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魔導士は白猫を飼っている  作者: 汐田 伊織
第7章 自意識

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第3話 絡まる視線の先


そしてのみの市当日の朝。


お嬢ちゃんと一緒に実家に行き、着付けをしてもらう前に化粧をする。紫の顔料を目の際と下瞼に乗せて、目尻には少しだけ光沢剤を。光に当たると、目元がほんのり輝いて見える。

たれ目を強調したかったから、目張りは少し下げ気味にした。


……うん、大人っぽくなりすぎず、よく似合っている。



「緊張しますね……接客したことなくて」



お嬢ちゃんは袖をぎゅっと握りしめ、落ち着かない様子でうつむいた。

賃金の発生する仕事自体初めてすると言っていた。


まあ、霜月先生金持ちだから、手間取りなんてさせなくてもまったく問題なかっただろうし。※



今日の催し物に来るか尋ねたとき、めずらしく悩んだ素振りをしていたのはそのせいだった。いつもなら、即答しているのに。



「大丈夫。着物見に来る人って苛ついたりしていないし。基本優しい人ばかりだよ」


「うーん。じゃあ、どうしようもなくなったらユウナさんの後ろに隠れます」



「なんでさ」



次は髪だ。

ゆるめに片寄せ編み下ろしをする。ひまわり、かすみ草、白や桃色のバラなど、大小様々な髪飾りを、編み込んだ髪の間に挿していく。


うん、今日もいい出来だ。



着飾られるのが楽しいのか、興奮したように頬を赤く染めている。彼女が呉服店のお客さんだとして、自分が店員だったら、これだけ喜んでもらえるとうれしくなる。


一人で満足気に微笑んでいると、鏡を見ていたお嬢ちゃんと目が合った。



「……っ」



しまった。


目を逸らそうとしたが、先に彼女がくすっと笑いかけてきた。



な、なんだよ……。

そんな風に見つめるの、ずるいだろ。


胸の奥が妙に落ち着かなくて、思わず襟をいじる。





お嬢ちゃんを着付けてもらうためにねえさまに渡し、休憩がてらお茶をすする。

隣の部屋でねえさまがいきなり「いやああ! かわいい!」とか大声をあげながら、襖越しに褒めるものだから、お茶を吹き出しかけた。


結婚したのだから、もう少し落ち着いてほしい……と思ってしまうのが義理の弟の本音である。



相方のソラは、抜け毛が商品についたら大変だから今日も留守番だ。

家を出るとき、ソラがふて腐れたようにこちらを見つめていた顔がちらつき、思わず苦笑する。



全員準備ができたところで汽車に乗り、会場に向かった。





蚤の市の着物部門は、多目的施設を貸しきって施設内で行われる。

抽選で引き当てた場所に店を構え、自分の商品を売り込むのだ。


くじ運はいいのか悪いのか、見やすい位置を陣取ったが、人気店の真正面になったらしい。


まあ、いい。

なんとしてでも客の目を引いてみせる。


握りしめた拳に力を込めた。



ミカヅチ駅から徒歩で十分、丸屋根の建物が視界に入った。


それなりの大きさがあり、こういった行事のほかにも講演会や演劇などに使われるそうだ。

その手前には、色とりどりの布を広げた屋台が並び、行き交う人々の楽しげな声が響いている。食器とか、絵とか……いろんなものがある。


……着物市も気になるけど、あっちも覗きに行きたいな。




※『手間取り』は、『バイト』のことです。



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