってみたらいいよ」
「ユウナさんは行かないんですか?」
「行きたいのはやまやまなんだけど、今まだお客さんいるんだよね」
ちらりと接客中の二人の方に目を向けた。
……そう言ったものの、本当は一緒に行きたかった。
お嬢ちゃんが「そうですか」と、頷く声は、ちょっとだけ残念そうに聞こえる。
時折そういう……小動物みたいになるのやめてほしい。心臓の鼓動が落ち着かない。




